君の雨
雨が降っていて、思いつきました。
雨の音って、私はすっごく落ち着きます。晴れの日よりも、優しくなれる気がします。
その気持ちを少しでも伝えれたらいいなと思います。
「暖かい晴れの日よりも冷たい雨の方が好きだな...」
君は涙を流しながら僕に笑う。
冷たい雨に打たれて、身体の芯まで冷えているはずなのに、心があったまるような笑顔で笑っている。
どうして?
こんなにも寒いのに。
僕は君に問いかける。
冷たい雨も木や花には恵みで、僕たちの生活も彩られる。
けれど、寒くて風邪を引いてしまう。外で遊べない。
暖かい晴れの日の方が、楽しいと思うんだけどな。
「そうだけど...。なんだかね、心が洗われる気がするんだ。あったかくなって、《あぁ、泣いてもいいんだ。》って思えるんだ。」
君はいつもよくわからないことをいう。
僕には理解できない、君だけにしかわからない感情。
僕はもっと君を理解したい。
君の全てをわかりたいのに。
君はどうしてそんなに遠いんだろう?
ねぇ。
君は誰よりもあったかくて、
誰よりも愛おしくて、
誰よりも届かない高嶺の花なんだ。
そんな君もいつか誰かのために咲く花になるのかな?
誰かの手の中で大事に大事に育てられて、
毎日水をもらって、
よく日の当たるところで咲くのかな?
ねぇ、どうして君は泣いてるの?
冷たい雨が好きなんでしょ?
「この雨はね、全てを許してくれるんだ。心の傷も、涙の跡も、後悔も反省も。全部全部許して、癒して...。そして、救ってくれるんだ。」
雨は傷に染みたら痛いよ?
苦しくて苦しくて泣きたくなってくるのに。
どうして君は雨を抱きしめているの?
雨は壊れないもののはずなのに。
どうしてこんなにも崩れてしまいそうなんだろう。
君は雨に全てを許されたの?
僕は君が雨に打たれるたびに、消えていくように見えるんだ。
僕の目の前から、明るい笑顔のまま。
ねぇ。雨は雨でしかないんだよ。
心を暖めてはくれないんだよ。
全てを許してなんかくれないんだよ。
それなのにどうして、
君はそんなに雨を好きでいられるの?
冷たくて、寒くて、
外で遊べなくて、
泥だらけになって、
川の勢いが増して、
氾濫してしまうのに。
「《雨は雨でしかない》か...。君にはそう見えるの?雨はね、あったかいよ。心を洗ってくれる。自分の過ちを許してくれる。雨は自分自身なんだよ。」
自分自身?
雨は気付いたら降っていて、
緑を豊かにして、飲み水をくれて。
そんな存在じゃないの?
雨と僕に似ているところなんて、一つもないよ。
雨が僕で、僕が雨なら。
今の僕は何なのかな?
雨が雨じゃないのなら。
どこから来て、どこへ行くの?
「雨はね、空から降って、空に行く。そしてきっと《現在》もそうなんだ。僕たちがいる《現在》って、雨と似ているんだ。つかめなくてよくわからなくて、遠いんだ。それに自分自身もね、よくわからないよね。」
自分の心?
雨は僕の心なの?
許されたい僕と、
許したい僕が映っているの?
空って、どこなんだろう。
遠くて近い空。
掴もうとしても掴めないけど、
確かにここにある。
それじゃあ雨は何なんだろう。
空から来て空へ行く雨は、一体《何》なんだろう。
どこれも行けない僕らには、一生わからないのかな。
ねぇ。
雨って何なんだろうね?
