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完徹の勇者  作者: きりま
領地防衛編

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第八十話 徴税官の悪巧み

 件の徴税官は、連合国南西部のとある村に送られていた。

 貧窮しているというわけでもないのに、支払いの渋い村だった。

 長い間のらりくらりと躱してきたと自信を深めているところを、へし折ることが与えられた任務である。


 新大陸に関する特殊任務を受けているために、通常業務は免除されていたが、この村は刈り取り時と判断されたのだ。

 急遽与えられた任務ではあるが、最も効率よく結果を出せる者だと見込まれたのだから、そこに不満はなかった。


 よくある村の一つだ。

 もしもの場合に備えておきたいと、納税を期限ぎりぎりまで粘るため、回収担当官に不評だった。回収側は村々を順に回ってくるため、この日にと明確には約束できないのだ。早めに到着したはいいが、期限の終わりにまた来いと言われれば、二度手間であるし、戻りが遅れてしまうことにもなる。仕方なく別働隊を出せば、経費も人員も多くかかるのだ。

 しかし計画的ではあるが、犯罪とまではいえない。


 だが、その安心は、もう少しいいだろうと彼らを増長させる。

 民など、誰かが導かねば際限なく愚かなことを続けるものだ。

 徴税官は冷え冷えとした心持ちで、彼らを見下していた。


 それでも、いつもならば手心を加えもするのだ。

 だが、遂行中の計画が一時中断となったことへの腹立ちがあった。


 本来ならば、新大陸を取り締まるために、北東部周辺の仕事に限定されていたのだ。

 そのための時間や人材も与えられ、それを元にして計画を練った。

 実行前ならば問題はなかったが、一時中断することで、どれだけ修正せねばならない事態になるかと思えば、寛大さなど消え失せていた。


(ちょうどいい憂さ晴らしだよ……私の手を煩わせた浅薄さを呪うがいい)


 徴税官は心中で毒づいた。




 そんな狡猾ながらも野心に身を委ねた徴税官だったが、それでも中央の代表達とは対立すまいと決めていた。

 少なくとも基盤を確かにするまでは。


 どこか得体が知れないのだ。

 その神秘性が人を動かし易くするために、わざと作られた像であろうとも。自分と同等か、それ以上の狡猾な男が五人もいることには違いない。

 迂闊に手を出せはしない。


(おっと、野心も行き過ぎては身を滅ぼすな。代表達とは末永くお付き合いしようじゃあないか)


 何が面白いでもなく、口元に笑顔を浮かべる。

 癖になるよう、練習しているのだ。


 そうして、罪人を、罪を犯す前に裁くため、村へと踏み込んだ。




「泣き叫ぶくらいでしたら、初めから罪など犯さなければよろしい」

「言いがかりだ! 罪などなにもない!」


 兵が村長を引っ立てる。

 他の村人が見送る中だ。

 なるべく穏やかに、憐れむような目で、なにがどう悪いのかを説明した。


「ご自分のちっぽけな村がやることなど問題にならない、などと考えていたはずです。しかし、こういったことが誰かの耳に入らないなんてことはありえない。貴方のしたことは、社会全体に不公平感をもたらし、不安を煽る行為ですよ。真面目に働いている村の者はどう思いますか。これは彼らに対する裏切り行為であり、重罪なのです」


 徴税官は、悲しみを込めた目を意識して、村人達を見渡した。


「人は、自分に都合のよい結果を信じてしまうものです。みなさんも、どうか惑わされないように」


 怒りを持つ者の姿も見えたが、石を投げるようなこともできずに戸惑っていた。

 静かなざわめきを背に、徴税官は村を出た。


(ちょっとばかり同情をこめただけで、村人ごときはどちらが正しいのか迷ってしまう。自らで判断しようとする者はいないのか。まったく、理解できんな。教養がないと、こうも愚かになる。とても同じ人間とは思えん)


 徴税官は予定よりも早く畳みこめたために、気をよくしていた。

 だが、すっきりした気分とは逆に、心の内に浮かぶのは優越感に満ちた愚痴だけだ。




 新大陸を導く計画内容は、基本は地味で単調なことだった。

 兵の一隊を伴って、短期間に査察を繰り返し圧迫するものだ。


 あまり綿密な計画を練ったところで、いい加減な開拓民相手にどれだけ通じるか。それでなくとも愚かなのだ。単純な手、分かり易い力の差を見せることが手っ取り早い。そんな手を使えば済む、程度の低さにも、おぞましさを覚えて身を震わせられるほどだった。


