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暑い休日

作者: プラン9

 その日はうだるような暑さだった。セミの声こそしないもののじめっとした熱気は俺の体内水分を奪い、喉を渇かす。

 腕で汗を拭う。シャツを触ってみると、まるで雨に打たれたようにびっしょりとシャツが濡れていた。赤い帽子を目深にかぶり直し、空を仰ぐ。

 時刻は午後四時、予定より二時間早い到着だ。スーパーの前、美味しいたれのとんかつ屋の前に設置されたベンチに座りながら、俺はそわそわと待っている。

「暑い……」

 ポケットから携帯を取り出し、返信を確認。ポイントが切れたと名前の方に書いておいたので相手が察してくれるだろう。そう淡い期待を抱いている。

 道行く人々は俺を一瞥した後、何事も無いかのように――実際に何事も無いのだろう、通り過ぎていく。

 いわば俺の存在は道ばたに転がっている鴉の死体だ。誰もが一度はちらりと見るが、すぐに興味を失い素通りしていく。そして日を跨げば役所の役員か鴉が綺麗さっぱり片付け、最初から何事も無かったかのように時間が動き出す。

 どうせ俺も同じように思われているのだろう。それとも奇人変人に見えているのだろうか。まあどちらにせよ、関係のない事だ。

 ぴこんっ、と音楽が鳴り、スマホのランプが紫色に光る。約束していた彼女(仮)以外にも次々と俺にメッセージが送られてくる。この痴女の娘にしておけばよかったかな、と俺は今更ながら後悔し始めていた。

『今どんな服装しているのか教えてくれなきゃ、会っても分からないじゃん!』

 そんな感じのメッセージが、約束していた彼女(仮)から送られてきた。時刻は五時五十分、ごめんよ返信出来ないんだ。

 しかしそのような車のエンジン音もしなければ、そのような人も見受けられない。写真と同じ感じの人は全く以て見あたらない。

 だらだらと帽子の中に汗が溜まっていく幻感覚が気持ち悪い。頭がボーッとし、クラクラする。

「ひょっとしたら騙されていたり……」

 いや、まさか。騙されている訳が……相手から送ってくるというのは、少しばかりおかしいと俺も思ったが。確かに思ったが。

 俺は別の、老舗の出会い系のアプリを開く。ポイント88、もう少し溜まってからにしよう。掲示板を見るだけでポイントがかかり、メッセージ送るにもポイントがかかる。200、精々200日我慢すればいいだけの話だ。

 いや、ポイントサイトで換金してからそれで課金するのもありだろうか。ありだな。

「……あっ」

 既に時刻は約束の時間を過ぎている。最初のトークの時に指定した場所には、いっこうに姿を見せない。

 俺は立ち上がり、辺りをキョロキョロ。それらしい人物は見つからない。

 ああ、痒い。どうやら座っている間に蚊に噛まれてしまったようだ。畜生、畜生。

 ポイントサイトはまだ換金出来るポイントではなく、しかも非常に七面倒な事に口座番号もパスワードも忘れている。学業のせいで銀行に赴く事は出来ず、そもそもコミュ障であり、だからこそこうして出会い系をやっていたのだ。つまりは、俺は既に人生詰んでいるという事。

 ああ、畜生痒い。足に二カ所、靴でがしがしと掻く。汗ばんでいて背中にひっついたシャツが不快だ、汗のせいで背中が痒い。

「……来なかった」

 結局俺のつぎ込んだ金は、どぶ川より汚く急な川に飲み込まれてしまったようだ。

 トークアプリでその旨を書き込んでおいてやろう。そして明日出会ったら恥知らずに、旨いネタとして話してやろう。それが俺の出来る、唯一の自分への慰めだから。そう心に決め、俺は慣れた手つきアプリを消す。課金してしまったポイントがまだ残っているが、どうせ持っていても月面の土地権利書程度以下の価値しかないのだから仕方が無い。

 ああ、複雑骨折損の痒み儲けだ。糞が。

みんなも出会い系やる時は、まず料金設定を見て、アプリのレビューを見てからしようね! お兄さんとの約束だぞ!

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