表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

ふたりの時間

 それから毎日昼休みになると、葵はあのヒノキに会いに行った。友達とかくれんぼをしつつ、花に水をやり、ヒノキと色々な話をした。


「あなたは何歳なの?」


 葵が聞くと、ヒノキは分からない、と答えた。


「この学校ができた頃からだから、100歳近いかな」


「100歳!?」


 まだ10年も生きていない葵には想像もつかない年数だ。


「よくそんな長生きできるね」


「私も不思議に思うよ。ただ水を吸い上げてるだけなのにね」


「ずっと同じ所にいて退屈にならない?」


「ううん、子供達が授業を受けたり、遊ぶのを見るのは楽しいから気にならないよ。それに、こうして君とも話せるようになったしね」


 ヒノキは優しく言った。目はないが、葵は温かいまなざしを向けられているように感じた。


 葵はヒノキとの秘密の会話が楽しくて仕方なかった。だから、他の人が来ると、ヒノキとの会話をやめなければならなくなるのが残念だった。しかも、やって来るのは毎回同じ人だった。


「今日もやってんだ」


 優斗だ。他の生徒達は朝に花の水やりをしてしまうので、昼休みはあまり校舎裏に来ないが、昼休みの半ばになると決まって彼はやって来た。


「よくブツブツ言いながら水やりできるな」


 葵が木と会話できることを優斗は当然知らない。


「えっと、これは、あれよ。花は話し掛けた方が元気に育つから」


 葵は慌てて取り繕う。


「へぇ、なんで?」


「人は話す時に二酸化炭素を吐き出すから、それを吸って大きくなるんだって」


「ふぅん」


 優斗に悪いとは思いつつ、葵は彼が早くこの場を去ってくれることを願った。


 しかし、優斗は見事に期待を裏切って、自分の空っぽの鉢を運び出した。彼は鉢を葵のチューリップの鉢の横に置き、袋に入った園芸用の黒い土をスコップですくい、鉢に入れ始めた。


 その様子を見て、葵の表情がパッと明るくなる。


「何か育てるの?」


「ああ」


 無表情にそう言うと、優斗は短パンのポケットから種の袋を取り出した。


「何のお花?」


「ひまわり」


「いいね。私ひまわり好き。ね、なんで育てる気になったの?」


「ひむかいが楽しそうにしてるから、どんなかなと」


「"ひむかい"じゃなくて、"ひゅうが"ですぅ!優斗くん、わざと言ってるでしょ」


 怒った口調だが、葵の目がすうっと細くなるのを見て、優斗の硬い表情が緩んだ。


「なぁ、たまに育て方教えてくれよな」


「水をやるだけだよ」


「それは当たり前」


 二人はクスクス笑った。チューリップは赤いつぼみをつけていた。



「優しい子だね」


 しばらく葵と話していた優斗がいなくなってから、ヒノキが言った。


「優斗くんのこと?」


「うん。本人は隠してるつもりみたいだけど、君に気があるみたいだ」


「そうかな?」


 葵にはよく分からなかった。


「優斗くん、お父さんもお母さんも事故に遭って、いないんだって。だから、今はおばあさんと暮らしてるんだって言ってた。可哀想だね」


「そうだね。葵、優斗くんに優しくしてあげるんだよ」


「うん」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