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完徹の勇者  作者: きりま
領地防衛編

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第四十四話 職能とその適正

「この底板、これくらいっすか」

「どれ。うむ完璧だぞ行き倒れ!」


 勇者は木箱に小細工していた。

 全領主さん方から受け取った、領主承認証書の置き場に困ったのだ。

 昨晩は抱えて寝たが、ずっとこのままというわけにはいかない。

 いずれ涎の洗礼を浴びせることが恐ろしかったからだ。


 そもそも外の人間が滅多に通らず、周囲が顔見知りとなった者ばかりだからといって、道具箱にしまっておけばいいというのは迂闊である。


 そこで木棚の最下段、いつも道具箱を置いてある直下の地面に穴を掘り、木箱を埋めこんだ収納場所を作ることを思いついた。気休めの湿気対策で一回り小さな木箱をもう一つ詰める。そしてその底を二重にすることにした。

 勇者は、布きれにくるんだ証書をそこへ仕舞うと、行き倒れ君が削って調整した底板を受け取って押し込んだ。


「今はこれで満足としようではないか」

「他にどうしようもないっすしね」


 最後に、その上を隠すように道具箱を並べると、立ち上がって全体の具合を確かめる。

 違和感のない木棚の様子に満足すると、畑仕事へ向かおうと城を出た。




 証書を受け取りはしたが、それで権利の移譲が完了したわけではない。

 相互の理解の確認と、状況の変化を分かり易く示すために受け取ったに過ぎないのだ。

 甚だ不本意ながら、またしてもあのたわけた役人へと報告しなければならない。

 ひと悶着起こるのは間違いなかった。


 鍬のようなものを手に、勇者は待ち受ける問題について思いを馳せる。


(ひと騒動で済めばいいが)


 勇者は渋い表情で地面を掘り起こした。


 起こりうる不愉快な問題は二つと、勇者の考えは続く。

 一つは、全領地を合わせて広くなった分だけ、さらに税の利率を上げられること。

 それはそれでいい。

 既に勇者は全力で反駁するつもりでいる。

 理想としては、規定の半分で済む初回を支払った上で、次回は無理だと現実的な分量を交渉したかったが、当初でも難しいと思っていたことだ。ここまできたら腹を括るしかない。


 そしてもう一つ。

 前回役人は、一度報告したものの急な変更は困るだのと、難癖をつけるためだけにつけてきた。

 勇者と他の領主間での約束など、無効とされる可能性は高い。

 国へは報告しないと言われれば、それでおしまいだ。

 その時はまた、無駄かもしれないが、こちらの言い分を記した手紙を出すつもりでいる。受け入れてもらえるかは分からないが、ささやかながら抵抗は続けなければならない。



 そこで失念していたことに気づき、手が止まる。

 前回、役人たちは不意にやってきた。

 二期目で会おうと言っていたが、経過を確かめに来ないとは限らない。

 そうなれば対決は早まるだろう。


 報告をしないわけにはいかないのだ。

 麓に移住してもらった鶏さんたちを戻し、口裏を合わせて変化がなかったように見せる。

 そうすれば、ひとまずは凌げるだろうか。

 勇者は首を振ってその考えを否定した。

 様子見と称して来るからには、きっと新たな難癖を用意してくるに違いないと思える。


 勇者はますます苦渋の色を浮かべた。


 それならば撹乱するようなつもりで、あえて領土統一を申告したほうがいい。

 無効と主張するか、咄嗟に揚げ足取りに走るか。どちらにせよ、方向修正せざるを得なくなるはずだ。


(カウンターアタックか。それもかっこいいが、逆に喰らう危険もある。慎重に応対せねば)


 いきり立って、敵対心丸出しで対応してしまった己を恥じていた。

 どう話を持っていこうが、役人は結果を変えないだろうし、そういった絶望から激高することを待ち受けているのだ多分。


(弱気は損気だぞ! 結果を変えるくらいの意気込みで立ち向かうのだ!)


 勇者はまた鍬もどきをふりかざした。



 確認を取らねばならないといえば、故郷のこともある。

 勇者は故郷の村人ごと呼び寄せて完全に移住するつもりでいる。

 だからこそ、他の者たちよりは本気度が高いつもりでいるのだ。

 なんせ移ってしまえば、戻る場所がなくなるのだから。


 雪の山中で暮らすよりははるかにましだろうと思っての、勇者の計画なわけだが、嫌だと言われることを考えていなかった。

 あんな場所でも、細々と暮らし続けてきたのだ。

 何かこだわりでもあったらどうしようかと思った。

 今さらだ。

 なにも無闇に移住するはずだと思いこんで決めたのではない。

 幼き頃から不思議で、聞いて回ったことがある。


「どちてーどちてこんな、ころころと人がちにまくる村にいつづけるの、だ!」

「しかたないんじゃ、うっとうしい小僧っこめ! ちごとせんか。ほれ干し芋をあげよう」

「わーいそんちょうはいいやつだな」


 食い物につられて、すっかり忘れてしまっていたことも思い出した。

 改めて思い出してみる。

 かすかに残る記憶では、大抵の者の理由が諦観のようだと感じたのだ。


 今や若者は過酷な環境を嫌って、山を降りてしまっているのもあり、過疎化は進む一方。年寄りばかりが残っても、村の維持はできそうもない。


(しかしどうにか説得しなければ)


