再生理論 第10話
「以上、239名。本校への入学を認める」
そんな声が体育館に響いた。
いちいち、1人ひとり名前を呼んで返事をさせる。まるで軍隊のようだ。
そんなことはどうでも良かった。
このとき俺は神を恨んだ。
運命などと意味づけて、嫌がらせめいた偶然を起こす。
桐生さん、久しぶり、なんて、まるで同窓会で会った元友人に挨拶するかのような口調でアイツは俺に近寄ってきた。
偶然、というのか。しかし、ここを選んで失敗だった。
単に、事務所の近くだというだけで選んだこの高校の男女の割合は9:1。圧倒的に男子の多い学校で、それだけ男子が多ければ会う確率も高くなる。
自分で自分に腹が立つ。
しかし、それも、意外とすぐにおさまった。
今はとりあえずアイツと同じクラスで無いことを祈るばかりであったが、同じか否かということはすでに決定事項なので、俺が祈っても仕様が無いことだった。
『まぁ、今更考えても』
なんて、諦め半分な思考で終わりにする。
「では、生徒は担任の先生の指示に従って教室の方へ戻って下さい」
そんな言葉が響くと、それまで静寂を保っていた空間がざわめき始め、暫くして、ゾロゾロと、まるで蟻の行列のように体育館の入口に生徒が向かっていった。
そんな中に入るのが嫌で、少し待っていると、不意に名前が呼ばれた。
「・・・何?」
「何?じゃないよ。桐生さん、久しぶりだね」
彼方眞澄がそこにいた。
「久しぶり」
「いやぁ驚いたよ。桐生さんがこの高校だなんて。桐生さんならもっと上を狙えたんじゃない?」
ほんと、勝手だ。
久しぶり、なんてそっちが勝手に消えたんじゃないか。
桐生さん、桐生さん、と、こいつにイラついているのか、または高校を選んだ理由を話すのが面倒になったのか知らないが、思わずこう言ってしまった。
「苗字で呼ぶな」
そう言って、悪態をついてみた。
そんなやりとりをしていると、いつの間にか人はいなくなっていた。
体育館から出て行こうとするときに、後ろを振り返ってみた。
アイツは、何やら考え込んでいる様子で腕を組んで俯いていた。
「どうした?」
そう声を掛けると、ハッと顔を上げる。
「いや、何でもないよ。それより・・・カエデ、クラス一緒だね」
カエデ、と言う調子が、何となく無理をしている気がした。
言っているのは向こうなのに、こちらの方が気恥ずかしくなってしまう。
けど、何だかおかしくなって、笑いそうなのを喉の奥で殺した。
ただ、そのあとの言葉によって一時洗脳されたような気分になった。
「・・・何だって?」
「クラス、一緒。カエデ6組でしょ?」