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インビジブル  作者: .
3/5

政府介入

 ――朝、か。激動の昨日はどこへ行ったのやら。小春日和ですずめが鳴いている朝は、昨日の出来事とのギャップが大きくて自分でも恐い。

「ご飯よー。健太郎ー」

母に代わってリリィが俺を呼ぶ。まだ疲れがとれないな。そう思いながら食卓へと足を運ぶ。

 食事が終わり、テレビを見てみると驚いた。もう世間は既に死んだ人間が蘇ったことで話が持ち切りだったのだ。

「死んだ人間が各地で目撃されています。それも、生前の姿のまま」

「政府はこの件をどう考えているのか」

「発表はまだなのですか?」

「既死人について何か応えてください」

リポーターが政府関係者と思われる人物に突撃インタビューをしている様子が映し出された。問題は深刻だった。各地で既死人と呼ばれる恐らくリリィと同じように想いが実体化した人たちが殺人や略奪、おまけに闘争まで始めているそうだ。警察はその身元不明の者たちに手を焼いている。さらに世界各地でも同様の案件が急増しているらしく、どの国でも早急な事態の収拾が求められている。

「なあリリィ、どうしたらいいんだ」

「私たちも、無関係ってことにはいかなそうだから、行動してみるのも手よ」

俺たちの小さな決意を運命の女神は察したのかすぐに問題を突きつけた。

「速報です。茨城県つくば市のショッピングモールで立て籠もり事件が発生しました」

俺はテレビを見てゾッとした。運命の歯車が互いに噛み合って動き出したかのような感覚に焦燥感を覚え、俺とリリィは現場へ向かった。

 「もっと速く自転車こげないの?」

「これが限界だよっ」

足が痛くなるまで急いで田舎道をこいで走った。目的地に着いた頃にはもうヘトヘトだ。ショッピングモールには既に何百人もの人だかりができていた。警察関係者、救急隊員、自衛隊員、消防隊員、報道関係者、選り取り見取りだな。選ぶつもりはないけど。

「入るわ」

リリィに連れられこっそりとショッピングモールの駐車域に入る。

「こら!君たち止まりなさい!」

怒声と共に俺とリリィは全力で走った。そして中へ侵入した。

 中は、かつての賑わいを無くし、抜け殻のように閑散としていた。一階は至る所に血液が飛び散っており、倒れている人もいた。しかし二階は様子が一変していた。地獄だ。あたり一面赤色で染まっており、ぽつぽつと人が死んでいる。何があったらこうなる。そこでは人も商品も赤色となしていてまるで一体となっているようだった。すると突然、遠くから銃声が一斉に鳴り響く。

「近づいていきましょう」

リリィは健気に俺の手を握り締め音の鳴る方へ向かった。そこには、複数の人間が黒一色の者たちに銃撃されている姿があった。銃撃された人間は起き上がり警察と思われる人間に飛びつく。まるで野蛮人のように。よく見るとソイツらは半裸であった。しかも槍のようなものや斧と思われる武器をソイツらは警官隊にバッサリと当てていく。見事に警官隊は全滅した。

「あれじゃあ一方的な、まるで狩りだな」

俺は思った。あんなに撃たれてもピンピンしているのを見る限り、俺らに勝算はない。その瞬間、リリィは俺を突き飛ばした。

「危ない!!」

バスッという鈍い音と共に目に飛び込んできたのは、奴らの槍であった。槍は床のカーペットに刺さりブルブルと震える。すぐに立ち上がり背後を見ると、奴等がけたたましい声を上げながら走ってくる。リリィは槍を抜き俺に渡す。

「やるしかねぇ!」

俺は臆病心ながらその言葉を口にした。ここで俺らが何とかしないと…。薄々そう感じていた。リリィは走り込んでくる二人の男の右に回り込み、鮮やかな剣撃を繰り出す。右の男は斬り伏せられ左の男は即座に槍を合わせて突き出す。しかしリリィの剣戟の才は底知らず。相手の槍を斬り落とし、すぐさま男の足を斬りつけ、跪かせて心臓を一突き。見事な剣捌きの後、二人の男たちは浄化されるように消えていった。

「やはり、思った通り。既死人は既死人にしか殺せない。いや既死人が生み出した武器でしか殺せない。それも想いの実体化が所以か」

リリィの言う通りだった。奴らは銃撃されても死ななかった。でもリリィが操る剣には倒された。

「リリィ、その剣は?」

「これは健太郎のヴァルキリーブレイド」

家から持ち出した物だった。どうやら想いが強く詰まった媒体ほど強い武器を現出できるらしい。この剣が媒体になったのか。一息つくヒマはないことを俺らは分かっていた。すぐに臨戦態勢に入る。敵は五人、リリィは勇敢にも集団に飛び込んだ。瞬間、その五人は吹き飛ばされ血が霧のように舞う。圧倒的だ。俺はリリィの恐ろしさと想いの強さを噛み締めることになった。

 スポーツ用品店の前に、奴等が群がっていた。どうやら熊や鹿の剥製に攻撃しているようだ。

「想いが伝わってくる。あの者たちは原始人だ」

リリィは、いや、既死人は互いの想いを読み取ることができるらしい。不思議な力だ。

「彼ら原始人は、太古の狩りの記憶が消えないらしい」

リリィは繊細な感覚で、想いを感じ取っている。二人で様子を見ていると、特殊部隊と思われる部隊が現れ、原始人の集団に何かを撃ち込んだ。撃ち込まれた原始人達はバタバタと倒れこむ。麻酔銃か。その部隊は俺らにも気づいた。

「動くな!フリーズ!」

俺たちはすぐさま連れ出され匿われる。

 政府関係者にはこっぴどく質問をされた。なぜ入り込んだのか、俺のこと、リリィのこと。朝のリリィの言葉を思い出し、正直に事情を話す。どうやら政府といっても、状況は切迫しているらしく、俺たちに協力を求めざるを得なかったみたいだ。


 ――政府の大掛かりな介入。俺は、何かを救いたい、その一心で政府と接触を図った。リリィに何かあれば俺はヤツらを許さないが、世界は思った以上に混乱しているらしく、政府は人道介入をおし進める方針である為、協力をすることになった。これから起きるであろう闘争に身を投げる覚悟で。

今回は原始人の既死人が登場しました。家族を養うために命がけで狩りをしていた原始人たちの想いが実体化してしまったのです。祖先の頑張りも知らずにのうのうと生きている現代人に腹が立ったので登場させました。また、このショッピングモールでの事件には裏があります。ヒントは「世論操作」です。また、誰がそんなことをしたのかも考えると面白いでしょう。

 次回もお楽しみに!!

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