 勇者は、今そこにある危機を払いのけ、やがて訪れる暗雲たる未来から村を救いたい。

 それが第一義なのだと、胸に刻みなおすのだった。





 勇者は早々に作業を切り上げた。


「行き倒れよ、勢力を鞍替えした輩との密談だ!」

「会議っすね」


 今朝は準備もあったので、ひとまずは今までと変わりなく過ごしてもらっていた。

 なんとなく考えがまとまったのだ。

 勇者はコリヌも呼ぶと、平地へと向かった。



 領主さん改め、勇者の領民は平地の中ほどに集められた。


 家畜を扱う者など専門性の高い職能を持つ者は、その仕事を続けてもらう。

 畑領主さん方には、お得意な作物ごとに振り分けた。

 そして勇者のようなお手伝い専門の一般人には、それぞれの畑へと属してもらうことにした。

 ただし、流動的なものであり、人手が必要な場所へと手を貸してもらう。


 元大畑領主さんには、細切れだった領地を取りまとめて畑を大きく広げてもらい、その管理能力も期待した。

 一つ心配だったことは小作人達への処遇だ。


「しかし全員領民となるということと、速やかな作業の分担を行うため、小作人君達も同等の身分になるが良いのかね」


 そこそこ人数がいるために、出来れば大畑さんの許可なしであれこれと頼めるようにしたかったのだ。

 だが大畑さんは、感無量といった喜びを露にしていた。


「憧れだったのです。大きな畑を幾つも管理する俺かっけーって、一度は思ってみたかったのですよ。だからこの地に賭けたはいいものの、意外と敷地を確保できなかった……おおぉ牛の尾のように舞い、鎌のように刈るぞ!」


 大畑さんが暑苦しくシャウトすると、小作人だった者達も叫んだ。


「そ、そうか、ご希望に添えられて俺様も嬉しいぞ。増産体制を整えるのが急務なのだ。無理を強いるが頼むぞ」

「おおおぉっす!」


 質問やら非難やら浴びせられるかと思ったが、物凄い気合にこちらが気圧されるほどだった。


「コリヌも人手を確保できたな」

「一人抜けている分もありますから助かりました。では私は早速戻りますぞ」





 コリヌ達を見送ると、ノロマから頼まれていた助手候補の選定だ。

 勇者が見当をつけていた者へ尋ねると快諾してくれた。

 すぐにノロマ領へと連行する。


「なるほど裁縫領主さんとは盲点でした。確かに手先は器用でしょうとも」


 丸っこい頬を持つふくよかな女性だ。


「やですよもう領主ではありません。ちっこい町で仕立てだけで食べてはいけんもんですからね。渡ってきたんですよ。布の塊ってのはかなり重いんです。腕力も体力もあるから、お任せください薬領主さん!」

「まじない領主さんですぅ!」


 医者か何かかと勘違いしているのか、裁縫さんは人助けになる仕事だと喜んでくれたのだった。

 残念だがノロマは、医術の真逆に位置しそうな呪術専門である。


「ははは薬作りは副業だそうだ。しかし暫くは薬草園作りに気合をいれてくれよノロマ」

「そのお約束ですからな。重い腰を上げて頑張りますとも」




 次にタダノフへの助っ人を紹介しにタダノフ領へと向かった。

 フリーダム耕作に相応しい人材がいたことを思い出したのだ。

 役人を返り討ちにしてやるむしろそれしか出来ない、と息巻いていた下働き領主さんだ。

 他にも体力自慢の者たちをタダノフに押し付……任せることにした。


「あたしの方針はぁ力が全てだ!」

「いぇす筋肉!」


 その様子では耕すというより塹壕でも出来そうだと思った勇者は少し悩み、頑固親父そうな畑領主さんをお付けすることにした。

 申し訳なく思うが、彼ならばきっと流されることなく、指示していってくれるに違いない。


 勇者は全ての振り分けを終えて、予定表を閉じた。


「うむ。どうにかなるものだな」

「これで明日からは落ち着くといいっすね」

「本当にな。さすがにあれもこれもと続けざまでは、自分の仕事が進まん。いくら俺様でも、分身の術は体得できたとしたって、それぞれを独立駆動させるなど無理だろうからな」

「そもそも分身の術がおとぎ話っす」

「ええい、夢のないことを言うな」


 勇者達は、川で行水してその日の仕事を終えるのだった。



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