一話
注意:この小説はリレー小説となっています。
そのため文章がコロコロと変わる場面がいくつがありますが、ご了承下さい。
いつなのかは分からない。
けれど、彼は彼女にこう言った。
「ごめん。ぼくじゃ君とは一緒にいられない」
その言葉は彼女にとって裏切りだった。
彼も自分が口にした言葉の意味を分かってはいたのだろう。
わずかに顔を伏せていた。
それでも、彼女は言わずにはいられなかった。
「一緒に……ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃない!」
「……ごめん」
ただ頭を下げるだけの彼に彼女の涙腺は崩壊した。
溢れるように涙を流し、泣きじゃくる。
分かっていた。
こうなる事は分かっていたのに。
それでも彼女は涙を流さずには、彼との別れを惜しまずにはいられなかった。
それは彼も同じようで、頬に雫があった。
彼はそれでも決別の言葉を言わなければならなかった。
言いたくなくても……別れたくなくても。
血が出るんじゃないかと思う程、彼は拳を握り、歯を食いしばって何とか堪えた。
「君は……ぼくの願いを叶えてくれた。だから今度はぼくが君の願いを叶える番だ」
「いやっ。願いなんて叶えなくてもいい! わたしはあなたと一緒に……!」
彼と一緒にいる事。
それだけが彼女の唯一の願いだった。
それを打ち砕くかのように彼が首を横に振る。
「駄目だよ。それは出来ない」
「嫌だ……そんなの嫌だよわたし……!」
彼がいなくなる事など彼女は考えられなかった。
彼女は彼と笑うだけで、彼と一緒に遊ぶだけで、彼と喧嘩するだけで……
彼が……いるだけで幸せだったのに。
徐々に彼女から離れていく彼に彼女は必死になって手を伸ばした。
いかないで。
わたしを置いていかないで。
そんな思いで伸ばしたその手も彼には届かなかった。
「……心配はいらないよ。君には今度こそずっと一緒にいられる人と出会える。絶対にだ」
本当に優しい笑みを彼は浮かべた。
彼女にはそれがとても残酷に思えた。別れようとしている相手にそんな顔を見せないで欲しかった。
彼女の視界が急にぼやけていく。
いや、黒く、狭まってきた。
別れはもうすぐそこまで近づいていた。
「じゃあね。ぼくはいつまでも君の幸せをずっと願っているよ」
彼は最後まで笑顔を絶やさないようにしていた。
彼女の目の前で微笑んでいる。
「待って! 待ってよ! わたしは!」
もうどうにもならない。
彼との別れは確実なものだ。
別れてしまうのならこれは言わなくてもいい事、言ってはいけない事だ。
ただ、人間は時に理屈を関係無しに行動してしまう事がある。
彼女は言ってしまった。
「あなたの事が……好きだった!!」
彼女がその言葉を言い終えた瞬間、彼女の意識は消失した。
だから、その言葉の後に彼が言った言葉が聞こえなかったのは彼女にとって幸運だったのか、不運だったのかは誰にも分からない。
ただ。
「……ぼくもだよ」
そう呟く彼を誰よりも不幸だったと誰もが思う事だろう。