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fate ・・・  作者: -彼方-
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再生理論 第16話

「アサカさん、ありましたよ」


「貸してくれ。まったく、どうも地味な作業は苦手だ」


「というか、アサカさん、殆どコーヒーを啜ってるだけじゃないですか」


「これも仕事のひとつだ」


そう言うと、やっとやる気を出してくれたのか、タバコの灰を揉み消し立ち上がった。


正直、20数年分の新聞から、1人の名前を探し出すのは容易なことではなかった。


この部屋にはパソコンは無い。いやあるのだが、インターネット回線が引かれていない。

ネットカフェにでも行けばいいんじゃないかという提案は、無言で否定された。





「“惨殺事件”か。ベタなネーミングだな」



そんな見出しにダメ出ししつつ、パラリとページをめくる。



「まさか、長門初谷の名前が15年前にも出ていたなんてな。よくマスコミが嗅ぎ付けなかった。小さな事件だから、とは説明しにくいが、どうでもいいか」



几帳面そうで、案外面倒くさがり屋な人だ。とは口に出さずにおく。



「それで、どんな感じですか?その事件の概要は」


「至ってシンプルな事件だ。長門家の長女。長門ゆりが母親の長門(すみ)を殺害。その方法は未だ分かっていない」


「確かにシンプルですけど、嫌な事件ですね」



家族を殺す、なんて、イマドキ珍しくもないんだろうけど、やはり親族を殺すというのはイメージが悪い。いや、イメージの問題では無いんだろうけど。



「お前さ、事件に嫌もクソもないだろう。いい事件なんてもの、今までにあったか?」


「そりゃないですけど」


事件を定義すると、“問題となるような出来事”だ。


問題になるような出来事で良いことなんて、恐らくないだろう。


「まぁ、どちらかと言えば、この事件は“嫌な”方に分類されるだろう」


「嫌なほうって、何かあったんですか?」


「あぁ。なんでも、通報を受けた警察が駆けつけたとき、居間は血の海と化していたそうだ。床から天井まで。壁紙が元から赤いんじゃないかっていうくらいにね」



「でも、犠牲者は長門初谷と長女を除いた家族全員ですよね?何人家族かは知りませんけど、血の海くらいにはなるんじゃないんですか?」



想像すると吐き気がするが、惨殺というと、イメージ的にはそっちの方がしっくりくる。



「それがな、犠牲者は1人だけなんだ。さっきも言ったろ?“長門岼が母親を殺害した”と。血も全て母親のものだったそうだ」


「ってことは、1人の血で部屋を血の海に、ってことですか?それはありえないと思いますけど」



僕の反論を無視して、本日3本目のタバコに火をつける。



「死体の状況は、俗に言うバラバラ死体で、まるでミンチにされたくらいに、見事にバラバラだったらしい。まったく。誇張された記事なんか読みたくないな」



「それにしても、よく被害者が1人だけで済みましたね」



「狙いが母親だったらしいからな。計画を立てた上で、それ以外の殺人は犯さず、と記事に書いてある」



カサリ、とアサカさんが新聞をめくった。



「狙いが母親、なんて、まるで犯人に聞いたみたいですね」



「信用出来ないか?」



「ええ。だって、未だに捕まっていないのに、どうして『狙いは母親だった』とか『計画を立てた』なんてことが分かるんですか?証明になるような物でも見つかったんですか?」



「あのね、証明になるようなものっていうのを証拠って言うの。それに、この事件には目撃者がいたんだよ」



え?!と素で声を出してしまうほど驚いた。


対してアサカさんは澄ました顔でコーヒーを啜っている。



「目撃者って、近所の人とかですか?家族はいなかったんですよね?いたらさすがに気がつきますもんね」


殺人の起きたとき、家にいれば、いくらなんでも物音で気が付く筈。と予想していて当然だろう。


しかし、アサカさんの発言でそんな勝手な憶測はぶち壊された。


「いたよ。殺人現場は居間だ。2階にいれば、そう奇妙な物音がしない限り不審には思わないだろ?他の家族がいれば尚更だ」



確かにそうだろうけど、ということは。



「あの、まさか、家に家族がいるのに、その家の中で殺人を犯したんですか?」



あぁ、と言うアサカさんはいつも通り澄ました顔。


まさか、というか、なんだろう。このキモチ。



更に、気が付いたことがもうひとつ。

第六感てヤツ。

 

「あの、その目撃者ってまさか・・・」



「長門初谷。のちにY市一の殺人鬼となる、幼い少年だ」



あぁ、なんていうか、さすがに、驚きとかを通り越して、ただ黙ることしか出来なかった。


いや、とりあえず意識を保てたことを褒めてもらいたいくらいだ。


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