「雨はね、自分の心だよ。鏡なんだ。自分を許したい自分の心と、許されたい心が映るんだ。自分自身のね苦しみも痛みも、楽しかったことも。自分自身じゃなきゃわからないことってたくさんあるよね。雨は自分の心だから。わかってくれてるんだよ。」
「雨ってね、冷たいよね。打たれると寒いよね。ずっとは触れていたくないよね。それって、自分自身の心の傷と一緒じゃないかな。心の傷って触れたくなくて、冷たい。心が震えてる気がする。そういうもの。雨はね、一緒だから慰めてくれるんだ。分かち合ってくれるんだ。晴れの暖かさは、癒してくれるはけど、分かち合ってはくれないんだ。ただ、《頑張れ。》って、どこか他人事。だから雨が好き。冷たい雨は一緒に前を向ける。苦しい時って、いつも雨が降っていたような気がする。それって、苦しい時にいつもそばにいてくれたってことだよね。いつも隣にいてくれた雨が好き。泣きたい時も、逃げたい時も全部雨が降っていた。晴れの日はね、楽しい時を照らしてくれるけど、苦しい時は見えないんだよ。だから雨が好き。苦しい時にそばにいた。泣きたい時に心に落ちてくる。そっといつの間にか心の中にいたんだ。そんな雨が好き。《雨なんか嫌いだ》って言われても、降り続ける雨が好き。世界にね、晴れの日しかなかったらつまらなかったと思うんだ。たとえ雨がなくて花が咲いても、水が飲めても、あの雨がなかったら立ち直れなかったことがある。雨のおかげで自分を見直せた。だから雨が好きなんだよ。ずっと、絶対に。」
最後の最期まで君は泣きながら笑っていた。冷たい雨に打たれて、凍えているはずなのに、僕の心を照らす笑顔で笑っていた。
その涙が、苦しみを全部持って行ってくれたみたいに。
その身に降る雨が、君の心を洗い流してくれたみたいに。
迷いや、戸惑い、そんなものは一切ないような笑顔だった。
君は僕を見てその笑顔をさらに明るくさせた。
「だからねぇ、苦しまないで。幸せだったんだ。幸せだよ。いつもそうだね。いつも人よりも苦しむ。誰にもわからないところで泣いているんだ。だからね、雨に身を任せてごらん。自分自身じゃなきゃわからない事ってあると思うんだ。自分自身じゃなきゃ直せない傷も。」
君は笑う。
泣きたい時は思いっきり泣いて、
笑いたい時は思いっきり笑う。
そうだね。
君って、そういう人だったよね。
いつだって僕の前に立って、届かないところから手招きしてるんだ。
だから、僕が《待って》と叫んでも笑いながらさらに遠くへ行ってしまう。
いつも僕は君の背中を追いかけていたけど、そうだ。
雨の日だけは君は立ち止まって僕の隣にいた。
いつもの笑みとも、いつもの涙とも違うもので覆われて、立ち止まっていたね。
今日もきっとそうなんだ。
雨だから。
冷たい雨だから。
君は立ち止まって僕の隣にいるんだね。
そして、晴れてもいなくなるんだね。
今日の君の顔は、
いつもの晴れの日の顔とも、
いつもの雨の日の顔とも違う。
もっと晴れやかで、
もっと苦しそうで、
もっと楽しそうで、
もっと明るくて、
もっともっと幸せそうだ。
「やっとわかってくれた。私は雨だよ。いつも君の苦しみを分かち合う雨。辛い時にそばにいる雨。冷たくて、寒くて、凍えそうな雨。ねぇ、君は幸せだったのかな?君は私には遠かったよ。ねぇ、いろいろ伝えたいよ。だけどね、私は雨だから。空から来て空へ行くの。だからさよなら。」
そう言って君は消えた。
ねぇ、君は僕を遠く感じていたんだね。僕が感じていた想いと同じだったんだね。
ねぇ、僕もまだ話し足りないや。
聞きたいことも、聞いてほしいこともまだまだたくさんあるんだ。
だからねぇ、君の雨に話そう。
君は雨で、雨は君。
そして、雨は雨で君は君。
ねぇ、最後に聞こえた言葉が僕の空耳じゃないなら、
自信を持って答えるね。
➖僕は君と同じくらいに冷たい雨が大好きだ。
読んでくれてありがとうございました。
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雨の日の冷たさだけじゃなくて暖かさが伝わったら幸いです。