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完徹の勇者  作者: きりま
領地防衛編

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第六十三話 南の開拓民

一方その頃シリーズ開拓民編です。

 連合国北部にある山脈の麓で、特に西側の砂漠に程近い村々は貧しさに喘いでいた。

 土地が痩せていたこともあるが、国境沿いのため、砂漠の民からの収奪に怯えて警備の人手を確保せねばならず、なかなか食べるためだけの活動をするわけにもいかなかったのだ。


 そんな折、海の向こうに土地が発見され、中央からの移住者を募る報せが各地を巡った。

 即座に村を出ることを決めた者は多かった。


(ここが嫌いってわけではないけど、先が見えないのは疲れた)


 そう考えた、二十歳を超えたところだろう青年も、その一人だった。


 どうせ苦労するならば、新たな地に賭けてみたい。

 そんな若者が近隣の村々から集まって、移民団を結成した。


 移民団といっても数十人程度だが、人が増えれば行動にも時間がかかる。

 ようやく北東端の町まで到着したときには、領主受付は締め切られており途方に暮れた。

 締め切りがあるとは、報せには書かれていなかったのだ。


 しかし追記によると第二次募集があるという。

 徒歩で移動中だったために続報と行き違ってしまったようだ。

 よく読むと、入植自体の制限はない。

 締め切りは領主としての登録受付期間のようだった。


 出遅れた移住希望者達も合流し、海の道へ到着したときには、移民団は五十人を超えていた。




 胸の高鳴りを抑えて、海の道を渡った。

 渡りきった先には、平原が広がっている。

 点在する簡易住居や干草の山などで、人の気配は見て取れるのだが、荒れたような原野の中では余計に物悲しく思えた。


 ともあれ、ここでは先達に教えを請うべきである。

 そう思って声をかけるまでもなく住民が集まり、気が付けば囲まれていた。

 経緯などを話すのと交換に、周辺の事情を尋ねることができた。


 特に多くを話してくれたのは、丘の上一体を独占したという男だ。

 勇者などと自称するおかしな男だったが、嫌味はなく、丁寧すぎるほどに周辺の地形やら注意点などを聞かせてくれた。

 最後には水だけでなく、そんな余裕はまだないだろうに食料まで分けてくれたことを考えると、やはりいかれているのかもしれない。

 もちろん感謝はして別れ、南へと進んだ。





 第二次移住組は、勇者男から聞いた情報を元に、最後の岩棚の穴の外を目指した。

 その勇者男が言うには、集落を作るには、山の壁と壁の間の距離が近すぎるし、その後の拡張などの展望を阻むだろうということだった。

 道を進むだけでもいい、見れば分かる。

 そう力強く言い切っていた。


 彼は、注意点なども細々と、それは暑苦しく熱心に話して聞かせてくれたのだ。


 例えば、その幾つかの進行を阻む山の壁は、たいそう柔らかく山崩れに巻き込まれる危険があるから、家を側に建てるのはお勧めしない。

 住人が居所を気をつけても、畑を広げ、さらに人が集まれば空いた場所に住もうとする者も出てくるだろう。

 他にも必要な施設を見越して余分な地を残しておくべきだ。


 また、山壁の形状は入り組んでいるから、場所を開くまでの事故や遭難を指摘された。


 さらには山壁の状態は遠くに行くほど固くなるという。

 まずは生活の場を整えている時に、削るのも難しい山の狭間では不便だろう。だが最後の壁を抜けさえすれば、もう何も遮るのもののない一面に広がる森が見えるとのことだった。

