表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
fate ・・・  作者: -彼方-
54/55

再生理論 第33話

私は気が付いた。久しぶりだ。自分の身体なんて。


倉敷は言っていた。自分の術が及ばない範囲もこの世には存在すると。

それは、宇宙の果てとかそういう意味じゃないことはすぐに分かった。




私は、倉敷の人の心の研究にひどく感銘を受けていた。

心理学とかそういうものじゃない。


人の感情を最大に引き出し、思いのままに操るでもなく、それでいて目的は果たせる。

貫くという心を持たせ、その方向を促してやるだけ。その逆もしかりだ。


難しいことなのかどうかは別として、倉敷は随分長いことこの研究を続けているようだった。

一度だけ資料室を覗かせてもらおうと思ったが断られた。


倉敷は資料を残さない。全て一読して処理する。


『僕の研究の資料室は頭の中だからね』


苦笑いしか返せなかった。ニコリともせずに、まるでそれが当然なのだというように言って見せた倉敷は言葉を続けた。


『情報を仕舞うなら頭の中が一番良い。パソコンのようなものでは安心出来ないし、なにより起動させる時間がもったいない。頭に入れておけばいつでも取り出せるからね』



やはり苦笑いしか返せなかった。


倉敷は言う。


『世界はのちに滅ぶ。人間の手によってね。僕たち魔法士はそれを防ぐ研究をしている者が多い。僕のように魔法から救おうとする者、警察官や政治家になる者もいる。特に指定されてないから方法は人それぞれだ』



そんな正義の味方が、なぜ私に手を貸してるのかと聞くと、



『人ひとりが世界を滅ぼせるわけがない。どんなに力のある人間でも、それに抵抗する者がいる。それは僕自身もそうだし、僕が手を出さずとも問題はない。それに、君がやろうとしてることでは世界は滅ぼせない。絶対にだ。世界が滅ばないのなら、僕自身この世界には何も干渉する気にはなれない。それだけだよ』



別に世界を滅ぼすのが目的じゃないから、何も言い返さなかった。

倉敷はとにかく正直だった。嘘をつかない。そして、恐らく倉敷っていうのも本名だし、やろうとしてることも本当だ。


私には理解出来ないことだったが。


ただ、研究してることについては興味があったし、それを貸してくれるというのだから私がここにいる理由はそれだけで十分だ。




人を操る術を、私は持っている。ただ、不完全だ。


倉敷のものとはそもそも原理が違うけど、倉敷の方がずっと扱いは難しく、それなのに私よりもずっと上手い。


長年研究を重ねてきたその差なのかもしれない。



そこまで考えていると、意識がはっきりしていた。

自分の身体はやはり良い。


何もちらつかないクリアな意識は心地良い。


ずっと他人の意識にばかり干渉していたせいだ。普通の状態が、今はすごく良い。




ふいに、誰かが部屋に入ってきた。


とはいえ部屋に入ってくる人物は限られている。


ベッドと、備え付けのキッチンしかない殺風景な部屋に入ってきたのは、やはり倉敷だった。



「どう?自分の身体は」


「うん。やっぱり良いね」


そうだろうねと、幼い笑みを浮かべる。

どうみても20代前半にしか見えないのだが、実際の年齢は分からない。


分かることと言えば、私たち人間の寿命など遥かに超えているということだ。


倉敷は、靴を脱いで部屋へと上がる。ここで朝食でも買って来てくれれば好感度も上がるというものだけれど、残念ながら手ぶらだ。



「よく分かったね」


「うん。そろそろだろうと思ってね。反応が無くなったのは昨日の夜。そのまま眠ったんだ」


「ふ~ん。それにしてもどこ行ったんだろ。咲は」


「多分浅香のところだね。彼女の結界に近づきすぎだ。彼女は自分から動くことは多くないけど、振りかかる火の粉には容赦ないからね。目障りだとか言ってそうだ」



アハハと楽しそうに話してるが、今さらっとヤバ気なことを言った気がする。



「・・・私、大丈夫?」


「さぁね。それは浅香しだいだけど、さすがに首を突っ込みすぎたかもね。本部からどういう指令が下されてるかは知らないけど、方法自体は各自に任せるっていうのが本部からの方針だからね。まっとうな理由さえあれば、彼女は殺人も厭わないよ」


