再生理論 第8話
不良の右ストレートは空を切る。
ブン、という音が虚しく鳴った。
距離にして約30センチ。外すはずもなく、それは紛れもなく“躱した”ことを意味していた。
「いやいや、君たちそんなことを考えていたの?あぶないじゃん。当たったら痛いだろう」
その言葉を、不良たちは正面からではなく後ろから聞いた。
「でも俺もそういうノリ嫌いじゃないぜ?何か男の中の男って感じ?そう、男っていう字を漢て書くくらい?」
いつの間にか赤いコートを着た男は、もとい漢は3人の後ろに立っており、その長身で3人を見下ろす形でいた。
「でも不意打ちは格好悪いぜ?やっぱ男は正面切って1対1。もちろん素手で殺り合う
決闘スタイル。いいね、この響き」
そう言って長門初谷は腕を胸の辺りまで上げてボクシングスタイル。
「ふざけやがって・・・!」
お決まりの文句で不良たちは長門初谷を威嚇し、途中で拾った、長さおよそ40センチの鉄パイプで殴りかかった。
「武器は無しですって」
ブン、と先ほどと同じような音が鳴る。
それと同時に、鉄パイプを持った不良の頭上から、首へかかと落としが直撃。
鉄パイプの軌道は上から下。
故に、上に飛び上がったのでは当たってしまう。
だが現実として長門初谷は上にいた。
カラン、という音とともに鉄パイプが地面に落ちた。
同時に頭がおかしな方向に曲がった不良の1人が倒れ込んだ。
素人でも死体と感知出来る死に方。
頚椎の辺りが完全に折れ曲がっている。
それを認めるのと同時。長門初谷は落ちた鉄パイプを蹴り上げ、右手に備える。
コンマの静寂。
ゴグリ、と唾を飲む音が響く。
音は鳴らなかった。
否、音よりも速かった。
気がつけば辺りは血の海だった。
1人は顎から脳天に向かって鉄パイプを突き刺され、もう1人は正拳突き。いわゆるボディーブローにより拳から肘近くが腹部を貫通。
まさに一瞬の出来事。
瞬きをしていては見逃してしまう。
比喩でも誇張でも無い。
現実に起きた、非現実。
時間にして1秒足らず。むろん長門初谷1人の仕業だった。
悲鳴を上げる暇も無い。
走馬灯を見る暇も無い。
鮮血を鏡の如く映し出し、そこに映るは返り血を浴びた赤い悪魔。
赤いコートが赤に染まる。
「お腹空いたな。マスミちゃんの家にでも行きましょうか。あ、でも女の子の家に勝手に入るのもマズイな」
そう呟く殺人鬼。
ピチャ。
鮮血の液体が滴り落ちた。
長い長い夜の、一瞬の出来事。唯一の目撃者と言えば、夜空に煌く星と、一人の女性だった。




