再生理論 第34話
非常に遅くなってしまい申し訳ないです。
ただ本当に、絶対に完結はさせますので。めんどくさくなって適当に完結させるとかそういうこともしませんので、これからもどうかよろしくお願いします。
「・・・これで全部です。私の知ってることは」
「ふむ。そうか。すまないな。長々と」
「いえ・・・」
「この部屋は好きに使って良い。一応触れてほしくない物もあるが、そのくらいは分かるだろ?」
コクリと私は頷く。
「よろしい。さてと、そろそろお客が来る頃だ。私は別に構わないんだが・・・」
パチン、と指を鳴らした。
それとほぼ同時に、長門咲は目を閉じてソファに倒れた。
「少しの間寝ていてもらおう。先方がそう言うんでね」
長門咲を抱えてベッドに向かう。
そして寝かせたのとほぼ同時に、ガチャリと玄関のドアが開く音がした。
「上がるぞ」
男の声だった。
「あぁ。上がってくれ。丁度寝かせたところだ」
靴脱ぐ音と、床を踏む音。そして、ソファに座る音を聞いてから、浅香はそこへ向かった。
ドアを隔てた向こう側にいる人間がタバコに火を付ける音をかき消すように、浅香はドアを開けた。
「わりぃな」
「忙しいんだな。今さらとは。いや、むしろ丁度良いかもな」
「丁度いい?何かあったのか?」
男の問いに、浅香泉は、いや。と言って首を横に振る。
「すまねぇな。事件はまだまだ解決出来そうにない。そっちはどうだ?」
「こっちはかなり進展してる。人間と魔法使いじゃあ差が生じるのは当然だが、中々頑張ってるじゃないか」
男の目の下に出来た隈をチラリと見てそういった。
「お前も刑事なんてやってないでこっちへ来れば良いのにな」
このタイミングで浅香泉はタバコに火を付けた。
「今さら何言い出すんだ。こっちの世界で生きていく。それが俺の決めた道だ」
勤めて落ち着いた口調だった。だが言葉には熱が籠っていた。
「大した覚悟だな。言っておくが、この事件を片づけるのは恐らく私たちだ。客観的に見ても、贔屓目に見てもだ」
「それは分かってる。けどこれは俺なりのけじめだと思ってる」
これも、力強く言った。
「けじめ、か。その言い方だと刑事をやめるように聞こえるが」
「この事件が片付いたらな。俺もいい加減な年だ。刑事なんて職、俺には向いてないと思いながらも長々と続けちまった。まぁその半分は長門の野郎のせいだけどな」
男はタバコを一吸いすると、それを揉みを消した。
煙とため息が同時に出た。
「因縁なのか。運命なのか。偶然なのか。事件の内容以外でも色々と複雑な大事件だな」
「そうだな・・・。まぁ、大きな事件を解決してからの引退ってのも悪くねぇかもな」
そう言って、早くも2本目のタバコに手を付ける男。もとい刑事。もとい石島雄介。
「ところで」
浅香泉はタバコを消すと立ち上がり、キッチンへと向かった。
「動機の方は分かったのか?」
言いながら、コーヒーの準備をする。
「まだだ。本当に、動機だけは未だに見当もつかない。誰からも大した案が出てない」
「そうか」
手を休ませず、背中で声を聞いた。
「そっちはどうなんだ?色々分かってんだろ?」
「分かってはいるが、それを教えたところであまり意味がないだろう」
カチャリと、カップを石島と自分の座る前に置いた。
「そうだな。お前から情報を聞いてサクサク1人で解決、なんてこと出来ないからな」
「人間がそこまで賢くないことは人間が一番知っている。必ず“どうして知ってるのか”といつかは問われる」
コーヒーを啜る。頭を使うときは必ずブラックを飲むようにしている。
「めんどうだなとか思うなよ。それが当然なんだ」
「分かってる」
カップに口を付ける。濃くもなく薄くもない。コーヒー特有の苦みが身体に染みた。
警察で分かっていることは、正直なところ殆どない。
長門初谷が犯人だという証拠はあるものの、いかんせん人数が多すぎる。別物だと思っている殺人事件が長門初谷の仕業ということも考えると、今現時点での被害者の数はハッキリとは言えない。
分かっていることは、長門初谷の家族構成。
姉が2人に、母親が1人。長門初谷が幼少期の頃、長門家はすさまじく質素な生活を送り、文字通り底辺の生活を送っていた。
そして母親が長女、長門岼に殺され、時効はまだ迎えていないものの、今年で15年目。時効は目の前だ。
その際、その現場を目撃した当時少年だった長門初谷はパニックを起こし、家を飛び出した。そして運悪く交通事故で命を落とした。とされている。
現在殺人鬼を称される長門初谷との繋がりは一切確認されていないわけではない。死んだとされている長門初谷と、殺人鬼長門初谷の指紋が一致するという結果がでている。だが、その事件とは無関係であるというのが警察の見解だ。ただ、石島はそうは思わなかった。
それは石島本人が、ある情報から、ほぼ100%の自身を持って確信を抱いていた。
だが、それを同僚や上司になんと説明すればいいのか分からなかった。説明しようにも、それを理解してもらうことがほぼ不可能に近いことだからだ。
まっとうな人間は、まっとうな人間しか信じない。信じたくないのだ。
だから、何かと理由を付けたがる。
おそらく魔法を見るやいなや、それは科学的に証明出来るものだと信じ込むはずだ。
そんな連中に、現象そのものを理解なんて出来るわけがない。科学で説明のつかない物を、どうすれば理解されるだろうか。
「もどかしい。いや、難しいな。私にはマネ出来んよ」
「まぁ俺が選んだ道だからな。腹は括ってるつもりだ」
腹を括るのと、それをまかり通せるかはまったく別問題であることは両者とも承知の上だが、どちらもそんな無粋なことは言わなかった。
ただひとつ言えることは、簡単にいくような問題ではないということだ。
お互いのカップが空になったところで、石島は腰を上げた。
「悪いな。忙しいところに邪魔して」
「構わない。どうせこのあとも忙しいんだ」
それを聞こえたのか聞こえないのか。玄関で適当に靴を履いた石島は、軋むドアを開けてこう言った。
「気を付けろよ」
ただ一言。それだけを言ってドアを閉めた。
「・・・まったく」
どっちがだ、と浅香泉は心の中で思った。
緩慢な動作で立ち上がり、カップを1つ、石島が使っていた方を流しに放り込む。
そして再び自分のカップにコーヒーを入れようとしたところで、ドアに備え付けられた“壊れているはず“のインターホンが鳴った。
『倉敷です。久しぶり。浅香』
落ち着いた声に、浅香泉はウンザリした。