 ならばそこから具合の良い場所を見つけた方が、先々を考えても苦労がないと言うのだ。


 そういったことを滔々と話してくれた。

 なんせ、勇者などと自称する恥ずかしい男の言う事だ。

 それがますます内容を胡散臭いものに変えていた。


 自分らの領地の近くに多くの人が住めば、それこそ己の畑を広げる際に邪魔になるからではないかと揶揄もした。

 どのみち海の道近くの平地には、住むだけならともかく、領地と呼べそうなほどの空き地はすでにない。

 彼らの言葉を半信半疑に受け取って進んだのだが、なるほどその通りだった。




 最後の岩棚のそばで、思わず移民団は立ち止まり、空を仰いでいた。


「あの男は、魔法使いかなんかなのかねぇ……」


 誰かがぽつりとそう零すと、全員が穴の向こうを窺い見た。

 無理に空けたものだから、慎重に移動するようにと言い含められたのだ。

 洞窟のことを冗談で話しているのだろうと、笑いながら話を聞いていたが、確かに不自然な通路だ。

 これまで通り抜けた幾つかの穴は、土質だったのであまり気に留めなかった。

 しかし、これは岩山だ。

 真横から巨大な錐で穿ったように、真横に幾つもの筋が走っている。

 自然にできたものとは思えない異様さだった。

 恐々と穴をくぐった。




 抜けた先で、木に登って様子を探った男が、下りてくるや弾んだ声で叫んだ。


「山はあるが、こんな壁のようなもんはないし、人の気配も見当たらない。森が広がってるぞ!」


 聞いたとおりに、この先は、森がどこまでも続いているようだった。


 最後の壁穴を抜けて程ない場所に、集落を作った。

 ほとんどが鬱蒼とした森に阻まれ、開いていた場所がそこしかなかったためだ。

 さして広くはないが、ちょうど岸壁に囲まれた入り江があり、入り組んだ岩礁が荒波の影響を弱めてくれる。

 行く行くは漁村にしても良さそうに思える場所だった。


 そして森を挟んで、海と並行するような山並みがあるのだが、その間の距離は近い。

 遠目に見れは、山裾が海へと繋がっているようにも見えるだろう。

 特にそう見える場所を拠点とした。

 家は高台に建てたほうが安全だろうし、気が休まる。

 山と海側を繋ぐように道を開けば、通うのも楽になるはずだ。

 畑を広げるには難しそうだが、山に入ると湧き水のある場所も発見したので、思い切ってここに決めようということになった。

 胡散臭いと思っていた勇者男の話は、嘘でも大げさでもなかったのだった。


 こうして南方へ進んだ第二次移住組団体の第一陣は、腰を落ち着けたのである。




 しばらくは、定期的に大小の団体が訪れた。

 一部は残ったり、さらに南を目指すものもあった。


 そうこうする内、順調に海と山の中腹に住める場を整えた。両者の間は、歩くには困らない程度の細い道を作った程度だったが、ようやく木々を切り拓いた。

 広げた道を繋いだ日には、興奮して、ささやかながら宴会を開くほどだった。

 海辺の開けた場所で、焚き火を囲んで食事を取った。

 そこでの会話だ。


「そういやあ、ここんところは人を見ないな」


 それを聞いて全員が、数ヶ月は通りすがる者を見かけていないのではないかという事に気が付いた。

 日々忙しく動き回っていたから、暦の進みの感覚も曖昧になっている。


「領地受付係も、いつ来るんだろうね」


 そうして話題は現状のことから、当初の目的へと移った。

 取りまとめ役となった壮年の男が、近くへ寄るように言ったので、皆は円陣を組んだ。


「ここも、どこぞの村と言っても良さそうじゃないか?」


 もちろん、まだまだなのは誰しも分かっている。

 大した家や畑もないどころか、辺鄙な場所の村ほども整備されていない。

 食料は魚だけでなく、小動物を狩ったり、食べられる植物を探して賄っているのだ。

 しかしお粗末ながらも、自力でここまできた自信から皆は笑顔で頷いていた。


「そこでだ、そろそろ使いを出そうと思う。向こうが来ないんじゃあな。こっちから行ってやろうじゃねえか」


 歓声が上がった。

 取りまとめ役が手をひらひらとさせて、落ち着くよう促した。


「でかいこと言ったが、そうはいっても中央までなんて行けねえからな。まずは海の道までな!」


 今度は文句の声が上がる。

 もちろん冗談で囃し立てているのだ。


「体力のある若いもんから、選ばせてもらうぞ」


 取りまとめ役の一声により、その場で四人が選ばれ、明朝に旅立つこととなった。

 国境沿いの村で夢も希望もないとぼやいていた青年もその一人だが、四人の中では年上のためか、使いっ走り隊の隊長に任命された。


「まあ、あの勇者さんにゃ、感謝しておきたいしな」


 青年の呟きに、取りまとめ役も大仰に頷いていた。


「おぅそうだな。あっちには今後も用があるだろう。しっかり媚びてこい!」


 豪快に笑う取りまとめ役に、使いっ走り隊はぼやいた。


「適当な言い草だなぁ」

「言い草は適当でもいいけどよ。代わりに畑の世話は頼んだぞ」


 抜けてるところもあるが、ここ数ヶ月過ごして信頼できる男なのは伝わっていた。 話しやすいせいで、つい遠慮ない物言いをしてしまうが、ぼやかず働くし取りまとめ役に安心して任せられると皆で話していた。


