伝説の三大書物
甲国の王によって居酒屋へと向かうことになった五人。そこで甲国の王が話した既死人問題を解決する手がかりとは。
着いて早々、話は既死人のことになった。
「我は米の酒・・・日本酒を頼む。さて既死人のことだが、この世界の科学の力で、その存在を解明できていないのならば、原因は甲国にあると思うぞ」
既死人について進展のない桐島さんはこの話に食いつく。
「この現象が霊によるものと言うのですか?」
「いや、そうではない。既死人については自然現象ではないから、何者かが起こしたと考えるのが妥当だ。この現象を起こすには強大な力が必要だ。だが甲国ならそれを可能にするものがある」
一同が話に神経を集中させる。
「ご注文の日本酒とビール、サイダーです」
それを断ち切ったのは店員さんだった。
「おう、酒が来たか!」
「ちょっと!話の続き!」
間髪入れずリリィは酒を飲もうとする甲国の王を止める。
「おうわかった。わかった。そのものというのは、伝説の三大書物だ。この場合、運命の書が最も当てはまるだろう」
運命の書というのは、運命を変えてしまうものなのだろうか。俺の予想は的中した。
「運命の書とは、その名の通り運命について記されているという書物だ。読むと運命が変わってしまう。良い方向か悪い方向かは分からない。ただし他の二つの書物と同様、この運命の書は読むために、想いか思い出かのどちらかを捧げなくてはならない。それは記憶と意識が強大な力を生み出すからだ。記憶や意識を物質との相対的関係に引き出すことによって力が生まれるのだ。魔力の根源にも関わってくる話だ」
「世界が事実、変な力によって混乱しているからその話は信じることができるが・・・。だとしたら、誰が何のためにその書を読んだんだ」
赤松さんは皆の思いを代弁してくれた。
「残念だが我は術の類いについては初歩レベルでな。運命の書を読んだ者を特定するには甲国へ行かないといけないと思うぞ」
この事態を根本から解決する一つの案が決まった。だがしかし、その国が今も存在しているかどうか、それが不安だ。もしこの事態を解決したとして、リリィはどうなるのか。俺はわずかな間一緒に過ごしたリリィのことを案ずる。
そのリリィからまだ数ある疑問の一つが問われた。
「運命の書以外の二つの書はどんなすごいものなのかしら?」
「残りの二つの書もとても強力なものだ。一つは因果の書と言って、因果を消すか強くするかのどちらかをすることが出来るものだ。しかし使用者は因果が意味を成さなくなり、輪廻における転生が出来なくなる。そしてもう一つの書物は、輪廻の書と言う。人間と同等、またはそれ以上の存在に記憶を引き継いで転生できるというものだ。転生後の運命が新しいものとなるため、持っている運命を捨てることになる。運命の書もこれらの書と同様、リスクがあり、それは使用者が強い因果を抱えてしまうことなどがある。そうやってこの書は、使うべきものが使うようにと、甲国の賢者によってつくられたのだ」
店内でも、自分たちの席だけが緊張感を増している。ビールの水泡がぽつぽつと消える中、俺はめんどくさいことに巻き込まれたと思い憂いていた。
「堅苦しい話はもうおしまいだ。さあ!飲もう!」
すると緊張が解けたのか、皆一斉に自分の飲み物を飲み始める。俺はサイダーを一口飲んで、口の中の刺激を楽しみながら思った。もし運命の書を読んだ奴がいたとしたら、何のために、どんな想いで読んだんだ。とびっきり強い炭酸の刺激がのどを襲った。
――1時間後。
「もう一杯飲もう!」
「もうだめです・・・」
この大男、どれだけ飲むつもりだ。
「みんなだらしないのう。そうだ、みんな我のことを王と呼ぶのは窮屈だろう。そこで我は自分の現代名を考えたのだ!」
絶対分かりづらい名前だろうな。
「その名は、武術の武、歴史の史、おおもとを意味する元気の元、これも元と同じ意味の宗教の宗、それで武史元宗だ」
「読みづらい。ゲンソーさんでいい」
俺は後々のことも考えて反抗する。
「よろしい!気に入った!」
意外・・・でもないか、元気でどこか嬉しそうな声が返ってきた。何でも気に入りそうだなこの人・・・。
「ゲンさんでいいんじゃない?」
「それにしようか」
俺は即答する。かくして武史元宗のあだなを決めたのはリリィとなった。
「元の名前から外れているような気もするがよろしいぞ。ゲンさん!いい響きだ!ワーハッハッハ!!」
返事がなく酔いつぶれている桐島さんと赤松さんを横目で見ながら俺はゲンさんの誕生を祝った。とりあえず。この五人で本当に大丈夫かよと思いつつ、ゲンさんの相手に必死でなる俺だった。
実はこの三大書物、互いに相殺する関係にあるんですよ。なんでも、悪用された時に対処できるようにと施された工夫だとか。今後は運命の書を誰が読んだのか、インビジブル誕生の話も登場すると思うので楽しみにしてくださいね!