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完徹の勇者  作者: きりま
領地防衛編

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第四十五話 手紙の行方

 この辺の領土統一。

 もうこれ以上の大きな出来事はないだろう。

 そんな気持ちが緊張を解いたのだろうか、木椀を手に竃を囲み、朝食を啜る全員がくつろいでいるように見える。


 一つの区切りとなったのは確かだろう。

 しかしそうして出来た心の余裕が、勇者にあれこれと余計なことを考えさせる。

 勇者はふと気懸かりを会話に乗せた。


「手紙送り隊はどうしているかな。そろそろ戻ってもいい頃合だ」


 護衛その二君らが出かけてから、とうに半月は過ぎていた。

 半月というのも適当な見積もりだったから、過ぎたからと気を揉んでも仕方がないことではある。

 しかしお任せした内容が重要なだけに、考えれば気もそぞろになってくるのだ。

 それに、領地が統一され、全員が勢ぞろいして欲しかった。


「気にはなりますが、気長に待ちましょう。彼らが戻った暁には、目玉が飛び出そうなほど、この地を変化させようではありませんか」

「それは良い案です。我らも気合が入ります!」


 仲間の身のことだ、コリヌ勢が一番気がかりなはずで、勇者は失言に気付いた。


「その通りだな。俺様達ができることを精一杯、気合を練りこんで大地を屈服させるべく頑張るとしようか」


 相変わらず大地は仮想敵とみなされているようである。

 とんだとばっちりで可哀相に思う仲間達だった。





 午前中の一時を、勇者は農民の皆さんに指導を受けながら、土の改善などに取り組む。

 彼らにもそれぞれ各種畑をお願いしたので、その後はまた勇者と行き倒れ君の二人で精を出していた。


 試作畝も十号まで進み、生育具合の検証も十分といえる。

 そろそろ畑に移すに良い頃合だった。

 本格的に移せば、まとまった人手を頼める。

 ぼっち格闘ともおさらばなのだ。



 あと少しだと勇者が気合を入れなおしていた、そんな午後のことだ。

 勇者の心配を読んだかのごとき報せが、領内を駆け巡った。


「馬車だ、馬車が戻ってきたぞぉ!」


 勇者は鍬を放り投げた。


「なにっであえであえぇ! 出迎えだあっ!」

「でかい声ださなくても聞こえてるっす!」


 行き倒れ君以外に人はいない。

 二人は城近くの道へ向かって駆け出した。





 勇者城前の竃の先、開けた場所に幌のてっぺんが見えた。

 周囲はすでに大歓迎でまとわりついている人だかりで、馬の頭が見える程度だ。


「無事に、戻ったか!」

「勇者さん只今戻りました!」


 勇者が駆け寄ると、人だかりは割れ、遭難組屈強班の姿が現れた。


「うむ。よくぞ何事もな……あれ、その二君はどこだね」


 幌の中を覗いても、馬の足元から馬車の下を覗いても、見覚えのある顔がない。


 勇者は立ち上がるや、屈強班の一人を睨み、胸倉を掴んで吊り上げた。


「貴様らやはり俺様を謀ってその二君を亡き者にしたのだな賞金首かそうなのか!」

「ぐええちがっ! ぐひゅー……」

「わああ落ち着いてください! こっこれを見てください!」

「そうなんです、護衛さんに先に戻るように言われたんですって!」

「勇者さんっなんか事情がありそうっすよ、ほら!」


 行き倒れ君に止められて、勇者は手を離した。


「一体どういうことだね」

「こっこれを受け取ったんです」


 慌てて差し出された紙切れを、勇者はじろじろと舐めるように見る。


「ぬ。証拠隠滅か、それとも捏造かね」


 毒の塗られた刃先や針やらはなく、嫌がらせに吐き出された唾の痕跡も見えない。

 念入りに確かめてから、そっと手に取った。

 そこへコリヌやタダノフらも駆けつけた。


「馬車が戻ったと聞いたが、すごい声が聞こえましたぞ勇者よ、なんの騒ぎですか!」


 勇者は目を通した手紙を、コリヌの眼前へ掲げた。


