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完徹の勇者  作者: きりま
領地防衛編

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第五十六話 天幕での内幕

一方その頃シリーズ。連合国中央への視点変更回です。ギャグもなく申し訳ないです。

 ノスロンド王国から連合国中央へと伝令が出された。

 書簡をどう扱ったものかと考えたノスロンド王は、結局そのまま転送することに決めた。


 内容としては一住民の陳情であるが、ことは新大陸で起きたこと。

 そして、管轄を未だ定めていないのは中央なのだ。

 揶揄する気持ちがあったのかは分からないが、「手前勝手に処断する身でなし」と添えられていた。





 連合国を成す国の内、五カ国の代表が、昔ながらの天幕内に集っていた。


 以前は、乾燥した草原地帯に住む一部定住地を持つ部族が、互いに不干渉で暮らしていたが、連合する際に部族毎を一国と数えた。


 それぞれの部族の長は、いくつかの天幕を繋ぎ合せて畜舎ほどもある広さを用意し、集会などの公共の場として提供していた。

 その文化を持ち込んだのだ。


 連合国全体の代表は、加盟国代表内の推薦による。

 しかし、その実権は財力のある五カ国が掌握していた。


 そして、その五カ国が集うこの場を、全ての者が「中央」と呼ぶ。

 この場が中央と呼ばれるようになったのは、各国を率いる中核の存在だからであるが、単に南北に広がる加盟国全域の中ほどに位置するからでもあった。




 爽やかな朝の空気を取り込み、天幕内は穏やかな時間が流れているように見える。


「面白いことはないか」

「珍しく北からの報せが届いているな」


 集っている男達は、重みのある広いテーブルを囲んでいた。

 表面は蔦草の刺繍で縁取られた白い布で覆われている。その真ん中には大小幾つか並ぶ陶器の深皿に、とりどりの果物が盛られていた。


 テーブルを囲む全員が、似たような衣装をまとっていた。細部の色や飾りは違えど、足元まで長さのある生成りの柔らかな布に身を包んでおり、動くたびに袖口や裾がひらひらと翻る。

