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あなたの願いを叶えましょう  作者: 白提粉連合
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二十二話

 ……薄気味悪い。

 屋敷の中はいかにも何かがいる感じだった。壊れた窓、黒ずんだ床。明かりは何故かロウソクが灯ってい る。だが、ロウソクなので先が見えて安心するというほどの力はなく、逆に不気味さが増している。


 幽霊屋敷。

 そんな言葉がピッタリな外観に紛う事無く、非常に気味の悪い内部。

 大きな窓は無く、全て人間の頭がギリギリ出せそうな大きさの明かり取りである。

 そこから差す青白い月灯りが、不気味さを増大させていた。


 壁にはロウソクが灯っているから、先に誰かが来て灯したということになる。

 しかし、床に積もった白っぽいホコリの上には、僕ら以外の足跡なんて一つもなかった。


「ロウソクなんてあっても、何も見えないわね」


 ティリアが懐中電灯をつける。

 その明かりは、カビ臭い空気の中に光の筋を作った。


 そして玄関口から、懐中電灯で一通り照らすと、ここがエントランスだという事がわかった。

 吹き抜けになっているこのフロアの正面には大きな扉、その両脇に階段があり二階へ続いている。

 更に階段の脇には左右一つずつ扉があった。


 もう僕たちはふざける余裕は無かった。

 完全に何かが違う、普通じゃない雰囲気を感じながら、僕たちは横一列に並んだ。


「あ、あの。本当にこんな所に精霊なんているんですか?」

「間違いありません。同業者からの情報ですから」


 雪菜さんは今にも泣きそうだ。

 僕も先ほどからこの屋敷の雰囲気に圧倒されて口を開けないでいる。


「さて、それじゃあどう調べていくか決めようぜ」


 その点、浩次はスゴイと思う。

 確かに怖がっているのに、何かあれば全くいつもの感じだ。

 コレは馬鹿だからなせる技なのか、僕にはわからないが。


「そうね。じゃあ一番左の扉から順に見て回るってどう?」

「そうだな」


 まあ、どう見るって言っても、隅から見て回るしかないんだから、当然なんだけどね。


 一番左の扉に移動する。


 何だかいやな予感がする。

 扉の中から、気配を感じる。

 ここは後にした方が良いんじゃないか。

 そんな根拠の無い不安が、僕の中を駆け巡った。


「開けるぞ?」


 浩次がためらいも無く扉を開く。

 その瞬間、むわっと異臭が鼻を突く。


「くっさ! 何よここ……」


 あまりの臭さにティリアが鼻を塞いだ。

 確かに強烈なニオイだ。

 僕たちは部屋に入って十歩ぐらい歩いた時だろうか、最前線を歩いていた浩次が足を止めた。


「お前ら。絶対デカい声だすなよ」

「どうしたんだよ?」


 浩次が振り返りながら言った。

 その顔は泣きそうだ。

 そして、人差し指を立てて上下に揺らした。

 ティリアが天井に明かりを向ける。


 パッと見の印象は黒い天井。

 非常に凝った作りで、黒い布のような物が天井を埋め尽くしていた。

 そしてその布は風に揺れながら……


 風?


 そんなの吹いていない。


「うっ……!」


 ティリアと神子川が後ずさる。


 コウモリだ。

 天井を埋め尽くすほどのコウモリ。

 耳を澄ませばキィキィと高い音が聞こえる。

 圧倒的な数だ。


「キャーッ!!」


 雪菜さんが叫んだ。

 それを合図にして、コウモリ達が一斉に飛び立った。

 別に吸血コウモリってわけじゃ無いと思うけど、その半端じゃない量と禍々しさに、僕らは入って来た扉に向かってダッシュした。




 ※※




 無事に部屋を飛び出し、扉を閉めた。

 僕ら全員、肩で息をしている。


「これじゃ調べられるもんも調べられねえな……」


 コウモリ部屋の扉を背にして浩次が言う。


「確かに、これじゃあ厳しいわね」

「でも全部の部屋がコウモリだらけって決まったわけじゃないだろ?」


 ティリアは浩次に同意するが、まだ始まったばかりだ。

 ここは後回しにして、他から探して行けば良い。

 こんな広いんだ、まだまだ可能性はある。


 その時、雪菜さんが震える声を絞るように出した。


「あ、あの……」

「?」


 みんなが雪菜さんを注目する。

 何か意見の提案があるんだろうか。

 それなら聞こうじゃないか。

 雪菜さんがこの中では一番マトモだし。


 すると、雪菜さんは泣きそうな顔をして玄関を指差した。


 あれ?

 何だろう、とても違和感がある。

 さっきと何かが違う。


「玄関が……無くなってます」

「!?」


 僕たちは驚愕した。

 さっき入って来た扉が無くなっているのだから。

 そこには元から何も無かったかのように、壁があるだけ。

 あり得ない、どうして。

 これじゃあ外に出られない。

 窓だって明かり取りしかない。



 僕らが困惑していると屋敷内に、身の毛もよだつような不気味な声が響いた。


『今宵のにえぞ……今宵の贄ぞ……』


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