「この筆跡、護衛その二君のもので間違いないかね」


 勇者はコリヌへと真贋を確かめた。


「署名の最後がぐるぐると巻いている無駄な癖……確かに、彼の筆跡です!」


 代わりに、その一君が答え、コリヌは頷いた。

 内容は短い。

 手紙には、やることができたから先に戻るよう書かれているだけだ。

 それが、勇者とコリヌ、そして護衛君二人を氷りつかせた。


「なんなのさ不安になるじゃん!」


 コリヌは黙り込み、目を細めて口髭を引っ張る。

 護衛君達は、コリヌが口を開かないのであれば答えることはないだろう。

 タダノフらの疑問に、勇者は答えた。


「護衛その二君は、本物領主の部下だったのだよ。例え母国を離れようとも、その心得で動いている。その彼が、こんな曖昧な内容をよこすかね」


 本来ならば、明確かつ端的に事実を述べるはずなのだ。

 言葉の意味を飲み込むような静けさの後に、ノロマが口を開く。


「えーと言えないようなことが起こり、その渦中にあるというので?」


 ノロマの推測に、勇者だけでなくコリヌも頷いた。


 かつての主、コリヌが気紛れに第二の人生を送るなどといって移住する際に護衛君らはついてきた。

 コリヌ自身も、駄目ならば簡単に戻れると高をくくっていただろう。

 辺境の開拓を任されてきた人生だったからこそ、余計にだ。

 その延長線のようなものだと思っていただろう。

 だから軽い気持ちで誘ってみたのだ。

 しかし護衛君らは、あくまでも主従関係を貫いている。

 元の地に戻れば、身分が明確になるからだ。


 移住すると言いはしても、それなりの地位にいた、戻る場所のある者達だった。

 だから勇者も、コリヌの現領地に対しては、何をしろとの口出しはしなかった。

 単にコリヌの方が経験者だからというのもあったが、別荘にでもしたいのだろうといった気持ちもあった。


「どこだろうと、開拓作業には危険がつきものとはいえ、これは国の事業ではない。私自身の道楽……」


 やや沈黙の後に、コリヌは低く呟いた。

 同じ仕事でも、その責任の所在について改めて考え及んだのだろう。


「コリヌよ、護衛君達はそんなことで恨むような男達ではなかろう」

「その通りです。我らは自ら決断して出てきたのですから」


 落ち込みつつあるコリヌを、勇者と護衛君らは慰めた。


「うむむ、甘かったと言わざるを得ませんな。息子に地位を譲った以上は、もはや帰る家はないのだと、本当の意味で理解しておくべきでした」


 コリヌは決断し時をわきまえている男だ。

 心配せずとも、あっさり気持ちを切り替えた。


 しかしその目には、決意の炎がめらめらと宿っている。


「勇者よ、遅まきながら私も本気で抗いますぞ」


 勇者はその決意を受け止めるべく、深く頷いた。


「あのう、そんなに大変なことなのでしょうか。もしかしたら届け人がせかす中、尿意を我慢していたためにおざなりな内容になったとかあったりしませんか」


 族長の鋭い指摘に、もし違っていたら恥ずかしいといった気まずさが顔に表れる勇者とコリヌだった。

 だが勇者は持ち直す。


「ええい族長が見落とすとは、信じられんな。よく見たまえ。こんなに丁寧に、清書しなおした後まである。書名のぐるぐるも、腺がくっ付かないように細心の注意が払われているではないか。漏らしそうな精神状態で成せる技ではない!」


 族長は目を見開いた。


「なんとわしも老いたか……」


 適当にあらを探して言い連ねてみたが、意外と本質をついているように思えて、勇者はいい気になりかける。


 だが、その二君が苦境にあるかもしれないことが真実味を帯びたのだ。

 苦味も同時に湧いていた。


「屈強班の皆さん、疑ってすまなかったな。もう少しばかり、詳細を聞こうか」


 勇者は、集まっていた人だかりに仕事へ戻るように伝え、仲間達と屈強班の皆さんを従えて竃へと向かった。



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