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完徹の勇者  作者: きりま
領地防衛編

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第四十九話 仮説の住居

 本日は、勇者領の東端にあるレビジト村の様子を窺いました。


「ほほう。俺様が右往左往してあまり寄れなかったというのに、いつの間にやらご立派ではないか」


 満足気な勇者に、族長が返す。


「我々が言い出したことです。そりゃもう頑張りましたからな。勇者様、なぜにこっそり覗かれているのですか」


 木の陰から顔を半分だし、太い幹に片手を添えて、勇者は睨むように村内の様子を窺い見ていた。


「普段通りの振る舞いを確かめるためだ。隠れんか行き倒れよ」

「へいへいっす」


 行き倒れ君と族長も、勇者の隣の木に適当に隠れて付き合う。


 遭難組改めレビジト村民は、相変わらずわーわー言いながら、にこやかに仕事を続けていた。

 鬱蒼としていた場所は、すっかり開けて明るい雰囲気に包まれている。

 村への入り口である平らな道の左右は、簡易住宅で埋まっていた。

 既に全員の寝床は確保できているのだろう。


 今は、周囲の環境を整備しているとの話だ。

 村を突っ切る道の次は川へと続く道だったり、資材置き場を作ってはそこへの道も整えたりと、見違えるようだった。


(ぐぬ、未だ殺風景なお城ちゃん周りと比べて、なんと爽やかで村っぽいのだ)


 勇者は歯噛みしながら、覗き行為に至るまでの道のりを思い返した。




 勇者は族長の解説を聞きながら、村の視察へと向かったのだ。


 村へと続く斜面には、段々畑が形を見せ始めていた。

 その脇を通り過ぎると、丁寧に整えられた地面が見えてくる。

 荷を運ぶのに道は必要だが、とりあえずにしては力を入れている。

 枝葉を切り払っただけの一人歩くので一杯だった道が、木々を伐採して幅は倍以上に広がっていた。

 足元は、根や石なども取り除かれて平らだ。


「これは、大変な仕事だったろう」


 勇者は関心しきりで族長を労った。

 よく考えれば表玄関より裏面の方が立派だとは、悔しい気がしないでもない。


(いや、俺様の開拓はこれからなのだ!)


 勇者は後ろ暗い気持ちを払いのけて、辺りに気を配った。

 これならば木々などの資材を運ぶのも楽だろう。


 勇者の立てた看板の側へと差し掛かると、勇者は異界でも見たかのようにぽかんとして足を止めた。

 看板を立てた木の周りは、柵で囲まれた小さな空間が設けられていた。

 その内側には、看板の字が読めるよう邪魔をしないようにだろうか、両脇の切り株の側に丸太を切った椅子が数脚並べてある。


 思わず勇者は座ってみた。

 誰だって、こんな道の途中で良い感じの椅子を見かけたら、座ってみたくなるだろう。

 もちろん勇者は、小心者能力を発揮して、事前に何か得体の知れないものを圧殺しないか調べてから腰をおろした。 


「素晴らしい目印のお側ですから、仕事途中で足を休めるにも丁度良いかと思いましてな」


 族長がにこにこと解説してくれた。


「なんとも照れくさいな」


 そう言いながらも、思い切り嬉しそうに目を輝かせた。


 しかし、そんな僅かな照れくささが、何故か勇者を木陰から睨む奇行へと駆り立てたのだった。




「あっ勇者様だ!」

「勇者さまだぞー!」


 村民達は、にこにこ顔のうっすい目でありながら、意外と広い視界を持つようだ。

 覗き見ていた勇者はあっさりと探知された。

 黒い木々の狭間に白い頭があれば、嫌でも目立つことを失念していたのだ。


 気恥ずかしく思いながらも、進み出てご挨拶をする。


「族長から話は聞いていると思うが……俺様は今、少しばかり混沌の創出者との熾烈な戦いが起こりそうかもと手をこまねいている状態でな。なかなか様子を見に来れなかったのだ。すまないが、もうしばし耐え忍んでいただきたい」


 村民からは笑い声が起こった。


「とんでもねぇですよ」

「楽しく草っぱの破壊と創造を楽しんでやす」

「なかなか良い土地で、感謝しきりでございますれば」




 勇者は村民を引き連れて、意見を聞きながら村を見て回った。

 現在作業中の事をたずねたり、逆に要望を受け付けたりした。


「木材を多めに使いたい、道具やその製作場所を作りたいとな。良かろう、好きにするがいい。して君はなんだね。南側……ノロマ領だな、丘の麓からそちらへ迂回した道を作ったらどうかと。ふむ、それ採用」


