再生理論 第25話
更新頻度はひどいものですが、絶対に途中で打ち切りなんてことは致しません。絶対に。本当に。
まだ飽きずに読んで頂けるのであれば、それは本当に涙が溢れるほど嬉しいです。
これからはもっと頑張って更新出来たらなぁ思います。
アサカさんから託された依頼は、意外な形で決着がついてしまった。
依頼初日。依頼場所まで30分もかからずに着いた。
時間は昼の2時。秋でもさすがに照りつける太陽に暑さを感じずにはいられなかった。
すれ違う人はまばら。閑散とした住宅街。
駅を出るまではそんな想像をしていた。実際駅から少しの間は想像通りだった。
しかし依頼主の家に着くと、想像以上の人だかりとざわめきが現れた。
緩い下り坂。それに沿うように似たような住宅が並んでいる。
特に目立った形の家は無く、それぞれが微妙に違う形をしていた。
その中で異質な空気を放っている一軒。
玄関の周辺には黄色いテープ。紺色の制服に身を包んだ人たちがせわしなく動いている。
黄色いテープの周りにはそれに張り付いたように隙間なく様々な人がそこにいる。
ドラマなんかでは見たことはあるが、現実に見るのは初めてだった。
まるでドラマの撮影でもしてるかのような錯覚さえ覚えた。
僕はその光景に暫く立ちつくした後、来た道を辿った。
今日のことを、その日のうちにアサカさんに報告した。
「悪いな。本部からの連絡もたった今だ。まったく。迷惑な依頼主だよ」
「悪いのは犯人ですよ。どうしてこんなことに・・・」
依頼主を含む、その家に住む全員が死亡したらしい。
死亡したのは今日の早朝のこと。匿名で警察に通報があり、駆けつけた警察官は惨事を目の当たりにしたらしい。
家族構成はいたって普通の4人家族。夫婦に子供が男女2人に、犬が1匹。近隣の住民によれば、半年ほど前に引っ越してきたばかりで、特に目立った様子もなく、本当に平凡の家族だったそうだ。
これは調査書類に書かれていたことだ。
「現場は壁から天井まで真っ赤になるまでに血の海。死体はバラバラ。どれが誰の死体なのか分からないくらいに、見事にバラバラ。この猟奇的殺人の犯人だが・・・」
「長門初谷、ですか?」
「まぁ少なくとも警察はそうみるだろう」
Y市で生まれた猟奇殺人鬼。彼はそう呼ばれている。
一度会ったときはそうとは知らずに話していたが、僕にとっては特に悪い人ではない。いたって普通のふざけた人だ。
その殺人鬼の仕業だと、アサカさんは断言しない。
どうだろうなと、腕を組んで考え込む仕草をする。
「何か理由があるんですか。長門初谷を疑うに留まる理由が」
「まぁ証拠も今のところ無いわけだしな。それよりもだ。今回の殺人。そして、長門。なにか繋がらないか?」
「・・・何かありましたっけ?」
「15年前に、長門家の長女が自分の母親を殺した殺人事件だよ。あれもバラバラ死体だった」
あぁそういえばと、何時間も新聞とにらめっこをしていたのを思い出した。
「15年前の事件では、未だに物的証拠が出てきてない。時効も迎えた。長門岼を犯人と示すものは目撃証言と状況証拠のみ、というのは分かっているだろう?」
「はい。それが、どうかしたんですか?」
「現在の法律では、証言だけで犯人を捕まえることは出来ない。信憑性の問題でね。状況証拠でも同じことが言える。ということはね、15年前の犯人は長門岼ではないという可能性もあるってことだ」
犯人を断定出来るだけの状況、目撃。それが揃っていて、警察も被疑者として長門岼を公表していた。
どう考えても彼女しかあり得ない。警察がそう認めたのだ。
しかしそれを、アサカさんは真っ向から否定した。
15年も前に、すでに犯人と断定されていたのが、今になって犯人ではないと言うのだ。
「じゃあいったい誰なんですか?」
「さあな。でもよく考えてみろ。15年前の事件を目撃者は誰だった?」
「長門初谷ですね」
「そうだ。しかし、長門初谷は目撃した直後どうなった?」
「その後、ですか?」
よく分からない僕に、当時の新聞を投げて寄こした。
そこで僕は、さらに衝撃的な事実を目にした。
「まさか・・・。でもそんなことって・・・」
「そう。長門初谷は死んだことになってるんだよ。交通事故でな」
「でも、今は普通に生きてるじゃないですか」
「そうだな。だが、それも最近のこと。これまでの10数年間、彼は何をしていた?死んだのならば、その目撃証言とやらはどこから出てきた?矛盾だらけだよ。その事件は。まぁそもそも、可能性だからな。私の言ったことは」
確かに長門初谷は死んだはずだ。そう記事にも書かれているし、仮に今有名な『殺人鬼、長門初谷』が当時の目撃者となっている長門初谷と同一人物だとして、交通事故に大爆発。その状況の中、生身の人間が生きてることなどあり得るのだろうか。病院などにも行かずに。
矛盾することばかりだ。分からないことも多すぎる。
「だから私はこう考える。殺したのは長門岼ではない。そして、今回の事件も、長門岼の仕業でも、長門初谷の仕業でもない何者かの仕業だ」
筋を通すには、恐らくそれしかないのだろう。それでもやっぱり僕はひっかかっていた。
「15年前の事件と今回の事件、犯人は同一人物なんですか?」
「そうだな。こんなことが出来る人間がそこらじゅうにいたら、大変なんてもんじゃなくなる。まぁカエデは分かってるんだろうけどな」
「カエデが、ですか?」
「あぁ。そうだろ?」
「あぁ。分かってる」
いつからいたのだろうか。カエデはドア近くの壁に身体を預けて立っていた。
澄ました顔はいつも通りで。いや、むしろ楽しそうなようにも感じた。
「15年前の事件。今回の事件。そして、依頼。全部繋がるんだよ。1人の女でな」
抑揚の抑えた声が響いた。
「だから、今回の依頼はこれで終わり。金も出ない。キレイさっぱり。お前の出番は無いよ。そうだな。交通費程度なら出してやらないこともないが」
「いいです。どうせ後で返せとかって言うんでしょ」
「返せとは言わない。その分サービスして働けとは言うかもしれんが」
こういう人だ。朝香泉さんは。
「分かりました。僕は帰ります」
それだけ言って、僕はアパートを後にした。
ドアが閉まったのを認めてから、朝香泉は口を開いた。
「カエデ。仕事だ」
「分かってる。」
「そろそろ限界だそうだ。本部も何かと厄介事を抱えてるらしい」
「そんなのいつものことだろ。それよりさ。長門初谷をやれってことは・・・」
「そう。あいつもだ。どちらが先でも構わんそうだ。早急に、とのことだ」
「事後処理はどうなんだ。本部に任せられるのかよ」
「そのくらいはやってもらわないと困る。一応お互いに仕事なわけだしな。厄介事がどうこうの問題じゃない。やらせるよ」
「そう。分かった」
感情のない声のやりとりが終わった。
感情の無い眼差しをそのままに、少女はアパートを後にした。
その足で仕事へと向かった。