再生理論 第30話
「それよりもさ」
「ん?」
楓が問う。
「交通事故まで目撃されて、そのあとに警察の事情聴取に付き合ったのか?それじゃあ警察も混乱してそれどころじゃないだろ」
「あぁ。それはですね・・・」
「警察の記録にも、ハッキリと貴様は死んだことになっている。にも関わらず、目撃者の名前は貴様の名前が載っている。今の貴様と、当時の貴様を別人だということはともかく、“目撃者と、目撃した直後に死んだ人間”を同一人物というのは無理な話じゃないか?」
目撃者。交通事故によって死亡した者。殺人鬼。それらが同一人物だという矛盾は、“死なない”という条件があってこそ成立する事実。
それらを知らない人間が、それらの事実を理解することは不可能だ。
“死なない”という事実が欠けている限り真相に行きつかない。それなのに、それについての調査などは何一つされず、今の殺人鬼と、当時の事件の目撃者は別人ということで世間は解決している。そして、目撃者と、交通事故で死亡した人物は同一人物と記録されている。
おかしな話だ。
そのおかしな話を、この男はたった一言で片づけた。
「記憶の操作をやってのけるのがいるでしょう?」
ニヤリと、そいつは笑った。
「弟妹はやっぱり助けあわないとダメですよ。うんうん」
男は腕を組んで、2、3度頷く。
「やっぱり。そういうことか。だから・・・」
「あ、分かっちゃいました?んー。さすがです」
「複雑なだけに色々予想したけどな。それが一番筋が通る」
「まぁとにかく。お喋りはこのくらいにして・・・・」
長門初谷は言った。
「死ぬまでやるか?言っとくが、俺は死なない」
驕りも無く、砕けた様子も無く、ただ事実を述べるように。
桐生楓は応えた。
「死なないかどうかはお前が決めることじゃない。それと言っておいてやる。俺は死なない――――――――」
当然のように。答える。
2人の言い分は間違っていない。だからこそ終わらぬ闘いなのだ。
雨が止み、木の葉から雫が落ちる。
2人の鼓動さえも聞えそうなほど、辺りに音は無かった。
耳鳴りさえも響きそうな静けさ。
どちらも、ピクリとも動かなかった。
そして静寂を断ち切るように男は口を開いた。
「まぁ今回は負けということにしといてあげます。一応これからやることはたくさんあるので。それと、彼女は殺さないでおいてあげて下さい。きっと混乱するでしょうし」
「そのつもりだ。そもそも殺す必要もないからな」
「それは良かった。うん。それだけ確認出来ればOKですね。じゃあそういうことで」
なにがそういうことで、だ。と、毒づく暇もなく長門初谷は消えた。
中途半端な事を言い残して。
「まったく。化け物だな・・・」
そう呟いて、カエデは倒れている少女を担いで歩きだした。