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ソロキャンにて  作者: oga
1/2

 「ソロキャン」それは、孤高の試練である。


 












「結構いんな」


 俺の名前は糸国レイ。

年は22だ。

ここら辺は元々、キャンプの穴場スポットだったが、今はちらほらと人がいる。

しかも、女子だけのグループもいるし、時代は変わったのかも知れない。

そんな奴らにテクを見せつけるのが、俺の近頃のブームだ。


「よっ」


 手慣れた手つきでペグを突き立て、ロープを通す。

この単純な作業が、最初はうまく行かない。


「ねえねえ、ペグってどれくらい深くさせばいいの?」


 隣の女子グループから声が聞こえてくる。

ほら、近くに手本があるんだから、見ろよ。

しかし、女子らは俺には目もくれず、ああでもない、こうでもないと言っている。


「……ふん、まあいいさ。 今日はまだ楽しみがあるからな」


 テントを貼り終えると、俺は車の荷台から、コーヒー豆の入った袋と、ペットボトルの水、キャンプ用の小さいガスコンロを取り出した。

新品のキャンプアイテムは、妙に男心をくすぐる。

水を鍋に入れ、コンロにセットする。

そして、口元を捻り、火を点けた。


「外で飲むコーヒー、こいつが一番うまい」


 すると、また声が聞こえてきた。


「ぜんっぜんつかないよ。 これ、無理っしょ」


 女子らは、木の棒を手のひらで回転させ、摩擦で火を起こそうとしている。 

この方法は、キャンパーなら一度は試すが、思いの外大変な為、2回目以降は妥協して、ガスコンロかライターを使うのが一般的な流れだ。


「ねぇ、ライター使わない?」


 女子の力じゃ日が暮れてしまう。

ライターを使う案にはすこぶる同意だ。

ところが、一人の女子が聞き捨てならぬことを言った。


「あなたは全然分かってない。 キャンプってのはね、自分を乗り越える儀式なの。 便利なものに頼らず、自分の力を使う。 それで火を起こせた時、初めて人は成長できるの。 ……それにね、この世で一番おいしいコーヒーは、自分で起こした火でいれたコーヒーなのよ」


「……!」


 俺は、稲妻に打たれたかのような衝撃を受けた。

俺はすっかり中堅キャンパーを気取っていたが、一番大事なことを忘れていた。

それは、キャンプはキャンプアイテムを使う場ではなく、己と向き合う場であるということだ。

都会の便利な生活から離れ、あえて何も無い場所に赴き、出来るだけ自分の力に頼ってサバイバルに身を投じる。

そこで苦難に立ち向かい、新しい自分と出会うのだ。

俺は、鍋の水を捨て、ガスコンロの火を消した。


「ありがとうよ」


 俺はこれから、自力で火をつける。

苦労していれたコーヒーの味を確かめる為に。





終わり




 

 

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