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通勤小説  作者: 透明感
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第5話「金曜日」

第5話 金曜日


「じつは早々に飽きてきちゃってさ。だから今朝はネクタイの歴史なんて調べてたわけ。」


無垢材のログハウスの柔らかい床に手足を投げ出して男は言う。


「あーあ、飽きちゃった。」


と言われても女にはどうすることもできない。


男と女はこれからサバンナに繰り出し、今世紀に入ってから急速に増えてきた、奇形の生き物を捕獲しなければならない。


「でも、仕事なんですよ。飽きちゃったとか言われても……えーと?」


女は自分でも月並みだと思うことしか言えなかった。


「それでネクタイの歴史はどうだったんですか?」


とりあえず、コミニケーションを成立させ、男を仕事場へと連れて行きたい。

正確には、運転できない自分は、男の運転する車によって仕事場に連れてかれるしかないのだった。


(連れてかれる……かぁ)


「それがどうもさ、あんなもの発明したやつ誰だろう、タイムマシンがあればブチ殺してやれるのにと思ってたんだけど。

ネクタイってあれさ、どうやら一人の力でできたものじゃないみたい。

過去には色んなおしゃれしてたやつがいてさ、

けっこう楽しそうなんだよな、

発展の過程が……」


女は話を聞いていなかった。

そっか私は仕事に連れて行かれてたんだなと思うと、とたんに男を説得する気が失せたのだ。


「んじゃまあ、行きますか……。」

女がみるみる仕事に対するやる気を失い空の青さに吞まれかけてきたとき、男が唐突につぶやく。


「……え?」

わけもなく、意味もなく、効果もないであろう屈伸運動を始めた男を見て、女は疑問系の母音を口にする。


「え、なに? おまちかねでしょ?」

「え、いや、なんでもないです。……んじゃあ、行きますか……っと、ほんとに?」

「おいおいお前なに言ってんの?」

「や、なんで、その、急に行く気になったんですか?」


まるで新種の発見のように(しかし二人にとって新種((奇形))の発見は日常のできごとだ)新鮮な目で自説を述べはじめる男。しかしその話は女にはいまいち理解できないのだった。


「この仕事にネクタイ必要ないじゃん。むしろ危険だと思うだよね。これ、噛またり手繰られたりさ。」

「はあ。」

「おれたちの仕事って肉体的にもハードだし、そのくせ危険手当とか、保険とか一切ないし、靴選び一つとっても命脈を左右するじゃんか」

「はぁ」

「でも、この仕事、ネクタイつきじゃん。俺もお前も、ネクタイつけてんじゃん」

「はぁ、まぁ、いちお」

「なんかもう、そのアホらしさがさ、今朝は気に入っちゃった。今朝っつーか、いま?」

「ぜんっぜんわかんないっす」

「ま、そうね」

「……ね、それより、サボりましょうよ。今日は、というより、逃げましょう。あ、あたし海に行きたいです。」

「だめ。」

「…はぁい。」




出社


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