 大きな違いといえば、首から肩周りに巻かれた布は、それぞれが紺や赤などの濃い色合いで分けられていることだ。

 各国を表すよう定められた配色なのだろう。


 手には厚みのある青磁のカップを手に、茶葉と山羊乳を煮込んだ甘い茶を飲み、果物をつついていた。


「さっきから食べすぎだぞ」

「ほっとけ。女房と喧嘩してな、朝食抜きだったんだ。それよりなんて言ってきてる」


 男達はまるで、休日に友人の邸へと招かれたように寛いでいた。


「ほう、これは意外なことだな」

「どれ見せてみろ。なんとまあ、珍しいこともあるものだ」


 代表者会談らしい雰囲気は、彼らの前に並び積まれた書状の数々と、背後に控える側近らしい者の存在があることくらいだ。


 しかしここで、些細なことから大きな決め事まで、連合国の動きは決められていくのだ。


 勇者から送られた書簡が紐解かれ、ノスロンドの添え書きと共に各代表の手へと渡っていく。

 内容を見た男達の表情は、それぞれだった。

 特に関心を示さない者、思わず失笑する者。

 共通しているのは、さして興味はなさそうなことだった。

 しかし、行動は違っていた。


「あの小ずるい徴税官が、てこずる理由はこれかな」

「幾つか計画に修正、いや追加しておいたほうがいいか」

「おい筆記具を持ってこい!」




 この会合は、貿易などで国を離れでもしない限りは、毎朝のように行われていた。

 それでも日々問題は上がり、その会談中に決定できることはする。


 しかしどの議題に取り組むかは、流れによる。

 傍から見れば気分次第にも受け取れるのだが、毎日の流れを見てきている彼らにだけ分かる物事の機微なのだろう。


 その日のお題は、書簡がもたらされたことで新大陸に関することに決まっていた。

 理由はそれだけではなく、計画の全体像から今が丁度良いと判断されたからだ。

 積まれた書類から、側近達が議題に関係する書類のみを選別する。

 話のできる準備が整うや、全員が羽ペンや報告書などを手に向かい合った。


「新大陸ね。未だ全貌も、島だかどうかすら分からんのだろ」

「便宜上そう呼んでいるだけだ。移住者が勝手に調べてくれるさ」

「今のところ、原住民は見かけていないということだが、どこまで探索は進んでいるのかね」

「だがなあ、これまでに東の方から人が来たなんて話は聞いたこともない。南方には船を出して漁をしている国もあるが、陸が見えたといった噂も聞かないな」


 この代表は中央から南東に位置する国の者だ。

 南側から東側の海岸沿いの国々について詳しいようだった。


「無人島かもな。それならそれでもいいだろう」

「あの海流では渡るのは無理に思える。その可能性は高いな」


 全員が頷いた。

 皆が隊商を率いて各地を点々と回っていたことがある。

 内陸側の者でさえ、大陸の東側に位置する大海を見ていた。


「それだと、現地民との軋轢による人減らしは、期待できそうにないな」


 途端に場は静まった。

 並の者が見れば、身を引き裂かれそうに冷ややかな空気が漂う。


「……滅多なことを口にするな」

「ここには我らだけしかいないとはいえ、一部だけ聞いて誤解を受けるような言葉は慎んだ方がいい」

「お前も迂闊なところさえなければ、もうちっと商売も上手く行くだろうにな」


 しかし睨まれた男は、なじる声にもそよ風を受けたように平然としていた。

 ただ肩を竦める。


「ふん、誤解ね。飾り立てるのは好きになれんが、そういった言葉を選ぶよう努力するよ」

「受け取り手の判断次第の言葉、だ。それが最善というものだ」


 また元の空気に戻り、会議なのかお喋りなのかという会話は続く。


「この徴税官、まだ先へは進んでいないようだな」

「まだ数ヶ月だろう。短気を起こすな」

「そりゃあ新しい場所なんだ、気にもなるさ。しかし、我々の意図したところの一部分だけに力を傾けることにしたようだな」

「くっくっ、どうとでも受け取れるように指示しておいてよく言う」


 代表達は、町人らへの移住を促す政策を発表したが、徴税官へは本意の一部を聞かせた。

 連合国管轄化の領土を増やすというものだ。

 中央が直接に管轄できる場所が増えれば余力を増やせる。

 いざという時には国のためになるし、なれば民への恩恵もあると、そう話して聞かせた。


 民からは嫌がられる役目なればこそ、徴税官は割り切って冷徹な判断を下せる。

 そして特に、頭が固いながらも野心ある者を、領地登録係と任命した。


 報告によれば、まだ一部とはいえ、連合国下の領土としての登録は成功している。

 しかしどういうわけか、その徴税官は一部を登録したところで、幾つかすっとばした段階へと進んでしまっていた。


 現地民の抵抗があって先へ進めないというのでもないのに、とんでもない税率を吹っかけ、移住者の追い出しにかかったのだ。


 これでは、後に続いて出て行く者がないだろうと、代表らは乾いた笑いを漏らす。


「それで、今その徴税官はどこにいる」


 羽ペンを持った代表は、徴税官の出身国である国の代表へ声をかけた。


「通常の見回りに戻っているが、どこだったかな」


 聞かれた代表が積まれた紙の山をがごそと漁ると、背後に立つ側近が書付帳のある頁を開いて差し出した。


「予定帳があったな。どうやら南端側まで出向いているな。誰が要請したんだ」

「おおそういえば、手っ取り早く解決したい村があったんだ。だが選んだのは俺ではないぞ」


 代表達の代わりに、行政を取り仕切る事務官を置いてある。

 普段の生活は、その部屋を中心に国は回っていた。

 各国が何かを申請すると、手配は事務官達が行う。

 矢面に立つためでもある。

 ここにいる代表達が直接に指示することは、緊急時においてのみだった。


「あっちの予定は全て任せることにしただろう。だから聞いてないな。もちろん報告は受けているがね」

「領地登録の報告は来ていたが、前回はいつ向かったんだ」

「次に新大陸とやらに向かうのはいつだったか」

「二期目の取立てまで、らしい。まだ先だな」


 同時に似たような質問が飛び交う。

 そして、ひとまずの結論が下される。


「徴税官の予定通りに進んでみようか」





 新たな大陸へと、潮の満ち引き頼りで不安定ながらも地続きになった。

 人が住んでいれば危機でもあったはずだが、代表らは別段それを気にかけてはいなかった。


 現地民がいたとして、好戦的ならば戦えばいいし、貿易や同盟を持ちかけてもいい。

 それは移住者に対しても同じだった。


 例え追い出せなければ、今度は商売相手として搾取すれば良いだけの話だ。




「海向こうのことなど、これくらいでいいだろう。それよりも、砂人どもをどうするか」

「煩わしいがね。それは焦っても仕方のないことだ」

「国境を接している限り、手を焼くだろうが、地道に追い詰めてやるさ」


 噂どおりに正しいことは一つあった。

 彼らの関心は、確かに砂漠の民達との攻防へと向けられていた。



 天幕を出ると、既に日は高かった。

 周囲を四角い石を積み上げた外壁が取巻いている。


 守衛が青銅製の重い扉を開ける。

 外には、石畳の通路が続き、さらに高い外壁が遠くに見えている。

 壁の向こうは砂漠だ。


 天幕の会議室は、城塞の中に作りつけられた場所に見えるが、成り立ちは逆だった。

 多くの部族に協力を求めて戦力を集め、砂漠側からの攻撃を圧倒的なまでの戦力で退けた。

 その直後、祝いの最中、この天幕内で同盟の調印は行われたのだ。

 砂漠との国境に程近い場所だからこそ、守りの要でもある。

 連合国の誕生を称えて城塞化し、その後平和になるにつれて町も作られていった。


 天幕を出た代表らは、それぞれの仕事場へと向かった。



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