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完徹の勇者  作者: きりま
領地防衛編

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第五十五話 薬草園

 朝食のため竃を囲んだ後、皆が各々の作業場へと向かう。

 勇者も移動しかけたが、立ち止まってノロマの背に声をかけた。


「待つがいいノロマよ!」


 ノロマ城へ寄ってはみたが留守だったのを思い出し、話を聞きながら様子を見るならこの時間が良いだろうと考えたのだ。

 つい声を張り上げたせいで、ノロマは威嚇を始めた。


「お、久々に最終頂上決戦(ファイナル・ファイト)といきますので?」


 何十回の最終ファイナルを迎えるつもりなのか。

 ノロマは両腕をぶんぶんと振り回し始める。

 身体を解しているのだ。


 勇者も呼応するかのように両腕を天へと突き上げた。

 その手は、空から地上の小動物を狙わんとする猛禽類の爪の如く、ノロマへと向けられる。

 そのまま腰を落とし、いつ攻撃が来ても避けられるように、小刻みに飛び跳ねながら睨みあった。


「ほらどうした来い臆したか」

「おっやるかやりますか? やるので? ふんぬッ!」


 ノロマは拳を握りこんだ両腕を左右に伸ばしたかとおもうと、身体を軸に回転しながら勇者へと飛び込んだ。

 遠心力で攻撃力を増すのだ。

 腕だけ鍛えた歪な肉体が織り成す技だった。


 勇者へと瞬時に肉薄する、回転する拳。

 しかし勇者は冷静だった。


(ふん、幾度も拳を合わせてきたのだ。手の内は知れているぞノロマよ)


