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完徹の勇者  作者: きりま
領地防衛編

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第六十六話 馬車の動き

 勇者は、倉庫建築のための下準備をしていた。

 建てると決めたはいいが、適当な掘っ立て小屋で済ますわけにもいかない。

 備蓄用でもあり、多少はしっかりとした作りにしておきたかった。


「俺様と行き倒れだけでは、無理」

「当たり前じゃないっすか。コリヌさんとこ行ってくるっす」

「あいや、待たれい」


 護衛君らの手を借りようと考えたのだろう行き倒れを、勇者は呼び止めていた。


「護衛君は三人揃わねば、秘めたる力を発揮できないのだよ」

「……そんなもんは存在しないっす」

「もっと人手が要ると言っているのだ。町へ行ってくるから、なんやかや準備を頼む」


 勇者は、町側の倉庫建築を進めていた小作隊にお願いできないかと考えたのだ。

 すぐさま走りだしかけて、勇者は振り返った。


「そうだ行き倒れ。この倉庫の管理係に任命するからな。荷物をまとめておくように!」


 耳に栓をしていたわけではないが、行き倒れ君の頭は意味を理解するまでに、体は一時停止していた。

 やがて目を丸くしたのを見て、勇者は今度こそと、そそくさと町へ向かった。

 背を向ける瞬間、行き倒れ君の覇気のない顔に、笑顔が浮かんだのは見逃さなかった。




 どんどん切り拓いている南側通路から出た木材は、徐々に町側へも送られていた。

 村の方は、作業場兼倉庫が完成したので、大量に必要な場面はしばらくない。


 町の方も、材料が確保できた都度に建てていたようで、外側は完成していた。

 後は、内部に作業台や棚などを作る段階とのことだった。


「そんな折に、作業の腰を折って、えー誠に恐縮ではありますのだが……」


 揉み手をしつつ、勇者は精一杯に腰を低くして頼み込んでいた。


「勇者領主さん、そんな畏まらなくともオッケーだ。かしらはもっとこう、どどーんとしてくれや! なんか気持ち悪いし」


 小作隊の皆さんの快諾により、一週間ほどと目星をつけて、手を借りることになった。

 作業場は必要ないから、彼らが建てたものほどの時間はかからないはずである。




「よっしゃあ、頭に相応しいもん作ってやっぞぉ!」

「おおっす!」


 勇者や行き倒れ君も負けじと気勢を上げ、小作隊の指示に従いながら作業に取り掛かった。


 仕事に集中しつつも、南からの客と手紙が話題に上ったことで、護衛その二君とマグラブ領を探るために送り出した馬車の行方が頭をよぎっていた。





 そのレビジト村屈強班が繰る馬車の道のりは、じぐざぐしていた。

 経過した幾つかの町で、余計な滞在に費やしていたのだ。


 マグラブ領に入ってからでさえ、町をぶらついていた。

 よく言えば堅実だが、華やかさの欠片もない辺境領とはいえ、海の道近場にある荒野の中に隔絶されたようなちっぽけな町などと比べれば、十二分に活気がある。

 新大陸に戻れば、また土いじりの日々だ。

 今の内に、気が済むまで町をうろつくつもりで弾けてしまったのだ。


 何もまともな食事の飲み食いだけに費やしたのではない。

 道具類や武器や保存食などといったものも、気が大きくなってあれこれと買ってしまっていた。

 もちろん節度は踏まえているつもりだ。

 コリヌから、茶葉や豆類などを買うようにと預かった金には手をつけてはいない。


 気が済んでようやく、勇者から託された使命を思い出すと、そろそろやばいと思った屈強班は仕事に乗り出した。


 攫われたかもしれない護衛その二君の様子を探るため、屈強班の馬車はマグラブ領領主の居館前に到着していた。

 予定よりも極々僅かに遅れただけのつもりだが、半月はずれこんでいる。


 門前に堂々と停めたりは、厚かましいと自負していても、さすがに気が引ける。

 通りを挟んだ向かいに木々が並んでいたので、その影になるよう馬車を移動させた。




 屈強班の班長は、領主に面会したい旨を、取次ぎの者に恐る恐る告げた。

 コリヌからの依頼だと話したが、それでも怪しいことこの上ないだろう。

 そこで待てと言われたが、両側から門番が射殺すような目で睨んでいる。


 班長は馬車まで逃げだした。


「すっげ胡散臭い目で見られたぞ……!」

「今も門番がずっと睨んでるし」

「いくらコリヌさんの証明があるからって、やっぱ俺たちみたいなんじゃ無理だったんだ」

「よっ弱気になるな……俺たちにゃ使命があるだろぉ!」


 散々遊びながらのお気楽旅行しておいて、どの口が言うのかである。



 屈強班が馬車の陰で震えている頃、コリヌの信任状は、取次いだ男によって執務室へと届けられていた。


「面会だと」

「信任状だとか大仰なものを持っておりましたが、どうにも身なりの怪しい者達でして……」


 屋敷の管理を任せている男が、不明瞭な言い回しで来客を告げた。行動はきっちりとしているのだが、唯一の欠点は、話がくどいことだった。


「誰からだ」

「お父上からとありまして」


 コリヌンは最後まで聞かず、立ち上がるや窓から外を見下ろした。

 門前の道を隔てた端に、どこにでもある幌馬車と、陰には柄の悪い町人といった風情の男が三人ほど見える。

 何事かを相談しているようにも見えた。


 父に限って、脅されて署名したなどということはないだろう。

 その理由も見当たらない。


(いや、父の身柄を盾に強請ろうとしていることもありうる)