「うわぁ。私ヤバいじゃん。あ、でも本部から私を殺すような指令がなければ、ここで大人しくしてれば大丈夫ってことだよね?」


「まぁそうだね」



うん。これで一安心だ。と思ったけれど、倉敷の言葉で私は目眩がした。



「でもね。本部が見破ってないとでも思ってるのかい?」



冷や汗が背中を伝う。



「長門初谷の殺人。長門純の死。そして君らの、限りなく魔法に近い能力。これだけの材料があるんだ。本部を甘く見ちゃいけないよ」


「え?ちょ、ちょっと待って。どうして私たちの能力までバレてるの?だって・・・」


「残念だけどね。本部っていうのは、その名の通り、世界中の魔法使い、魔法士の本部だ。本部に所属している魔法使いっていうのは、それこそ一声で国ひとつを潰せるくらいの力を持ってる。もちろんそんなことをするような奴が本部には入れないけどね。そんな彼らの生きてきた年月はあまりにも長い。そして、その長い年月の間彼らは、様々なことを見聞きしてきた。推理力という点で、人間が勝てる相手じゃない。無論、それ以外でもね。それでも、まだ足りないのさ。長く生きればいいってもんじゃないのは彼らも分かってるんだろうけどね」


「うーん。なんだかよく分からないけど、私たちのことがバッチリばれてるってことでオッケー?」


「うん。オッケー」



誰にも知られてないと思った。だって、見られた人間の記憶は、私たちに関する記憶は消してあるのだから。



「はぁ~。どうしよう。ねぇ倉敷、守って?」



ちょっと上目づかいで言ってみたりしてみる



「無理だよ」



あっさり言われてしまった。



「僕は戦闘に関してはほとんど素人だ。過去の大戦争のときだって僕は研究所にいたし。それに対して浅香は本業だからね。符術に関してはそうそう右に出る者はいない。殺される前に、消されて終わりさ」



うーん。これはやばい。でも少し考えて、良い案が思い浮かんだ。



「初谷を操れば?あいつなら死なないし」


「あぁ。浅香の弟子と良い勝負したらしいね。結局お互い殺せないってことで終わったらしいけど」


「そうなの?まぁそれはいいとして。どう?操って、浅香さんと戦わせる」


「それも無理だね。弟子に勝てなかったのに、その師に勝てるわけがない」



む。確かにそれもそうだ。



「それに物理的に死なないからといって最強なのとはわけが違う。僕が浅香だったら別の次元に飛ばして終わらせるね」


「う~んもう。どうしようかな~・・・。あ、そうだ!」


「また何か思いついたのかい?」


「うん。あのさ、浅香さんを直接操っちゃうってのはどう?」



うん。これは良い考えだ。

そう思ったら倉敷に笑われた。・・・ツボなのか爆笑している。



「アハハハ。君も恐ろしいこと考えるねぇ。それこそ無理とか言う前の問題だよ。そんなことしたら、浅香にどんな目にあわされるか・・・。あ、でも確か戦争のときにそんなことがあったらしいね」



おーマジか。やっぱり私って頭良いね。魔法使いと同じこと考えるなんて。



「本当に?そんで?」


「うん。なんでも操ろうとした奴は、操る前に浅香に見つかって、不老不死の呪いをかけられて、地面に生き埋め」



・・・・・・・。


んんー。それは悪魔だ。なんというか、痛みを感じさせない拷問という点に置いては最上級だと思う。


・・・それ以前に、単純に最低だ。




「彼女だって感情はある。だけどそれを揺さぶるのは簡単なことじゃない。操るのだって一緒さ。精神力に依存する僕らの方法じゃあかなり難しいね。浅香がと言わず魔法使い全てに対して厳しいよ。100年生きられない人間は簡単だとして、それの何倍も生きてきた者に対しては不可能に近い代物。武器には成りえない」