 当然勇者の方も知られているわけだが、そこは考慮しない。

 勇者は自信満々で、ノロマの攻撃を正面から待ち受ける。


「愚かなり」


 勇者は軌道を読み、半身を引いて躱す。

 と同時に、甲側からノロマの手首を払い落とす勢いで掴むと、そのまま足を払った。


「ふおあぁあぶッ!」


 ノロマは自身の勢いでもって、盛大に前転していた。


 動きが止まると、ノロマはうつ伏せのまま動かなくなった。


「ぬ、しまった。本気を出したつもりはなかったのだが。いやはや力の加減とは難しいものよ。というわけで、わざとではないのだ。大丈夫かね……ノロマくん?」


 勇者は、恐る恐るノロマの横にしゃがんだ。


「ぐぶほっ! なかなか勝てなくなってきましたなー」


 むせながら頭を起こしたノロマの顔は、土まみれだった。


「見栄を張るな。全敗でいいだろう」

「かなり引き分けてますし十勝はしてるし!」

「いいからほれ」


 勇者はノロマを引き起こした。

 こんなところでふて腐れて、てこでも動かないなどと言われては困る。

 お城ちゃんの景観が穢れるのだ。


「呼び止めたのは、ノロマ領へ寄ろうかと思ったからだ」

「なんだ、それならそうと普通に呼んでくれればいいのに」

「いや普通に呼び止めたではないか」


 二戦目突入かと思われたが、外からかけられた恐ろしい言葉に勇者とノロマの思考は停止した。


「あたしの番は」


 タダノフ以外の何事かと見ていた行き倒れ君らは、呆れた様子で勇者を見ていた。


「タダノフの番はない。手下達のために温存しておきなさい」


 残念そうなタダノフから視線を逸らして、勇者は皆に声をかけた。


「今日も一日頑張るぞー」


 さあ早く作業に向かいたまえという宣言だ。

 行き倒れ君には畑を頼んだ。





 勇者はノロマと共にノロマ領へと向かった。


「あら勇者領主さんにノロマさん、お早うございます」


 すでに裁縫さんはノロマ城の前に居て、何事か作業を始めていた。

 小さな竃に置かれた鍋からは、ぐつぐつと煮えたぎる音が聞こえている。

 沸騰する湯の中に、乾燥した草が泳いでいた。

 その湯気に勇者はむせた。


「とんだ悪臭だな!」


 涙目で咳き込み、距離をとった。


「この怪しげなところが甘美な芳香ではないですか。すぐに慣れますとも」

「そんな奇特な人間はお前ぐらいのものだ。褒めてないからな」


 勇者は咳を押さえ、裁縫さんに向き直った。


「悪臭なのは分かっていたが、まさかこんな仕事まで任せることになるとは思っていなかったのだ。なんとも申し訳ない」


 とんでもない環境へと放り込んでしまったが、意外にも裁縫さんは笑顔だった。


「申し訳ないだなんて、いいんですよ。立派な仕事ですからね」

「正直に言っていいのだぞ。というか今が好機だ申し込みはお早めにだ」

「どんな作業だって大変なもんですよ。薬は苦いとか臭いからって避けていたら、いざという時に泣くんです。こんな大事な仕事を、ノロマさん一人に押し付けられませんよ!」


 裁縫さんはなんともやる気に満ちていた。

 いつもは丸っこい顔に、小さな眉尻が下がっており、柔和さを増している。

 それを今は、きりっと持ち上げていた。


(白パンに黒豆がくっついているようだな。ではなく、節介というか責任感に溢れているようだ。今は俺様がいちいち管理できないからな。ノロマには完璧な助手だろう)


