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あなたの願いを叶えましょう  作者: 白提粉連合
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九話

「あー、俺もあの子とお近づきになりたいぜ。

 同じクラスになるんだったら、まだ可能性が無くもないんだがなー」

「全部で10クラスだったっけ? 結構、確率は低いよね」

「そうなんだよ。くっそー、どうして今年はこんなに一年生がいるんだ……」

「いや、去年も同じだったよね?」


 あ、一年生といえば……。

 浩次に聞きたい事があったんだよね。


「そういえば浩次。神子川みこがわって僕達と同じ高校に入学して来たよね?」

「ああ、神子川か。それなら確かに同じ高校だぞ。合格発表の時、わざわざメールを送ってきたからな」

「メール?」

「見てみるか?」


 浩次が携帯を鞄から取り出すと、携帯を操作し、メールボックスを開く。

 僕はそれを覗き込むように見た。



【Message From 神子川】


 無事、合格が決まり、奈良坂ならさか高校に入学が決まりました。呪います。

 横橋君も同じく奈良坂高校に合格したと聞きました。呪います。

 そんなわけでこれからまた中学に引き続き、高校でも横橋君と一緒に三年間を過ごす事になったわけです。呪います。

 これからまた横橋君にはお世話になると思いますが、そこはお互い様という事で横橋君も私に頼ってくれても構いませんよ? 呪います。

 横橋君は勉強が出来ませんからね。高校に受かったのが不思議な程にw 呪います。


 それでは、入学式の日に横橋君に会えるのを楽しみに呪いながら待ってますよ。呪います。

 では。呪います。



 メールを読み終えた僕は顔を上げると、浩次に哀れみの視線を送った。


「……何と言うか、その」


 呪います、の文字を見て、正直、実に神子川らしいと思ってしまった。


「何かの嫌がらせかと思ったぜ。しかも、よく見ると内容も小馬鹿にしてやがるし……!」

「何で浩次が合格出来たのかは僕も疑問に思ってるんだけどね」

「なんだとこの野郎!」


 だって、中学の時の英語のテストに英文を日本語に訳しなさいって問題に大真面目に浩次は『I don’t know.』って書いてたし……。

 試験の時、数学のテストで鉛筆を転がしてたような気が……。


「で、神子川がどうしたんだ?」

「ちょっと用があってさ」

「神子川にか?」

「うん。どうしても神子川にしか頼めない事があってさ」


 僕の言葉を聞いた浩次は、口をパックリと開けた。


「ま、まさか。お前、オカルトに興味を持ってしまったのか!」


「そんな訳あるか!」


 僕はぐっ、と強く自転車を漕いだ。


 神子川みこがわ もえ

 神子川と僕が初めて出会ったのは、小学三年生の時だった。

 彼女は田舎からの転入生で、一体どんな子なのか、学校中に注目されていた。

 教室に入ってきた彼女は、それはすごい美人だった。


「神子川 萌です」


 そう発した声は透き通っていて、男子のほとんどが惚れそうになっていた。

 だが、しかし。その印象は、次の言葉で簡単に崩れていった。


「夢は、世界中の呪いの研究です。呪います」


 彼女はにこやかに言った。その笑顔に悪意は見られなかった。どう反応すればいいか迷った僕は、周りを見渡し、皆の顔からサーっと血の気が引いていったのを見た。


 彼女は、オカルトが大好きだった。いつも朝の読書の時間には、魔方陣が書かれた本を読んでいて(一度チラッと見えたことがある)、昼休みはノートに魔方陣や呪文を一生懸命書いていた(これも近くを通った時に見えた)。


 そんな神子川なら、この呪いを解く方法を知っているかもしれない。


 僕はそんな希望を抱いていた。でも、呪った本人が「ない」と言っているのだから、ない可能性のほうが高いだろう。けれど、そんなの納得できるはずがない! 納得してしまったら僕の人生は悪い方向に進む気がする。というか、その気しかしない。


「じゃあ、何の用だよ? あいつ、オカルト以外のこと、何にも知らねえぞ?」


 浩次が追いついてきた。ちょっと息が切れている。


「それは、まあ良いとして。何で神子川のメアド知ってるんだ? 何でメール来てるんだ? どういう関係?」


 僕が問い詰めると、今度は浩次がグイっとペダルを漕いだ。


「別に。何でもねぇよ」


 浩次は前に行ってしまっていて、どんな顔をしているのか分からない。

 ちょっと、ちょっと待ってよ。もしかして、僕の知らない間にそういう関係になっちゃってるの?


 気持ちのいい日差しを浴びながら、僕たちはついに高校に到着した。

 校門には『入学式』と毛筆で大きく書かれた立て看板が出ている。

 見事に咲き始めた桜の仄かな紅色と清々しい青空が「いかにも入学式」といった雰囲気を醸し出す。


 ここ奈良坂高(通称ナラ高)は、ここら辺では有名な進学校だ。

 生徒の自主性を重んじる校風で、進学校ながら堅苦しく無く、当然のように毎年倍率は高い。


 僕も熾烈な受験戦争を何とか勝ち抜き無事に合格を勝ち取った一人だ。

 まあ一番の疑問は、そんな進学校にどうして浩次が入れたのかだが。


「なんか今、すごく失礼なこと考えてなかったか?」

「気のせいだよ」


 校門をくぐると、様々な部活動の勧誘の声が元気よく響いてる。

 それを無視して、僕らは新入生の教室の案内が書かれた掲示板の方に移動した。

 ちなみにクラス分けは、数日前に学校の方から手紙が送られており、そこで既に確認してある。

 そこには自分のクラスの番号だけが書かれていて、他のメンツがどうなってるのかは全くわからない。


「三組は……東校舎の二階か。よし行こうぜ」


 そう言うと浩次は僕の肩を叩いた。

 神のイタズラか、教師のイタズラか、僕と浩次は同じクラスなのだ。

 クレイジーな学園生活になりそうな予感だ。

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