朝の学校
何処かで鶏が高らかに鳴いている。
それを真似てはケタケタ笑う小学生達。
激しくランドセルを振りながら、畦道を駆けていく。
行き先は小さな町中の小学校。朝の光を受けた白い校舎が眩しい。その校舎裏の壁沿いには、彼らが育てたヒヤシンスやサルビアなどの様々な花の鉢が並べられている。
この小学校では、1年生から6年生まで、各自好きな花を1つつ育てることになっている。
植物を大切にする心を育む為らしい。生徒が少人数なので、全生徒分の鉢を校舎裏に置くことができた。
生徒達は、校門の横でいつもニコニコしながら出迎えてくれる校長先生に元気に挨拶をすると、必ず校舎裏へ行き、それぞれの花に水やりをした。予鈴が鳴ると、皆パタパタと教室へ走っていく。
「"ひむかい"さん」
朝のホームルームで、先生が点呼をとる。教室内がざわつく。
「"ひむかい、あおい"さん」
教室の後ろ側の席に座っていた少女が顔を赤らめて、パッと手を挙げた。
「先生、"ひむかい"じゃなくて、"ひゅうが"です」
どっと教室内に笑いが起きる。4年生はこの1クラスだけで、生徒数は10人しかいないが、とても賑やかだ。
先生も顔を少し赤らめて、
「ごめんなさいね、日向さん。失礼なことをしました。それにしても、珍しい名前ね」
と言って、小さな咳払いをした。
「はい、よく言われます。でも、気にしてません」
新学期早々、間違われてしまったが、葵は何でもないことのように言い笑った。
それは花のような笑顔だった。