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ノンシリーズ

ジャイアントキリング

作者: 庵字

 五分間の後半アディショナルタイムが終わる寸前に、オウンゴールでまさかの決着。

 今日の新聞はその話題で持ちきりでしたね。なにせ、トップリーグ常勝クラブが大学生に負ける。まさに〈ジャイアントキリング〉でしたからね。

 あなたのクリアミスで生まれた、あのオウンゴール。代表にも名を連ねる、日本屈指のディフェンダーらしからぬミスだったと、どの新聞、ニュースも騒ぎ立てていますよ。

 その話はもういいですか? すみませんが、ちょっとだけ話をさせて下さい。

 実はですね、私、あのオウンゴールは、故意によるものだったのではないかと考えているんです。まあ、聞いて下さい。確かに、そんな行為には何のメリットもありません。普通は。

 ちょっと試合を振り返ってみましょうか。

 下馬評では、あなたのクラブの勝利は間違いなしと言われていました。さきほども言いましたが、何せトップリーグ対大学生です。まず負けようがない。ですが、蓋を開けてみれば、まさかの大接戦。両チーム一歩も譲らないまま、終了間際までスコアレスドローという展開でした。誰もがこのまま延長戦へ突入するものと思っていたでしょう。ところが、そうはなりませんでした。あなたのオウンゴールで勝負が決してしまったからです。


 話は変わりますが、スタジアム近くのマンションで今朝、女性の他殺体が発見されました。スタジアムから走って十分もあれば行ける距離です。死亡推定時刻は昨夜の午後九時から九時半の間。その女性は、午後九時半に部屋を出て、芸能記者と会う約束をしていたそうです。何でも彼女は、ある既婚のスポーツ選手と不倫関係にあり、そのことを記者に暴露するはずだったそうです。相手? いえ、それは分かりません。彼女の部屋には不倫相手に関するものは何もありませんでした。余程注意して付き合っていたようですが、どういうきっかけか、彼女は不倫相手のことを記者に暴露する気になってしまいました。そのことを不倫相手が知ったのは、当日のかなり遅い時間だったようです。

 不倫相手のスポーツ選手としては、何としても彼女の口を封じなければなりません。ですが、その選手は当日に試合がありました。仮病を使って休む手もありましたが、そうは出来ない事情があったようです。いつものようにスタジアムで応援してくれる奥さん、娘さんに加えて、その日は遠い地方都市からご両親も観戦にきていらしたからです。特にお母様のほうは、病気を患っていらして、息子の活躍はいつも病室のテレビでご覧になるしかなかった。ですが、特別に主治医の許可を得ることができ、満を持してのスタジアムでの初観戦だったそうですね。息子としては、そんなお母様に、自分が活躍する姿を見せないわけにはいきませんからね。

 試合は休めませんが、なにせ、その日戦う相手は大学生です。普通にやって負けるわけがありません。試合開始が午後七時。終了は九時前後になるでしょう。試合後にうまく抜け出して、九時半までに「口封じ」をするには十分な時間です。

 ですが、予期せぬ事態が起きてしまいました。相手の大学生が下馬評を覆す奮闘振りを見せたのです。この試合はトーナメント戦ですから、規定の九十分間で決着が着かなければ延長戦に突入することになります。そうなってしまっては、彼女が記者に会う午後九時半までに「口封じ」をすることは絶対に不可能です。試合に決着を着けて、何としても延長戦突入を避けるために、その選手が取った行動が……。

 どうかしましたか、顔色が悪いですよ。ああ、私ですか。私はスポーツ記者ではありません。こういうものです。ええ、捜査一課の刑事です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつもと違うスタイルで、語り手のユニークさが伝わる小説だと思いました。最後の一文が面白怖くて良かったです。 これだけの文字数で不倫、殺人を旨くまとめているのが良いですね。 [一言] 不倫…
2019/01/28 18:12 退会済み
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