二十九話
勿論、この露出狂が精霊だと認める事がティリアには出来なかったからだ。
しかし、目の前の男から精霊に似た霊力をティリアは嫌でも感じ取っていた。
それに気配もなく自分の側に現れる事など、精霊でなくては出来ない事だ。
ティリアはしばらく考えた結果、目の前の男を仕方なく、本当に仕方なくだが精霊として認める事にした。
「……何であたしの前に現れたかは知らないけど、ちょうどいいわ。あたしはあんたに用があってここに来たのよ」
「いきなりだなぁ……まず互いに自己紹介くらいはしようよぉ。同じ精霊なんだからさぁ」
「あたしは元精霊よ。あと名前を名乗るんならそっちから名乗りなさい。気分次第であたしも名乗ってあげなくもないわ」
「うわぁ横暴……まぁ、なんだか知らないけど機嫌が良くないみたいだから素直に従うけどねぇ。……自分はアノー。この屋敷にただ一人住む屋敷の主にして、指輪の精霊を務めてる存在なんだぁ。あ、ちなみに彼女は居らず独身だよぉ」
「……あたしはティリア。さっきも言ったけど元精霊でランプの精霊を務めていたわ」
ティリアは男──アノーの発言については特にツッコミを入れる事はしなかった。
ツッコミを入れると面倒な事になりそうだったからだ。
ティリアが名乗った途端、「ええっ!?」とアノーはいきなり声をあげた。
「君がティリアなのぉ!? あの長い事封印されていたっていうランプの精霊!?」
「そうよ。いまではこの通り、精霊を辞める事になって人間として生きてるけどね」
「……さっきから元精霊だとか精霊を辞めただとか言ってるけどぉ……一体、君に何があったの?」
「……話せば長くなるから話さないわ」
「あれぇ? おかしいなぁ。そこの台詞は普通『話すと長くなるわ』って言ってから過去あった事について長々と話す場面じゃないのぉ?」
「……ちっ」
「露骨に舌打ちしないでよぉっ!? 自分、精霊とはいえ傷つくんだよ!? 寧ろメンタルはガラス並みだからそういうのは止めてよぉっ!」
涙目で必死で懇願する精霊とそれをゴミを見るかのような目で見下ろす元精霊。
威厳もへったくれもないと言うべきか、傍から見れば非常におかしな光景だった。
「実はかくかくしかじかな事があったのよ」
「済ませようとしてる!? 話の顛末を『かくかくしかじか』で済ませようとしてるよねぇっ!?」
「はぁ? 何よあんた。あれだけ長く話してやったっていうのに聞いてなかったわけ?」
「聞くも何も『かくかくしかじか』の言葉しか聞いてないんだけどぉっ!?」
「……しかたないわね。魔法を使ってあたしの記憶の一部を見させてあげるわ」
「どうあっても話したくはないんだねぇっ! よく分かったよ!」
アノーは「はあ」と溜息をついてから、ティリアのほうに右手をかざして、目を閉じる。
途端、アノーの周りの空気が霜が降りたように薄く白く輝きはじめた。
「変態のくせに、魔法は綺麗なのね、ちっ」
「褒められてるはずなのに悪口しか聞こえてこないんだけど、なんでだろうねっ!? ああっ! 途中で魔法解いちゃったからやり直さないといけないじゃん!」
「ざまあ」
「ひどいねっ!? 普通にひどいねっ!」
そして、アノーが魔法をやり直して五分後。彼が「なるほどね」と呟き、目を開いた。その黄金色の瞳でティリアを見つめる。
「で、ここにはランプの精霊になってしまった青年を助ける術を探しに来たんだねぇ」
「……ま、そうなるわね。で、どうなの?」
「そんな急に言われてもなぁ。そう簡単には教えられないかなぁ?」
アノーがニヤリと悪そうに笑う。それを見て、ティリアはまた「ちっ」と舌打ちをした。
「じゃあ、どうすれば教えてくれるんですか!?」
今まで、黙っていた雪葉が耐えきれず、少しだけ怒りを露わにしながら、大きな声で叫んだ。
彼女らしくない行動にティリアは驚いた。ちなみに、雪葉のことを「大人しい美人少女」と認識していたアノーも少々驚いていた。
「んー、そうだなぁ」
「変態発言したら、変態でも許さないわよ」
「なんか矛盾してないっ!? それに、もう、変態は決定事項なんだねっ!? ガラスのハートがヒビだらけだよっ!?」
「一言に対してのツッコミが無駄に多い」
「指摘されたっ!?」
「ヒドイやつだ、ぐすんぐすん」というアノーを冷ややかな目で見るティリアとただただイライラしている雪葉。
それに気づいたアノーはスッと表情を変え、何を考えているのか分からない笑顔をした。
そして……。
「それじゃあ、ここでゲームをしよう。そうしたら、教えてあげるよ」
笑顔を貼り付けたまま、そう言った。
「いや、もう、罠とかある時点でゲームな感じするんだけど」
「もうっ! この不思議な感じで収束しようする空気が読めないのぉ!?」
「空気は読むものじゃない、吸うものよ」
「……君って、本当に……」
「で、ゲームって何よ?」
「……そうこないと、ね」
アノーが不敵に微笑んだ。
「さて、それじゃあゲームの説明をしようかぁ」
アノーはパンと手を叩くと乾いた音が書庫の中に鳴り響いた。
遅れてアノーのぼさぼさの長髪が重力に逆らうようにして逆立つ。ティリアは彼の中にとてつもない魔力の胎動を感じ、思わず後ずさりしてしまう。
「な、なんなのよ。さっさとしなさい」
「まあまあ、そう警戒しないでよぉ」
閉め切られた空間であるにも関わらずアノーを中心として風が吹いた。
「ルールは簡単。君たちは十分以内にこの書庫の中にあるただ一冊の本を探し当ててくれたらいい」
「ちょっと。こんなにたくさんあんのよ? どうやって探すの」
「それは君たちにお任せするよぉ。ちなみにどんな手段を使っても構わないからね」
「ティ、ティリアさん……」
雪菜はティリアの背後に隠れるようにしてアノーを見つめた。