 ふんふんと勇者は頷いていたが、隣のノロマを見ると口を尖らせていた。

 裁縫さんの言葉を聞いて、逆にへそを曲げているようだ。


「何がご不満かね」

「俺はまじない師ですからして、医師の真似事など寒気がするってもんです」


 ノロマはすねているようだ。


「今までだって、それで小銭を稼いでいただろう。同じことだ。領地運営に必要な分と思うといい」

「ま、それもそうですな。ソレス殿、ちょうどいいので今後の予定をお話したく」


 そう言ってノロマは城の戸を、がたがたと引いた。

 ノロマ城は、開閉に場所を取らずに済む引き戸なのだ。




 城の中へと案内され、改めて見回す。

 屋根までの高さは違えども、城自体の作りは三城とも同じだ。

 狭い部屋の片面には、勇者のお城ちゃんと同じく作り付けの棚がある。

 それに加えてタダノフ城の場合は本人の希望で、もう一面に餌置き場の棚がある。


 ここには、他の三面の壁に沿うように、細長い木台が並べてあった。

 その上には様々な木椀や編み籠が並び、匙やのし棒などの道具が散乱している。

 壁沿いには草の束が梁から吊るされていた。こちらは外の軒下に吊るしてあるものとは違い、完全に乾燥させたものようである。

 そんな狭い部屋をさらに狭くするのは、真ん中に置かれた大きな机だ。

 正確には細長い木台を二つ並べて置いてある。

 そしてその上はもちろん、道具類や千切れとんだ枯れ草などにまみれていた。


「散らかしたままでごめんなさいね。まだ来たばかりだから片付けの途中なんですよ」


 ノロマも勇者のように、昼は屋外でやるべきことをし、夜な夜な内職をこなしているのだろう。

 日々片付けても、朝にはこの惨状だというのが伝わってきた。


「あらいけない。あたしはお鍋をみてますから、何かあれば呼んでくださいな」

「作業を中断できるかね。邪魔をしたついでですまないが、裁縫さんからも話を聞きたい」


 少しお待ちをと言って裁縫さんは、鍋の中の草を木椀へと移し、離して置いてある木台へと乗せて布を被せた。

 勇者城前の竃と違い、石を丁寧に組み上げ、きっちりと四角く囲んである。

 火が移るような心配はないだろうが、外の様子が見えるように、念のため戸は開けたままにしておいた。




「それでなにかね」


 ノロマが机の下から、背もたれのない椅子を引き出したのを見て、勇者も倣って腰を下ろした。

 平らでないため、がたついており、身じろぎする度に倒れそうな気分になる。


「いえね助手を手配して頂いたからにはと、徹底的に散策して周ったのですよ。朝晩の飯に間に合う範囲でですが」


 勇者が想像していたようなことを、実際にノロマは果たしていたようである。


「んで、その回れる範囲は見終えてしまったんです。いやあしかし大したもんは自生してませんでしたなー」


 勇者はノロマの言葉を聞くや、鋭い視線を向けた。


「ノロマよ。呪術基準ではなく、医術基準でもう一度考えてくれないかね」

「えーつまりませんな。そうですね、それならば精々が消炎効果のある草っ葉くらいですので……」

「それだよそれ! 是非ともそういう方向で頼む、な!」

「はぁ」


 ノロマは全く気が進まなさそうである。

 それどころか、それがなんの役に立つのかといった態度だ。

 当然、ノロマの呪術などよりは広く一般的に大助かりなものだ。

 だがノロマの感性を捻じ曲げるなどできまいと、勇者は裁縫さんを見た。


「裁縫さん、今の会話術を学んでくれたかね」

「えぇ勇者領主さん、ようく分かりました。そうやって誘導していけばいんだね。お任せくださいまし!」


 裁縫さんは勇者の希望に応え、力強く頷いた。


「なんですとお目付け役だったのか裁縫殿!」

「みんなの健康と安心のため、その知識をお借りしたいんです。あえて厳しくさせてもらいますよ」

「俺の知識は大したもんだから狙われるのも吝かではありませんが、そんな拷問は嫌です」

「そんなことしませんよ!」

「俺からまじないを引き離そうなどと精神的拷問なりいッ!」


 ノロマは椅子を倒す勢いで立ち上がった。

 勇者は溜息をつく。


「別に呪術も止めはせんから。お役立ちの薬のほうも頑張ってくれたまえ」

「まじないですからしてッ……ぬぬしかし止めないと言うならばいいでしょう」


 ノロマはまた座りなおすと、予定を告げた。


「というわけで数日ほど空けたいのですが、構いませんかな」

「どこへ逃亡するつもりだ」

「逃亡しません。せっかく城まで得たのに。もっと広い範囲を見て回りたいんです。特に南への道。あっちには違ったものがありましたからな」


 勇者は呆気に取られた。


「よく覚えているな。随分と前だし瀕死だったのに」

「ほら毒キノコがあったではないですかー。それが、近場では全く見かけなかったんですよ」

「ほお、確かに」

「ですからして推測なんですが、岩棚やら壁のような層が多かったでしょ。細かく隔たれていたために、植生に変化があると睨んでいるのです。だから、この際最後の岩棚辺りまで探索したいなと」


 そこまで聞くと勇者は眉を顰めた。


「それはちょっとばかり遠くないかね」

「行きと帰りで四日ほど。調べ回る時間と携帯できる水のことなんか考えれば、余裕を見て六日ほどですかなー」


 勇者にも、調べてもらいたいという気持ちはあった。

 そのために、作業場の準備や助手の手配をしたのだから。


「それでも大変なことだ。どうだね裁縫さん」

「ここに渡ってくるのだって何日も歩きましたよ。そのくらいへっちゃらです」

「ソレス殿、俺も単身で無茶はしない主義です。だから、道筋に沿って真っ直ぐ往復するだけにして、その日程なんです」


 ノロマの提案は、真っ直ぐ歩きながら見える範囲を調査するだけということだった。

 山と山の間の森を、特に注視して変化などを記していく。

 道筋を作ったことで混ざるかもしれないから、その前に確認できたほうが楽だろうということだ。

 まずは行きで把握し、使えそうなものがあれば帰りに採取すると話していた。


「このノロマ領を、一大薬草園としたいのでしょ?」


 勇者は何もそこまでは思っていなかった。

 実はノロマの野望の声なのだろう。

 何を植えるつもりだと心配になったが、やる気を削ぐのは得策ではない。


「むぅそれならば……」

「では食料を分けていただけますかな!」

「……わかった。だが裁縫さんに無茶を言わないように」

「心得てござる!」


 ノロマの顔は真剣そのものだが、言動にまったく真剣味がない。

 だがノロマは、呪術に関わる事ならば並々ならぬ生命力を発揮する。

 どうにかなると信じようと、勇者は席を立った。


「では、明日の朝には食料の準備を終えておこう」

「やったー。ならば俺も、今日は採取用の容器なんかを揃えながら過ごすとしますか」




 ノロマ城を出ると、裁縫さんから呼び止められた。


「勇者領主さん、助手に選んでもらって感謝してますよ。どうやらノロマさんは雑用がからっきしなようで、あたしに出来ることがたんとありますからね」


 裁縫さんは使命に燃えていた。


「領地のお助け部門は、どーんと任せてくださいな」


 げんなりしたノロマとの対比に、勇者はつい笑っていた。



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