 勇者はあっさり承認していく。


 東側をどうするかとの質問もあったが、それだけは保留にした。

 勇者達が行き止りの岩棚まで探索してから数ヶ月経ったが、やはり人が訪れることはない。

 それは別にしても、これ以上場所を広げるほどの人口でもないのだ。

 今は地道に基盤を整えていくことが先決だろう。



 三十人余りが済む程度の村だ。

 あっという間に一周して戻ってきた。

 だが勇者は感心させられてばかりだった。


「充実した時間であった!」


 鼻息も荒く、意気揚々と村を後にした。





 勇者は次の予定について考えていることがあったのだ。

 村内の現状をしっかりと確認しながらも、還元できることはないかと注視していた。


 勇者領のセントラル畑が稼動し始め、故郷の村人を呼び寄せる下準備は整った。

 今のところは領民達の手を借り、交代で見てもらっている。

 そのお陰で、自由な時間ができた。

 やることはたくさんあるから、正確には畑に固定されない時間ができたということだ。



 なぜ下準備なのか。

 簡易住宅云々の状況を見て回って、勇者は思いを新たにしたことがあった。


 今後、お婆ちゃん達を呼び寄せるならば、先に仮設住宅を用意しなければならないとは思っていた。

 しかし、それは簡易住居ではなく、もう少しましなものにすべきということだった。




 現在の住人は、自ら望んでやってきた元気もりもりのつわものばかりである。簡易住居で野宿同然の生活にも耐えられる。


 今も住民のほとんどが使用している簡易住宅は、棒を立てて布を張ったものだ。

 その辺で伐採した低木の枝を切り落とし、高さを揃えた幹を、丸く並べて地面に刺す。そのてっぺんがくっ付くように、まとめて縄などで縛り、上から布を被せて、地面には石などで固定しているのが基本だ。


 これが円錐状になるので勇者は筍のようだと呼んだが、日を遮る目的も兼ねて、木のてっぺんを枝葉が残ったままにしている者もいる。

 さらには切り落とした枝葉を簾のように束ねて、布の表面を覆うことで補強する者もあった。


 靴の脱ぎ履きをする事は行水時くらいのものだから、床はむき出しの地面のままだ。

 尻を冷やさず腰を下ろせるのは、干草で作った寝床くらいのものだろう。

 これは勇者同様に、年中肌寒い北の国ノスロンド王国出身達の基本である。


 もっと南方、他の国々から来た者には少々辛いらしく、地面にも枝葉を敷き詰めていることもあるようだ。

 元々彼らは移住の際に、毛皮の上着なども着込んでいたりと、それなりに防寒対策もしているようである。

 少しずつ住居の改善もしながら、最近どうにか慣れてきたようだった。


 しかし彼らは、足腰の衰えた老人とは違い、自力で改善ができる。




 正直なところ、ほとんどの季節が雪に埋もれている故郷だ。

 例え年寄りだろうと、南方から来た冷気耐性能力が貧弱な者には負けないだろう。

 負けないどころか蹂躙できるに違いない。


(耐性能力で蹂躙というのも想像できんな……)


 勇者は冷気耐性能力持ちと持たぬ者のぶつかり合いを妄想してみた。


 寒さに強いということは、より寒い過酷な環境において、防具なしで生き延びる率が高いという事だ。

 その為、耐性のない者は防寒具に全振りで対処することになろう。


 勇者は閃いた。


(くくく。ならば、その多層構造防寒具を一枚一枚粉砕していく勝負となろう。果てしのない我慢大会か……うぅむ地味だな)


 なかなかに熱い特化能力対決だと思ったのだが、こういったものは妄想中が一番楽しいのだ。

 創造神である妄想者には、その舞台や状況のほか、戦う者達の心理状態まで全てが手にとるように見えるのだから。


 勇者は、考えが明後日の方角に向かっていたことに気づいて自嘲した。


(ふむ、心理状態などは理解できんのだから、別の動きも加えたものが良かろう)


 相変わらず勇者の思考は、ずれたままに上書きされていく。


(そうだ! 天下一乾布摩擦大会などかね。おおっ、それっぽい。故郷の村がこの地にできたならば、そういった地域の名物的な催しは、領内の交流に一役買いそうではないか。しかもうまいこといけば領外への宣伝となるやもしれぬ。うむ!)


 とりあえず何かの結論が導きだせたことで、ようやく妄想勇者の暴走は止まった。




 勇者は片手で顎をさすりながら、ご満悦で口を開いた。


「ふふふ今日はちょっとばかり冴えているようだ。そう思わんか行き倒れよ」

「さあ……ちょっと人の妄想まで推し量る能力は持ってないっすから」


 当然のように語りかける勇者に、また何か言ってるといった面持ちで行き倒れ君は答えると足を止める。

 視察を終えて帰路についていた勇者は、妄想中に城の前へと辿りついていた。


「それで、なんの話だったかね行き倒れよ」

「どの、何っすかね」


 勇者は本気で問うているわけではなかった。

 行き倒れ君も今では理解している。

 単に思い出すきっかけ探しなのだ。

 はた迷惑な癖である。


 勇者は話が逸れていった分岐点へと、精神時間をぎゅいぎゅいーんと回帰させる。


 短い黙考の後に、勇者は目を見開いた。


「そうそう、あれだよあれ。勇者村発足の下ごしらえ計画についてだ!」


 時間に余裕のできた今、勇者の次の大仕事はこれなのだ。


 今は思考があちこち飛んでも、わずかに集中するだけで思い出せる。

 歳を取っていくと、この時間が長くなっていくのだろうか。

 ふとそんな一抹の不安を胸に抱いたが、また話がそれると困るので追い払った。


(今晩は、その辺の計画をしたためてみようではないか)


 屈強班が紙束を調達してくれたお陰で、のびのびと書き散らせることが嬉しかったのだ。

 小心者能力は、たくさんあるからと思っているとすぐに底をつくぞと囁くが、勇者はその声をねじ伏せた。


(いっ一枚だけだから!)



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