もう一人の既死人
ショッピングモールでの事件の後、政府に力を貸そうとしている健太郎とリリス。その二人に新たな既死人が現れる。彼はかつて日本に存在したと言われている甲国の王であるという。甲国の王は何を語るか。
関係者と思われた俺たちは、手配された宿舎でしばらく過ごすことになった。その宿舎には全国から既死人の関係者と思われる人々が集まっているようだ。軽く隔離されている状況だ。そこで政府から秘密裏に会談が持ちかけられた。
「君たちの中にも既に死んだ人間、すなわち既死人と呼ばれる存在もいることだろう。我々政府は君たちとの平和的な間柄を結ぶ為にこの会談を開いた。また君たちは既死人と呼ばれる存在について詳しく知ってもらう必要がある。」
会談というものは、俺たちとの情報交換会らしい。
「なあリリィ、どう思う?」
「政府は今、既死人問題について緊迫した状況らしいね。既死人について情報を集めるのに必死かというとそうでもないみたい。ショッピングモールでの戦闘を見ると既死人に対処する方法も知っているみたいだから」
麻酔銃のことか。そうリリィと話していると政府との会談が始まった。
「君たちも既に知っていると思うが、既死人とは既に死んだ人間のことを指す。この者たちは何らかの原因によって現代に現れた過去に死んだ人間だ。分かっている情報として、基本的に不死身であり、生前の記憶も残っている。物体として存在しており、霊という類いではない。物質も人間と同じ構成をしている。不思議なことに既死人同士での意思伝達が可能であるようだ」
何ら新鮮味のない説明に退屈してしまう。
どうせなら話が進展してほしいので、リリィに意見を言ってもらうことにしよう。
「あの~、ここに既死人がいるから聞いてみてはいかがですか?」
手を挙げながら声を上げる。チラッとリリィを見ると、あわてている。
「わっわ私!?」
「君、何か分かることがあるのかね?」
と会談員に聞かれ、会場に集まっていた人が一斉にリリィを見る。するとリリィは慌てて平静を装い説明を始める。
「あのですね、まず既死人は、恐らく強い想いが実体化した存在だと思うのです。」
「根拠は?」
「私自身、強い想いを感じるからです」
リリィはそう言い終えると席に座った。
「根拠に欠けるが、良い見解だ。今後はその見解で話を進めよう」
その男は思ってのほか素直だった。
「なるほど、それならあの案件にも…」
男は小声で思ったことを口にしているが、マイクに音を拾われている。
「それでは、本題に移ろう。現在、日本で既死人と思われる人間による事件が約二千件起きている。その中でも凶悪な案件が一件ある。その案件を、既死人について最も詳しい君たちが解決して欲しい。もちろん報酬は用意してある。我こそはと言う者は、ここに残って欲しい。ただし、命の保障はできない」
と会談員の男が言うと、大勢の者が部屋から退出した。
結局、部屋に残ったのは、俺らを含めて四名であった。
「勇気ある君たち四名に敬意を表す。申し遅れたが私の名前は、桐島勇助である。これからよろしく頼む」
そう言うと桐島という男は、四人に握手をしていった。そして俺たちは順番に名前を伝えていく。
「中川健太郎です」
「リリス・ヴァーデンよ」
「赤松良継だ。こちらの男は既死人と思われる。俺の知り合いだが、日本語が不自由で今は話せない。名は、しものきみ、と言っている」
俺は一瞬で分かった。その、しものきみという名前の意味を。日本史好きが功を奏した。
「あの…。もしかしてしものきみって、かつて日本に存在した幻の国キノエノクニの王のことでは?」
「キノエノクニとは?」
赤松さんは知らないようだ。
「漢字では甲羅の甲と書いて、きのえ、と読みます。小さな国でしたが、幻術、陰陽術、魔術など様々な術を世界各地から学び、また自国でそれを発展させたり、新たな術を生み出したりして発展しました。西洋、東洋問わず人々や技術を受け入れたのも要因ですが、その地が世界の不思議な力が集まる場所であったから発展したとも言われています。現代の地理学、風水学の粋を結集させてもその地は特定されていませんし、過去日本を統治してきた者もこれを探していましたが、発見には至りませんでした」
長々と説明する。すると桐島さんが興味を示し始めた。
「もう少し説明してくれないだろうか?」
「はい。この国は、この世に現存する唯一の理想郷とも呼ばれていたようです。しかし、残っている文献では甲国の財宝や技術を我が物にしようとした日本の朝廷に圧勝した後、甲国は地理上や歴史上からも姿を消してしまったといわれています」
「大体合っているな中川健太郎」
「!?」
その野太い声は耳ではなく体に伝わってくる。喋ったのだ。さっきまで口を開かなかった甲国の王と思われる男が。それに今という今まで感じなかった気迫がいきなり俺を襲った。
「あんた、喋れるのかい?!」
赤松さんが取り乱す。
「我々の国では交流や会話が重要視される。酒の席が最重要だがな。日本語をこの時まで独自に学んでいたぞ。やっとまともに話せそうな者達が集まったな」
訛のない普通の日本語に皆が動揺し笑みが零れた。そう、あまりにもお喋り好きには見えない風貌だからだ。二メートルを優に超す身長に漫画に出てきそうな肉体、そして何よりその気迫だ。
「よいか、我々の国ではな酒席に身を投じず人の善し悪しを決めてはならないという言葉があってだな、だから今から皆で宴会といこうではないか!はっはっは」
「ギャップありすぎだろこの人…」
「そうだね…」
俺とリリィが半ばあきれる中、後ろでは大笑いする王様。桐島さんはそれを反対すると思いきや…。
「いいですね。お酒飲みにいきましょう」
桐島さんは常識には囚われないようだ。一体、重大な事件の話はどこへ行ったのか、俺達は桐島さんに全て責任を負わせ居酒屋へと向かった。
今回は甲の国という架空の国が登場しました。この国については後々説明を付け足していくので楽しみにして下さい。しものきみという名は当時の日本側がつけたものです。彼の名前は迷っています。
頼りになるおっさんキャラってなんか必要ですよね。僕的には、十分に経験をつんだ大人が健太郎たちを引っ張っていくというか、若い人たちに未来を託すっていうのが好きなので。