「じゃあ、浅香泉には勝てないの・・・?」


「うん。無理だね。それこそ同等の戦闘魔術を学んだ魔法使いを雇わないとね」



倉敷の言葉を聞いてピンときた。それだ。



「・・・魔法使い、雇えない?」


「うん。雇えるよ。浅香は割と敵が多いからね。才能を妬んでる奴らは結構いる。すごいよ浅香は。あれでまだ100年生きてないっていうんだから驚きだ」



うーん。100年生きてないのがすごいっていうのは私たち人間には理解出来ないけどね。



「そんでさ。雇える魔法使い、紹介してくれるの?」


「うん。いいよ。そうだね。候補はいろいろいるけど、弟にでも頼んでみようかな」



驚いた。弟いたんだ・・・。じゃなくて。



「弟さん、やってくれるの?」


「やるだろうねぇ。相当浅香のこと嫌いみたいだし」


「良かった~。で、お金は?」


「お金?」


「うん。だって雇うんでしょ?」


「あぁ。そういうことね。お金はいらないよ」


「え!?うそ!?じゃあタダってこと?」


「それとはまた話が違うなぁ。魔法使いにとってお金は報酬にはならないんだ。普通魔法使いが魔法使いを雇うときは、その雇い主の魔力を貰うんだ。その仕事の内容次第でその魔力の量も決まる」



魔法使いの力は、自分の中にある魔力で決まる。だから、他人から魔力を貰えば、その分強くなれるし、大がかりな魔法も使えるようになるらしい。



「えー。私魔力なんて無いよ。人間だもん」


「うん。だから君の場合は、というか人間からの場合は違うね。人間からの依頼の場合、報酬は両者が話し合って決めるんだ。もちろん単純にお金という奴も稀にだけどいるし、死んだ後の魂をくれっていう奴もいる。まぁ本当になんでもいいんだ。無償というときもあれば、とんでもないものを要求してくる奴もいる」


「それって怖くない?何を要求されるのか分からないってことでしょ?」


「まぁそうだけど、君の場合は大丈夫だよ」


「どうして?」


「君は、自分の異常性に気付いているかい?」



異常性・・・。そんなのとっくだ。物心ついたときから分かってた。



「染色体の異常による、魔法に酷似した人間らしからぬ特殊能力。現代の科学ではまったく解明出来ない代物。いや、魔法使いにだって理解し難い能力だ。それを君は生まれたときから持っている。それを提示すれば、誰だって食いつくさ」


「えー。そうかな?」


「そうだよ。実際僕だって調べてみたい。でもそれよりも興味があるものがあるからね。そっちを優先しているだけさ。・・・皮膚と髪の毛1本。恐らくそれが弟に請求される報酬だ」



うわ。超簡単。安い物だ。



「君のことは僕から弟に伝えとくよ。仕事内容と報酬。それから君の能力についても。」


「ありがと!これで一安心だね」


「浅香に弟が殺されなければね」



う・・・。その可能性があったか。



「浅香泉って、そんなに強いの?」


「強い。そこら辺の魔法使いじゃ歯もたたないよ」



そこら辺の魔法使いという言い方に少し笑ってしまった。



「じゃあ弟さんは?」


「まぁそれなりに。でもこのところ会ってないからね。どうなってるかな。でも一応過去の戦争ではかなり活躍していてね。兄としても誇らしかったのはよく覚えてるよ」


「へー。じゃあ強いんだ。・・・ズバリ勝算は?」


「言っていいのかい?」



正直、私はこの質問に後悔した。浅香泉がどのくらい強くて、倉敷の弟がどのくらい強いのかなんて分からないから、それを明確にしたかっただけなんだけど。



「0%さ。奇跡を信じて1%ってところかな」



倉敷は頬笑みながらそう言う。

これを聞いて決めた。私がやる。倉敷の弟には少し頑張ってもらって、そのあとの美味しい所を私が頂く。いくら浅香泉が強いからと言って、戦争で活躍する程の魔法使い相手に無傷何て事は無いだろうから。


傷ついたところを私が・・・。うん。良い作戦だ。というかそれしかない。倉敷の弟が勝てないんじゃあ仕方がない。



「それで、日時は?」



倉敷が問う。



「なるべく早く。遅くても3日後」


「分かった。じゃあ明日にしよう。弟のことだから、きっと今すぐにとか言いそうだけど」



そんなに嫌いなんだ。



「ただ君も覚悟しといた方がいいよ」


「覚悟?」


「だって、君は浅香泉を殺そうとするわけでしょ?もし弟が殺されたら、次は君の番だ。言っておくけど、君じゃあ浅香には敵わないよ。弟は奇跡を信じて1%だけど、君の場合は、あらゆる可能性を信じても1%に満たない。いや、むしろ0%以上の可能性は見込めない」


「・・・分かってる」


「それでも良いのかい?」


「良いよ。構わない」



私は、死ぬのが怖くないから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