「分かってるって! 気ぃつけていけよ」

「おぅよ。まかせとけ」


 早朝から出るなら会わないだろうからと、今の内に旅立ちの挨拶だ。

 使いっ走り隊は、宴という名の晩飯を切り上げ、旅の準備を整えると早めに寝床に入った。



 後から思えば、この旅では幾つかおかしな点があったと、青年は思い返すことになる。

 集落を出た直後、十数人ほどだろうか移住者の団体とすれ違った。


 人が来ないねというところから始まったお使いなのに、絶妙な行き違いである。

 使節団というと大げさだが、使いっ走り隊は皆が喜びそうな話の種を持ち帰る使命に、意欲を燃やしていた出鼻を挫かれたように感じていた。


 団体に集落の場所を教えると、助かると喜んでくれたから寄っていってくれるだろう。

 その背を見送りながら、四人は複雑な気分に苦笑しつつも、仕事を果たすために道を進んだ。





「道標が見える。目的地は近いぞ」


 三日目の昼だった。

 見覚えのある立て札が目に入ったのだ。


『毒キノコは駄目、絶対!』


 そう、おどろおどろしく書かれた大きな文字は忘れもしない。

 自然と気持ちが明るくなり、疲れて鈍っていた足も速まっていた。


 木々が途切れた途端、遮るもののない日差しを直に受けて目を細めるも、すぐに見開いた。

 眼前には、見渡す限りの整然とした畑が広がっている。


「嘘だろ……」

「すげえな」


 海を渡ってきたときには、あちこち疎らに簡易住居が建ち、資材なんかも雑然と並んでいたのだ。

 各領地間だったためか、合間には草や岩も点在していたのだが、半ば原野の中に埋もれるように生活していた人々の面影はもうなかった。

 多少でこぼこしていた地面も均してあり、ある一面には草原が広がり、家畜を囲んだ柵も見える。

 みすぼらしいはずの簡易住居も、補強されたり工夫を凝らしているだけでなく、住宅地として一つの場所に集められて並ぶ様は、そういった文化様式のようにも映った。


「おい、まさか、数年も経っちまったなんてこたぁないよな」


 一々大げさな仲間の表現を聞くと、青年はいつもなら呆れた目で口を差し挟むところだが、こればかりは思わず同意しそうになっていた。


「幾らなんでも、それはないだろ、多分」


 森から海へと誘導するように続く道も、土を固めただけとはいえ綺麗に整えられている。

 来た時には、背高の草の合間を、大きな石を避けつつ歩いた場所がだ。




 不意に声がかけられ、使いっ走り隊は振り向いた。


「おぅい、あんたらどっから湧き出したんだ。まさか、南のもんかい?」


 近くの畑から来たのだろう、簡素な服を土で汚した農夫らしき男が立っていた。

 あまりの景色の変わりように驚いていたので、近づいて来るのにも気が付かなかった。

 四人が反射的に頷き返すと、農夫は後ろを向いて叫んだ。


「南からのお客さんだぞおぉ!」


 声を聞いた遠くの誰かが答え、さらに向こうへと声が伝えられていった。

 それは丘の麓まで続いたようだった。


「勇者領主さん呼んだからよ、良けりゃ話を聞かせてくれ」


 使いっ走り隊は目を丸くした。


(なんだよ、勇者領主って!)