 だが公私は弁えているつもりだ。

 粛々と単純な策を弄す。


 内心では民衆への侮蔑に気分を悪くさせられていようとも、腰の低い者は笑顔で褒め称え、反意を示しそうな者には粗を探して注意を繰り返す。

 地味な嫌がらせである。

 計画と呼ぶには単純なこととはいえ、中断されたことに不満を持ったのは、継続することで効果を発揮する行為だからだ。


 これまでも、言い縋ってくる者もいないわけではなかった。

 だがそれは仕事に不慣れで、己の技術が足りていなかったためだ。

 仕事をこなす内に、思い描くとおりに人を動かせるようになった。


 相手は食うや食わずの貧民共である。

 反抗的な者も、どうにか留まろうとして大抵の者は従順に振舞うようになる。

 たまに話が全く通じないほどの愚か者もいるが、そのような者は周囲の住人からも遠ざけられていることが多く、排除に無理を押しても問題になることはない。


 地道に続けていれば、新大陸の連中も容易く丸め込めるように思われた。




 それでも、予測のつかない行動をとる者と会うこともある。

 ふと、新大陸の白髪頭の男へと考えは及んだ。


(いや特別に愚かな者に過ぎん。ただ、人望があるだけだろう)


 理解しがたいことの一つが、人望というものだ。

 愚かだろうと仕事が出来なかろうと、時に迷惑をかけてすら、厭われにくい者がいる。

 分析してみたところ、良く話し、笑顔が多く、人々の集う場所へ首を突っ込むような者に多い気がする。

 さらには、粗野で下品であけすけで愚かである。

 ただし、それも全て当てはまるわけではない。


 要素が分かったところで、そんな醜悪なまねなど到底できるはずもなく、人は自らより下に見えるものに寛大になれるということだろうと結論付けた。




(ノンビエゼといったな。愚かであろうと、邪魔であるのは疑いない)


 気が付けば、後続の移住者達で村を構成していた。

 どのような手管で、あの短期間で何十人もを取り込んだのか。


 どうやったのか知らないが、いち早く企画の情報を聞きつけ、封鎖されていた縄の前に陣取ったとイベント振興会からの報告にあった。

 そして数人の人手で、馬鹿みたいに広い領地を確保した。

 なぜノスロンドの前マグラブ領の領主がいたことに気が付かなかったのかと、振興会の手際の悪さに腹を立てる。

 振興会は、前もって聞き込みをし、住民を把握する役目を負っていたのにだ。


 領地登録時に、その場で知ることになったのは痛手だった。

 知っていたならば、その前に交渉ができたものをと歯噛みする。


 マグラブの計略の一部だろうとは思うのだ。

 ノンビエゼが代表のように振舞っていたが、恐らく目立つ者を矢面に立たせているのだろう。


 そう考えつつも、懸念は払えないでいた。


 あの恐れを知らぬ威圧感、対峙したときの切り返し。

 賢しいことは間違いない。

 ただの愚か者では、傀儡にすらできないだろう。


 速やかに排除すべきだ。

 そう計画に修正を入れたところで、別の仕事だったのだ。




 中央へ報告次第、新大陸へ向かうが、もう一度現状の確認をせねばならないと考えていた。

 引きずり落とす案を重ねながら北上する。


 そしてノスロンドに近い北東地域に入り、途中に滞在した町で、新大陸に関する噂を耳にした。


(どういったわけか知らないが、これを使わない手はないだろう)


 新大陸では旺盛に活動しているらしいといった噂だった。

 徴税官はほくそ笑んだ。

 例え作られた噂だったとしても構いはしなかった。


 中央から依頼されたのは、新大陸の領地が滞りなくまとまるように誘導せよと聞こえるものだった。

 込められていた意味は違うことは分かっている。

 直接の利益になるような体制にしろということだ。


 しかし、中央の依頼通りに見えながら、個人的な利益を上げる計画を立てたのだ。


 その計画の障害となるものを排除すべきだと意識を取られすぎ、噂にまつわる他の意図については気が回らなくなっていた。


 この徴税官には、珍しいことだった。

 それが、計画を破綻に導くことになるのだ。



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