優斗くん
葵は植物が大好きだ。
それは葵の両親が花屋を営み、幼い頃から触れ合うことが多かったことが影響しているからかもしれない。休日は両親と公園や山に行き、一緒に弁当を食べた。見つけた植物の名前を当てたり、四つ葉のクローバーを探したりした。
学校の休み時間にはよく友達と草むらへ行き、かくれんぼをして遊んだ。しかし、隠れている時も鬼になった時も、ついつい草花を探してしまう。だからよく花を摘んでいる所を友達に見つかっては、「あーちゃん、早く隠れなきゃ見つかっちゃうよ」とか、「なんで鬼なのに、探してくれないの」とか言われ注意された。
今日も葵はかくれんぼする。かくれんぼする振りをして、自分の育てる花を見に行く。友達は校舎裏から離れたグラウンドにいる。かくれんぼは始まったばかりだから、すぐにはバレないだろう。
葵は泥棒のようにコソコソと草むらを通り、校舎裏へ行った。フェンスと校舎の壁との間には5メートルほどの広さがあり、壁側には植木鉢やすのこがずらりと壁の端までたくさん並べられている。 フェンス側には木や雑草が茂り、陽射しが木の葉を掻き分けて地面に斑模様を作っている。
葵は自分の鉢を覗き込んだ。土の中から小さな芽が出ている。
「早く大きくなってね」
そう言って、葵は嬉しそうにじょうろで水をやった。
「おい」
後ろから声がした。葵が振り返ると、すぐそばに同じ4年生の川越優斗がいた。葵より少し背が高い。無地のシャツに木漏れ日模様がついている。優斗はクリクリした目で葵を見た。
「何に水やってんの?」
クラスであまり話したことがなかったので少し驚いたが、葵は笑顔で答えた。
「チューリップだよ。優斗くんは?」
「別に何も」
「育ててないの?」
葵はまたびっくりした。みんな花を育てているものだと思っていたからだ。
「だって面倒じゃん」
優斗はアッサリと言う。
「そんなことないよ、花が育ってくれたら嬉しいし、楽しいよ」
葵が笑い掛けると、優斗はふぅとため息をつく。
「よく分からんね。ただ背が伸びるだけじゃんか。なんでみんな花なんて育てるんだか。そんなん育てるより、オレは自分が育つ方がいいな」
「なんで?」
葵が聞くと、優斗はフンと鼻を鳴らし得意気な顔になる。
「大人になったら何でも出来るし、デカイ奴に負けないだろ」