再生理論 第5話
「カエデか。遅かったな」
体をパソコンに向けたまま、ノックもせずに入ってきた少女を迎えた。
少女は手に持った荷物を床に置くとそのままソファーに腰掛け、怪訝な顔つきで話し始めた。
「さっきあいつがいなかったか?」
特になんの反応も示さない女性に少女は少し腹が立ったのか、眉間に皺を寄せる。
「どうしてだ?」
「私に礼がしたいといってな。もう1人いたが、立ち寄らずに帰ったようだ」
「そんなことを聞いてるんじゃない!」
立ち上がって声を張り上げた。
しかし女性は動じなかった。
動じずに、ため息を吐いてから話始めた。
「結界を専門とした符術師であろうと無いものを防ぐことは出来ない。現に私は、あいつが近付いてきていることはおろか結界に触れたことすら気がつかなかった。
ここのアパートに張ってある結界は、物理的なものじゃないのはお前も良く分っているだろう?」
間接的とも言えるだろうか。
物理的な物なら近代兵器。その他火器類を使用すれば破壊は可能。コンクリートも素手で壊すことは不可能でも道具を使えば木端微塵にすることなど容易い。
いくら堅い物であろうと破壊出来ない物は殆ど無いと言ってもいいだろう。
熱で溶かすことも。
ミサイルを撃ち込むことも。
重機を利用して砕くことも。
堅い物があればそれよりも堅い物をぶつければ破壊することが可能。
単純な物質の硬度や当て方の問題。
しかし物理的な物では無く。
素手で触れられずに。
あることすら気がつかなければ?
それは最強の城壁と成りうる。
精神に施す鉄壁の防御。
現に、ソノダという男はアパートを直前に引き返している。
自らを符術師と名乗る浅香泉。結界師としての能力は昔から秀でていた。
が、事実このアパートの結界はそんな大袈裟なものでもなかった。
「ここの結界くらい、誰にでも破れるさ。異界に繋がるわけでもないんだからな。最強の結界を張らなければあいつには効かないだろうね。・・・まぁ別に害があるわけでも無い。放っておいても問題ないだろう」
そうは言うが、実際に問題は起きているがそれもまた放っておいても問題はないと、譜術師はそう判断をした。
「もういい。俺は勝手にさせてもらう」
「構わないよ。だけど、殺すなよ」
背中でそれを聞いて、桐生楓はアパートから出て行った。