告白
葵が目を覚ましたのは、保健室のベッドの上だった。ベッドのすぐ横にはパイプ椅子に座る優斗がいた。
「気分はどうだ?」
聞かれても、葵は答えなかった。倒れた時ほどではないが、まだ耳元がざわつく。優斗は葵と同じように青ざめていたが、明るく言った。
「急に叫んで倒れたからビックリしたよ。保健室の先生は、疲れが溜まってるんだろうって言ってたけど」
「…声が聞こえる」
葵がぽつりと言う。
「え?」
「切られる木、摘まれる花、焼かれる森…みんなの声が聞こえるの」
葵は、世界の悲鳴を聞いていた。伐採や焼畑に苦しむもの達の叫びを。彼女の白い頬を一筋の涙が伝う。
「いつだったか先生が言ってた。今、世界は環境破壊に苦しんでる。植物は大地の恵みを吸い上げるポンプみたいなものだから、それがなくては私達は生きてはいけない。だから、緑は大切にしなさいって」
「うん」
優斗はじっと葵を見つめていた。その目は真剣だった。葵は自分に起こった能力について優斗に全てを話した。心の中でヒノキに謝りながら。
「そんなこともあるんだな、世の中ってのは」
笑い飛ばすことなく葵の話を聞いていた優斗は、話を聞き終わるとただ一言そう言った。
その日、葵は母親に学校まで迎えに来てもらい、早退した。時々夕立が二人の乗る車を勢いよく洗った。
夜になるとますます激しい豪雨が街に降り注いだが、植物の声が強烈な雨音や雷鳴に掻き消されるので、かえって葵にはありがたかった。