 考えかけて頭を振った。

 それならば、誰が現在父を拘束しているというのか。


 コリヌンが対象を確認したことを見て、管理頭である男は、遮られた言葉を続けた。


「手紙も添えてあるようです」


 なぜ先に言わないという溜息を堪えてコリヌンは振り返り、管理頭から手紙を受け取った。


「通せ」


 管理頭は一礼して去った。


 応接間へと客を通している間に、対応を考えねばならないと、机にそれらを広げた。

 信任状とやらの文言に署名は、確かに父のものである。

 見落としのないようにと、手紙へと目を走らせた。

 強請りたかりではないようだと、分かった。


 内容は簡単に言えば、どうやら護衛が戻らないことを心配している様子だ。

 ただし、それがこちらの意図したものではないかとの質問が隠されているように思えた。

 ひいては、背後に国が絡んでいないかと言いたい訳だ。


「衰えては、いないようだな……」


 余計なところにばかりだがと、コリヌンは内心で呟く。

 立ち上がると、応接間へと向かった。




 面会するまでもなく、コリヌンが歩く先、応接間に続く廊下から騒ぎが聞こえてきた。


「ああっ護衛の兄貴! 生きてるじゃねえか!」

「なっ……兄貴はやめてくれ!」

「俺たちが敵わねぇ腕っぷしなんだ、兄貴以外にどう呼びゃあいいんだよ」

「んなことより勇者さんとコリヌの旦那がきぃきぃうるさいんだよ。早く帰ってきてくれよ護衛兄貴ぃ!」


 護衛その二君も警備の仕事をしていたため、不審な輩の見張りに来たのだ。

 その輩は、ほんの十日ばかりを共に旅した屈強班だった。


 感動の再会みたいなそうでもないような様子ではあったが、無作法にも程があろう。

 コリヌンはその状況に出くわし、こめかみに血管を浮かべると同時に一喝していた。


「そこへ直れ!」


 男達はぶつかり合いながら、横一列に並んで直立不動の姿勢をとった。


「お見苦しいところをお見せしました!」




 改めて応接間に移動し、コリヌンと屈強班は、テーブルを挟んで向かい合っていた。

 護衛その二君は、横に立って彼らの話を聞いていたところだった。


「えっまさかあの手紙を読んで、そこまで見透かすとは。本当に、ただ君達に戻ってほしかっただけなんだ。荷物が心配で。しかし、なんという慧眼! さすがは我が主と、主が見込んだ勇者様だな……」


 その二君は感激に暑苦しく叫んだが、コリヌンに睨まれ語尾は尻すぼみになった。


「そ、そうなんですか? 勇者さんたちゃ、兄貴が手紙を盗み見するかもしれない敵の目を欺くために、わざとそんな風に書いたとか吠えてやしたぜ」

「これは評価が上がりそうな予感。そうだとも、意図みたいなものを仕込んでおいたとも!」


 コリヌンの視線は一層険しくなった。


「そのような偽りを、私の前で……」

「撤回します!」


 コリヌンの威圧に、その二君はあっさり覆した。


 一通りの経緯などを尋ねたコリヌンは、しばし黙考し、やがて答えた。


「こうなったら、付き合ってもらうぞ」


 屈強班は縮み上がった。


「まっまさか俺達も監禁!」

「ごっ拷問なんてしても何も知らねぇ!」

「悪いこたぁ積荷をつまみ食いしたくらいだ!」

「てめぇ、いつの間に!」


 またしてもコリヌンに怒鳴られる屈強班だった。


「案ずるな。準備が整い次第、解放する」


 コリヌンが、屈強班を留めておく理由は特にない。

 ただ、こうも五月蝿いと、あることないこと吹聴しそうで頭痛がしたのだ。


 それに、準備が整うもそう遠くない気がしていた。

 実は、彼らの前にも来客があったのだ。

 ノスロンド王国からの、とんでもない使者だった。


(隣国から攻め入られたわけでもなく、国が動くとは前代未聞だ)


 何か理由はあるのだろう。

 しかし、コリヌンは知る必要などないと考えていた。

 ただ、忠実なる家臣であればよいのだ。





 遠いマグラブ領にて、なにやら企みごとが進んでいようとも知らず、勇者はまるで己の手柄だというように、行き倒れ君への労いを倉庫という形にしたのだと言い放っていた。


「ようやく、これまでの忠誠に報いることができたようだな」

「べつに忠誠とかないっすけど……自分だけの寝床ができるのは、まじ嬉しっすね」

「今後も俺様の配下として研鑽を積むように!」

「……すでに、嫌でも身に付いてる気がするっす」


 勇者は、城よりも背の高い倉庫を見上げていた。

 見上げるといっても、普通の家の高さだ。

 控えめな背のお城ちゃんが際立つ、絶妙な対比だと感動していた。


 勇者はその光景をうっとりと眺め、頭の中身はお城ちゃんで満ちていった。


「ああ俺様も幸せだよお城ちゃん。とうとうお邪魔虫を滅殺したのだ」

「急に喜び半減なんすけどっていうか誰が虫だよ死んでないっす!」


 すでに行き倒れ君の文句は、耳に指栓しているから届かない。

 お城ちゃんに次はどんな装備を整えてあげようかと、妄想が膨らむ勇者だった。



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