二十一話
「京くん必殺☆デストロイパーンチッ!!」
「前触れもなくどうして拳を放って──ぐぶぺっ!?」
屋敷に着いた直後、僕はとりあえず憑依が解かれた浩次の顔面をブン殴っておいた。
冷静に考えれば、悪いのは浩次に憑依していた富岡さんの霊なのだが……ダウンした僕達を見て、「オイオイ……車酔いか? だらしねぇな」とか浩次が大爆笑していればムカつきもする。
しかも、それが数分くらい笑い続けた上、地面に転がる程笑っているのだから、更にムカつく。
しかもしかも、一度笑い終わったかと思いきや、ふと僕達の方を見て、また笑い始めるのだから、非常にムカつく。
だから殴った。
しかし、ここで浩次を殴った僕を誰が責められようか?
まぁ、結局のところ……そう、アレだ。
ムカついて殴っちまったものはしょうがないよね☆
殴った勢いで固いアスファルトの上をゴロゴロ転がる浩次。
かなり強めに殴ったつもりだったので、すぐには起きないだろうと思ったのだが、そこは持ち前のしぶと──立ち直りの早さで復活する。
ふらふらと立ち上がる浩次の元に、意外な事に神子川が駆け寄って行き、その身を案じるように浩次の身体を確認していく。
「横橋君、大丈夫ですか? どこか怪我を負ったりしてませんよね?」
「あ、ああ……問題ねぇ」
「それなら良かった……」
安堵の息をつく神子川を浩次はまるで天使か何かに出会ったような気持ちの悪い表情を浮かべる。
「すまん神子川……俺、今までお前の事、誤解して──」
「今、怪我を負ってしまったら、いざという時に盾として使用出来なくなってしまいますからね……」
「──テメェら全員、嫌いだコンチクショウーッ!!」
一変して、浩次はあまりの自分の扱いっぷりに涙を流すのだった。
これは流石に……同情を禁じ得ない。
でも、浩次を盾として使用するのは僕もやろうと考えていた事なので、何も言えなくなった。
……一応、言っておくと、考えてただけだからね? 実行しようとは微塵も思っていなかった……よ?
……本当だからね?
とその時、隣で感嘆の声が聞こえた。
「わぁー……凄いお屋敷ですね……」
「そうね。屋敷の持ち主は余程の金持ちだったみたいね。これはもう豪邸、って言い表してもいいんじゃないかしら?」
雪菜さんとティリアの二人が屋敷を眺めながら会話をしていた。
ティリアの言う通り、目の前にそびえる屋敷は馬鹿が付くほどの広く、大きかった。
大きすぎる屋敷を目の前にして、ポカンと口を開いた僕の横で、浩次も口を開いている。
「さ、行きますよ」
神子川が正面の門を開けようとする。
それを浩次が止める。
「ちょ、おい! 神子川、堂々と正面からとは気合は認めるが、それはどうかと思うぞ」
僕は珍しく浩次の意見に同意した。
しかし、神子川は首を傾ける。
「何故です? こういうのは、門をギィィィっと開けて『さぁ、行くぞ!皆の者!』みたいな感じじゃないんですか? 呪いますよ?」
「神子川、その知識はどこ情報だ?」
さすがの僕もツッコミを入れた。
浩次もそれにウンウンと頷いて……いなかった。
「なるほど、そういう展開もアリか」
神子川にうまく丸め込まれてしまっている。なんでそこで『アリ』という判断が下るのかが、不思議で仕方ない。
いや、浩次なら不思議はないのだろうか……?
「まあ、ちょっと、開けてみるか」
浩次が門に触れた途端、門が開く……のではなく、ガシャコンという派手な音を立てて、倒れた。
予想だにしなかった出来事に、全員が一時停止する。そして、
「浩次、やってしまったな」
「浩次さん、ご愁傷様です」
「……ご愁傷様」
「横橋くん、逆に尊敬します。そして、呪います。アーメン」
「……お前ら……」
四人が同時に言ったために、浩次は見るからに不機嫌だった。
ティリアと神子川が倒れた門を観察する。
「なんだ、劣化してただけみたいね」
ティリアが面白くなさそうに言う。
僕と雪葉さんと浩次は「はぁぁ」っとため息をついた。やはりこういう場所だけに、心霊現象とかそういうものかと思っていた。
「何かの前兆ってことかもしれませんよ」
神子川がそんな発言をするので、僕達三人はまたもやブルブルと体を震わせるハメに。
そういうことは、言わないほうがいいだろ……。
立ったフラグはすぐさま、回収されるのだった。