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完徹の勇者  作者: きりま
領地拡大編

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第四十話 飛び地

 移住希望の単身領主さん方を引き連れて、勇者は意気揚々と丘の上へと戻った。

 だが勇者を待ち受けていたのは、仲間のお小言だった。


「まあた難民を拾ってきたのですか!」


 勇者が呼びかけることもなく突然飛び出したので、何かあったのだと心配した行き倒れ君はコリヌらを呼び集めていた。


 竃周りに、状況が分からないために不安げな顔が並んで待ち受けていた。

 全員が集まったのを見て、行き倒れ君は様子を見に平地へ向かおうとしていたところだった。

 そこへ、朗らかな笑顔で勇者は戻ってきたのだ。

 思わずお小言の一つや二つは飛び出るというものである。


「だっだってコリヌ、こやつらは役に立つのだよ!」

「餌だってただじゃあないんだよ」

「きちんと面倒みてくださいっすよ。俺も一杯一杯っすから」


 勇者と背後に並ぶ領主さん方はしゅんとした。


「分かっているのだ。もはや俺様の手には負えない事態であることは……」


 勇者は下を向いて、両の人差し指の先をつつき合わせた。


「おほん、面食らってしまったものでつい。罵倒して夢心地になるような趣味があるわけではないのです。領主さん方には申し訳ない」


 コリヌはバツが悪そうに口髭を引っ張った。


「いやあそちらの事情も考えず」

「押しかけちまって」

「恐縮こけ」


 領主さん方とご挨拶を交わすとコリヌは言った。


「では滞在場所などを考えませんとな」


 勇者は両拳を握って顔を輝かせた。


「じゃあ、囲っても良いのだな」

「囲うって……勇者の領地ですからな。決めるのは勇者ご自身ですぞ。あまりにとんでもない事であれば諌めもしますが、私は出来る限り計画がうまく行くように助言させていだたくだけです」




 緊急竃会議開催だ。


 勇者は城から自作の地図を持ち出して広げた。

 人が増えてから、到底せまい城内での会議は無理だった。

 そのため竃の側には、高さが低く細長い木台を置いてあった。

 柵を作った残りの木材で組み立てたのだ。

 普段は長椅子としてや、ごろ寝して日向ぼっこする寝椅子としても便利な勇者自慢の木台だ。


 その木台の上を、仲間達と眺める。


「レビジト村が東のここ、お城ちゃん周辺は故郷の村人のために予約済みだ。したがって領内で好きにできる場所は、両者の間の斜面辺りとなってしまうのだが」

「それでは不便でしょうな。段々畑も作ろうかと話していたことですし、そのように準備も進めてますからなあ」


 族長の言葉に頷いた。


「かといって空きのある領境を、ぐるりと取り囲むように人を置いていくというのも、能率がよくないというか」


 まずは勇者や仲間達が相談しているのを、ふむふむと聞いていた領主さんたちだったが、一通り言葉が交わされた後に地図から顔を上げた。


「それについて、まずは前提というかお話をしなければならんことがあるようですね」


 次は領主さん方のご意見を伺おうと、勇者達は口を閉じて言葉を待った。


「俺達の領地の権利の所在についてですよ」

「順当にいけば、このまま勇者さんに委譲することになりますわな」

「だけども俺達が移動したら人がいなくなる」


 勇者は親指と人差し指を開いて、顎を挟むように添えた。


「せっかくならした場所ではあるが、うぅむ。お隣領主さん方にお譲りするのはどうだろうか」


 勇者は呟いてからはっとした。

 その表情に、領主さん達も頷く。


「んだ。あいつらの税が増えちまう」

「当然そうなるな」

「そこで申し訳ないし心苦しいのだが」

「言いたいことは分かった。俺様の領地に組み入れたいと、そうだな?」


 申し出に、勇者は少し考える。


「確かに、お一人様領主さんには、お得な状況になるだろう。俺様としても、馬鹿みたいに課せられた今では微々たる増加だ。しかし本当にいいのかねそれで」


 領主さん方の顔を一人々順繰りに見た。

 理解は及んでいるのか、迷いはないのかと。


「領地の委譲をしてもらわねばならないのだ。領主ではなくなるし、財産でもあったものを手放すのだぞ」


 領主さん方は、屈託のない笑顔を浮かべた。


「はははったりめぇだろうが」

「領民になりたいと言ったろう。領主ごっこはおしめえってこった」

「俺達にゃ向いてなかったんだくけー」


 勇者も笑みで返した。


「いや当たり前でもないぞ」

「えっそうなの?」


「例えば、実質の運営権限を俺様に譲渡する。俺様の領内に自治権を残した領地を組み込みはするが、継承者はそれぞれの領主さん方のもの。そういう風にできなくもなかったと思う。確か、コリヌの領地にそういった場所もあったな?」