 驚く場所を間違えた。

 この農夫は、勇者男を領主と呼び、あまつさえ他の者も客の到来を報せに向かったのだ。

 俺達のような後追い組は、移住できることが目的であり、誰もが領主になれるなんてことを本気にしていたわけではない。

 でも、ここにいる先発組は本気だったはずだ。

 疑問は口をついて出た。


「全員が領主さんじゃないんですか」


 すると農夫は肩を震わせて、げらげらと笑い出した。


「おらたちにゃ荷が重くてよ。ぜぇんぶ勇者領主さんに譲ったんだ」


 底抜けの笑顔でそう言いのけた。

 喧嘩くらいしたのかもしれないが、それでも権利を譲ったなんて信じられなかった。

 しかし農夫は誇らしげに、この辺は城下町オルテフエルってんだと教えてくれた。


「えっ城下町」


 聞き間違いかと聞き返そうとしたが、農夫は笑いながら、疲れてるか歩けるか、水はどうだと世話を焼いた。

 大丈夫だと答えると、それならば丘の上の城まで案内すると言われ、素直に後を付いて歩きだした。


 確かに、面会が目的で来たわけだが、こんな広大な領地や民を持つに至ったなどとは知らなかったのだ。

 それなのに、いきなり呼びつけてもらえたことにも驚いていた。


 後を歩きながら、使いっ走り隊は声を潜めて会話した。


「聞いたか、城だってよ」

「ここはどうなってんだ」

「元が平坦だったからかもしれんが、それでも大したもんだ」

「俺たちゃようやく狭い区間の森を拓いたと、喜んでたってのにな」


 声に悔しさはない。

 訳の分からない高揚のせいだろうか、どちらかというと嬉しくさえあった。

 それは他の奴らも同じようで、顔を見合わせると、にやりと笑いあう。

 俺達もこれくらいやってやると意気込んだのだ。





 丘の上につくと、農夫は目の上に片手を翳しながら進んだ。


「視察かいな。珍しくまだおらんな」


 そのまま、竃と一軒の小屋の前に案内された。

 そう、小屋の前に案内されたのだ。


「疲れたなら、椅子に腰掛けてもええぞ。無礼だぁとか、そんなことで怒るようなお人ではないからな」


 農夫に指差された竃周りには、膝の高さほどの丸っこい石が並んでいた。

 それは辞退して、振り返って小屋をまじまじと眺めた。


「城……?」


 確かに、木の板にはそう刻まれいる。

 いつもならば笑いの一つでも出ていたはずだが、使いっ走り隊はただ困惑した。

 自覚はないが、久々の旅疲れのせいかもしれない。


 それが身を救ったことなど知る由もなかった。


「なんと、君達は笑わないのかね……」

「珍しいこともあるもんっすね」


 そんな声が聞こえた気がして振り返ると、両手の平で自分の口を押さえた、感動したような顔がこちらを見ていた。

 恐らく三十歳前後だと思うが、その若さで珍しくも、白い髪を持つ男――勇者男だった。

 短期間では当たり前だが、記憶の中と変わりない。

 側には、俺達と同年代だろう若い男が控えていたが、「お茶入れるっす」とすぐに竃へと走って火を起こし始めた。

 まさか子分までいるのかと唖然としつつも、俺は向き直って前へ出ると、軽く頭を下げた。


「突然お邪魔します。南に移住した者ですが、村が形になったんで挨拶に伺ったんです」


 他の使い走り隊員が、慌てて背中の荷物を降ろして、中から干草で編んだ袋を取り出した。

 さらに袋の中から布の塊を取り出す。

 それを広げて見せると干からびた魚が姿を現した。

 獲れる魚の量にもよるが、今後は村の主力特産品にならないかと試行錯誤した干物で、何もない村では精一杯の手土産だった。


「これはこれはご丁寧に! 随分と久しいが元気そうで安心した。どうか座ってくれ」


 勇者男は喜色満面で土産を受け取ってくれた。

 反対に使い走り隊は、第一の難関を突破したように安堵していた。

 同じ身の上の筈で、緊張するのもおかしな気はしたが、ここに足を踏み入れた時から圧倒されていたのだから、気持ちの上では格差がついてしまっているのだろう。

 ここは勇者さんと呼び改めた方がいいかと、青年は内心呟いた。





 青年は胸の内の、困惑や気が引けるような感情を払い飛ばし、用件を話すことにした。

 なんにしろ、あまり時間をいただくのも良くない。


「お陰さまで、良い場所を見つけることが出来ました。後の移住者からも住み着いてくれる人がいましたし、これも情報を教えていただいたおかげです」


 深々とお辞儀をした頭を上げると、でへへぇと顔を緩ませている勇者の顔があった。

 どうにもやりにくい。

 人は見かけではないのだろうが、こんな惚けた男がここまでの領地をまとめているというのも、俄かには信じ難い。


 思わず取りまとめ役の顔を思い浮かべていた。

 彼も気さくに振舞っているが、愚かとは思わせないよう力強い存在であろうとの努力も見えるのだ。

 侮られては、まとまる意見もまとまらない怖れもあるからだ。


 つい目を眇めてしまう。

 本当に、魔法使いだか奇術使いではないかと、怪しんでしまっていた。



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