青と太陽と水
「結局オレには話しかけてくれなかったなぁ。木の声、聞いてみたかったのに」
優斗がぶつくさ言いながら、校舎裏へと向かう。葵も一緒だ。
「でも、木の霊気にあてられるのは嫌だな」
「何よ。大変だったんだから」
葵は笑って言った。
あの日から植物達の声はパッタリと聞こえなくなった。意識を失うほど困らされていたのに、いざ声が聞こえなくなると葵は寂しい気がした。しかし、今は元気だ。
声が聞こえなくても彼らは生きている。当たり前のことだが、声が聞こえるようになる前よりも、命があることを感じられた。その為か、あれから花は摘まなくなった。
二人は自分達の鉢をヒノキのいた場所まで運んだ。葵は新しく朝顔を育て、優斗のひまわりは、町を焦がす太陽のように咲き乱れている。
「綺麗だなぁ」
「うん、葵みたい」
水やりをしながら優斗がさらりと言うので、葵は目を丸くした。そして、照れたように笑う。ふと見上げると、入道雲が空とハイタッチしている。
「見てくれてるかな」
優斗も見上げる。
「見てくれてるだろ」
どこまでも青い空。みな、この青と太陽と水を吸って生きているのだろう。
「ちゃんと咲いたよ」
葵は笑った。