 コリヌは意外だといった顔で勇者を見た。


「えっええ確かに、開発途中の辺境にて致し方なくでしたが。駐屯地のようなものですな。しかし……」


 以前に、仕事にありつけそうだという建前で、面白い場所のようだという本音を隠し、訪れたことがあったのだ。


「分かっているコリヌ……領主さん方よ。俺様は公平を期すために、そういった手もあることを隠さず知らせたかっただけだ」


 勇者領での計算を見るに、広くなるほど課税率は上げられる。

 ならば領地を細かく設定することで、課税の利率を下げることができる。

 そうできれば、領地全体での支払い分量を減らすことができるのだ。

 自然任せの作物での支払いだからこそ、管理は手間でも、支払いを減らせる方を選びたいと思う。


 しかし、そんな姑息でせこい手が、あの役人に通用するはずがない。

 勇者以上の姑息さを感じたのだ。


「それを踏まえて、すっぱり諦められるかね。現在の窮状のために」


 勇者は真剣に問うた。


「そう遠くない将来に、いけ好かない木っ端役人が挿げ替えられて生活が楽になる、なんてことが起こるかもしれない。その時に後悔しないかね」


 領主さん方の目にも力がこもった。


「ボキャブラリーが貧困で該当する用語は寡聞にして存ぜぬが……馬鹿言ってんじゃねえ!」

「俺達は民に戻ると言った時点で、領主である資格など失ったんだ」

「こけーっ!」


 鶏領主さんの頭から、ばっさばっさと鶏の羽毛が舞い散る。

 羽の一つが地面に触れたとき――勇者の前には、書類が差し出されていた。


「つーわけで、異常な委譲の件は以上だ!」


 勇者は胸を打たれた。

 己の人生の岐路だというこんな場面で、下らぬ駄洒落。

 彼らは勇者が思うよりも随分と大人だった。

 勇者はがっちりと全員の書類を受け取った。


「しっかりと遺志は継ぐぞ」

「死んでねえよ!」




 村を作るのに領地拡張はしたが、たまたま場所が開いていたからだ。

 だが真の領地拡大が、ここに成ったのだ。

 しかも無血の拡大だ。


(くくく勇者っぽい。実に勇者っぽい)


 腹の内で黒い笑いが止まらない。


「ふははははは……ぶぐっ」

「笑いが漏れてるっす」

「失礼した。ってなんでお前が俺様を小突くのだ行き倒れ」


 行き倒れ君が背後から手刀を突きこんできたのだ。

 痛いが、それよりも勇者は不思議な面持ちで行き倒れ君を見た。


「まずいことがあったら脇腹をえぐれと、タダノフさんよりのお達しっす」

「なんだとタダノフ!」

「悪いねソレス。でも、常に側にいてやれるわけじゃないからさ、代わりを頼んだんだよ。だって今はおーじ様に夢中だからね!」


 タダノフの頬骨が赤く染まるのと同時に、コリヌは青褪める。

 勇者は一瞬だけタダノフの思いやりに感激したが、すぐに自身の都合かよと少しだけがっかりした。


「ぬぅ。それはお邪魔のしようもないから仕方がないな!」


 思いやりには違いあるまい。

 勇者は感謝すべきと思い直し、タダノフとコリヌの前途へと適当に声援を送って、頭を議題に戻した。




 やり取りを見届けたコリヌは口を開いた。


「では改めて滞在場所などを考えませんとな!」


 そして会議へと戻る。

 時を跳躍移動しループしたかに思えたが、確実な変化はあった。


「平地の領地を譲り受けたのだ。その場所をどう活用するかも考えなければならないな。あっと言う間に草ぼーぼーとなるだろうから、放置するわけにはいかないし」


 勇者は新しい紙を取り出して、譲り受けた領地の位置を書き込んでいった。


「隣近所に手入れを頼んでみようにも、彼らも余裕はないでしょう」

「おっ、隣同士だったところも結構あるではないか。ここらの畑を統合しちゃおう。それで毎日交代で様子見に出せば良さそうではないかね」


 目下全力で優先すべきは、勇者の領内の畑作りだ。

 平地の領地は周辺に迷惑をかけない程度に、ちょろっと手入れをするしかできないだろう。


「そうそう、それなんだがね。良ければ俺は、平地側の斜面に住まわせてもらえんかね」

「なるほどな。ならば俺もそうしようか」

「どういったことかね」


 領主改め元領主さん達の提案を聞いた。


「そうだな。領内の作業をしつつ平地の管理をするには、住むのに便利な場所はその辺しかないな」

「今はまだ歩きづらいですが、道もその内に整えれば済むことです」


 こうして元領主さん達には、丘の麓から中ほどまでの、比較的なだらかな斜面あたりに固まってもらうことにした。



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