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完徹の勇者  作者: きりま
領地防衛編

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第五十話 勇者の野心

 勇者は、お城ちゃんの側に立ち、柱を撫でていた。

 疚しい気持ちからではない。

 こうすると落ち着いて考え事に集中できるのだ。


 しかしながら今は晩飯のさなかである。

 真剣な眼差しで城を撫でつつ考え事に耽っている様を、竃周りの仲間達はなんともいえない面持ちで眺めた。


 そんな、正気に戻ってくれないかな視線を勇者は無意識に弾き、仮設住宅に関するあれこれについて没頭した。




 レビジト村は、一通り生活に必要最低限の環境の整備は終えたようだ。

 次に道具作りなど共同の製作場所が欲しいからと、木材使用の申請を受けた。

 何かをする度に許可を得るような決まりなど作ってはいないが、今後は生活に必要分以上の消費となる。勇者が木材を確保するよう伝えておいたことを、村民は気にかけてくれたようだ。


 今や勇者は土地の管理者であり、開拓事業の指揮者なのだから、お伺いを立てるのも当然だとは思うのだが、まだそこまで自覚が伴っていなかった。

 余っているか、余裕分があれば貰い受けようと思っていた程度だった。


 次は何をしようかということにばかり意識は流れていく。


(村民が必要だというからには、平地側にもあると便利そうではないか。大畑さんに相談してみようか)


 今は元大畑領主さんに、平地の運営をとりまとめていただいている。

 基本方針は勇者がコリヌらと相談して決めたものだが、それ以外は自由にとんちを働かせているだろう。

 とてつもない意欲に燃えていたのだから。


 その意欲というのは幾つもの畑を好きに管理することだ。

 そこそこマメな男のようだが、熱中しすぎてそれ以外のことには気が回らないのだろう。

 何かの施設を建てたいというような話は聞いていない。


 丘の上は勇者達が好き勝手しているし、平地側は領主超過密地域だったのだ。一からすんなり村を作るのとは事情が違った。

 各々好き勝手できるからこそ、共同使用の場所を設けたのは集会所が初だった。


 その集会所も、領主会議は第一回で永遠に凍結されたが。

 次からは、ただの集会だ。

 今のところは、誰が不満を抱こうが、一丸となって開発せねばならない状況だ。

 どこかで区切りがつくまでは、集会所の使用機会はないだろう。




 勇者はお城ちゃんの側に、仮設住居のための資材を運び入れようと考えていた。

 だが、今現在ここで暮らしている領民達の、生活基盤を整えるほうが大事なことだ。

 平地側も、ただの農耕地ではなく、人が暮らすに相応しい場所へと進化させるべきだろう。

 人が社会を営むに相応しい場所へだ。


 特に連合国側への玄関口となる海岸沿いは、経由地に相応しい機能を揃えたいと考えていた。


(ふふ、俺様は先を見据えすぎるな。恐ろしきは我が小心者能力よ)


 また思考が遠のきつつあるのを押し止め、ひとまずは予定の通り、明日は資材を少しばかり運び込むことに決めた。

 

 元々が木材の調達を兼ねて、森を拓いて村を作ってもらったのだ。

 わずかばかりならば、彼らの邪魔にもならないだろう。


 少ない村民には余るほどの量だが、勇者が考える領地全体での計画には、まだまだ足りない。

 だからといって、必要もないのに木々を殲滅する悪辣な行動を起こすなど労力の無駄である。


(他にもやることはあるしなって、おっ? そういえばノロマの館付近まで道を伸ばしたいと言っていたな)


 木々殲滅の大儀――ここに見出したり!


 これで、現在計画中のものに必要な分量くらいは調達できる。

 遭難民族とはなんと先見性を持つのだと、勇者は感嘆した。


 ならば思いつき、もとい新計画へつぎこもうと勇者は頭を働かせる。

 新たに作りたい道は丘の麓だ。大変だが他に道がないので、切り出した木材は一旦丘の上まで運ぶことになるだろうか。


 道をノロマ領の方へ伸ばしたいとは聞いたが、どこまでかは確認していない。

 少し考えて、恐らく、南方の森へと移動しやすくしたいのだろうと思った。

 あちら側の森は広い。

 小型の動物しか生息していないようだが、狩猟に向いているだろう。

 しかし毒キノコの件がある。

 山の幸には、十分気をつけるよう、改めて勧告しようと決めた。


「ふむ、道か」


 南側の森までといわず、南方への道まで繋げるならば平地側まで回り込む。

 そのまま資材の移動もし易くなるだろう。

 勇者は明日木材を受け取るついでに、村人へ相談してみることも決めた。


 運び仕事は午前で十分だろうか。

 午後には共同作業場を建てることについて、平地民達からご意見を伺おうと決めた。




 目前の予定を決め終えたところで、勇者は別のことが気になってきた。

 小さな村にさえ名がある。

 より住人が多く、広い平地に呼び名がないのはいかがなものかと思えてきたのだ。


(いつまでも平地呼ばわりするのも不便なのではないか。領外への宣伝にも名前はあった方がよかろう。うむにゅぅ……面倒だ)


 命名には結構な気力をふりしぼらなければならない。


 いや待てよと勇者は足を止め、やがて内から湧き上がる興奮を抑えるように拳を握りしめた。

 何も村にこだわる必要はないのだ。


 勇者は片手で顔を覆い、そのまま天を仰ぐように背を反らした。


「くっくっく、ははは……」


(見ろよこの平地を。今は俺様のお城ちゃんの裾野でいじましく横たわっているこの平地を! まるで王族のおなごが纏うような、ぞろびいた服。見たことはないが多分そうだ。その裾を、可憐なお城ちゃんがたくし上げているようではないかね!)


 勇者の興奮の理由など知りたくもないが、仲間達はやや心配になって口に出していた。


「まぁたおかしな妄想してるよ」

「最近とみに顕著になってきた気がしますぞ」

「人目を憚らなくていいですからして。俺達は身内として数に入れられてないようですなーははは」

「そんな仲間意識は勘弁っす」

「あれで結構まともな案が浮かぶのだから不思議なもんですなあ」


 心配の理由は、怪しい妄想に付き合わされたりのとばっちりを受けるのは嫌だなあということだった。


 勇者の嗤い声が収まり、ぐるんと竃へと向く。

 仲間達はびくっと肩を震わせて固まった。


「俺様は決めたぞ。平地を町とする。それもただの町ではない」


 勇者は不適に笑う。

 しかしお気楽な笑いが板についてしまっているのか、ただ頬が緩んだ間抜け面としか、仲間達の目には映らなかった。


 皆の意識が向いたことを確認し、勇者はゆっくりと告げた。



「――城下町だ」



 冷めた目で見ていた仲間はただ、はぁと頷いた。

 一瞬の沈黙。

 そしてコリヌが素朴な感想を漏らす。


「城もないのに城下ま……」


 コリヌは言ってはならない一言を口にしかけて、勇者に氷柱のように冷たく鋭利な目で睨まれた。

 ほとんど言ってしまっていたが、文末を結ぶまでは無効である。


「……あ、いえなんでもないです」


 コリヌが発言を取り消すと、勇者の背後に渦巻いた吹雪のような威圧感が消え去った。

 それとともに満面の笑顔を浮かべる。


「もちろん呼び名だけだははは」


 怪しいもんだと仲間達は心で思った。



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