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完徹の勇者  作者: きりま
領地拡大編

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第三十七話 画策

「牛領主さんから糞をもらってきてくれ行き倒れ。あっ牛のだぞ」

「分かってるっす。行ってきまーっす」

「人気だろうから、独り占めはしないようにな!」


 勇者は行き倒れ君と数人の遭難組の背にある背負子を見送った。


「俺様も気合を入れて働くか。いつもの倍にした分の半分は頑張るぞ!」


 要は少しばかり働く時間を延長すると言いたかった勇者だ。


 プロトタイプ畝も六号まで増やした。

 十号までを順に増やし、列ごとに違う作物や条件で育てるつもりだ。

 ある程度は行き倒れ君に詳細を伝えてある。


 勇者は耕作面積を広げるため、またしばらくの間は、大地の精霊との壮絶な戦いへと身を投じるつもりだった。

 色んな妄想敵や状況を設定してみたが、大地の精霊が最も心をくすぐったのだ。

 これで暫く一人遊びも捗るというものだ。


「うなれねじれし巨岩の槍! ぐっばかな……びくともしないし腕が痺れる、だと? だがまだだ! 旋風千手乱舞うおおおおっ!」


 集中力を発揮して鍬のようなものをふるう。

 道具が傷むと困るので、曲がった石を棒に括りつけたものを作ってみた。

 すぐに外れてあまり役には立たないが、その分うまいこと力を使いこなす技術を無駄に身に付けた。


 こんな作業の仕方では、仕事としては重大なパワーロスであることに勇者はまだ気が付いていない。

 しかしこんなことの積み重ねが、身体能力向上の訓練としては成功していたのだった。





 そんな激しい訓練という名の妄想をしながらも、対役人への計画をつらつらと考えていく。

 勇者は、集会で提示した案を通すにあたって、苦労した仲間との話し合いを思い出していた。


 説得が難しいのはコリヌだと分かっていた。

 逆に言えばこれで説き伏せられるものならば、平地民説得の可能性も高まるというもの。予行演習のつもりで勇者は真剣に臨んだ。

 いつも真剣なつもりだが、真剣の最上レベルだ。


「しかしどうするおつもりですか。いくら土地が余ってると言えども、人手が足りんのですぞ」

「手は考えてある」

「それが心配なのですが……いえまずはお聞きしましょう」


 納税は二期目からで、規定の半分の量というところに、勇者は目を付けた。


 集会では貸し出し畑への様子見期間を定めるのに、半年の免除期間を目安として伝えた。

 だが実際に支払うのは、一年後だ。


 一期目は既に半年も残ってないが、この期間での収穫量を調べ、二期目に備えたい。


 その二期目の納税時に、領地の拡張と増員数の報告をするつもりでいる。

 その後の規定量の変更は、単純に一律での計算などではないだろうとコリヌは言った。

 どれだけ増やされるか分からないが、その時点で再交渉に臨むつもりでいる。

 人が増えても土地が変わらない以上は、収穫量も増やしようがない。


 その交渉の為に、今期と次期は死に物狂いで働く覚悟だった。

 まずは規定の半分とはいえ、真っ当に払ったという事実を残したいのだ。

 自分達にとっても必要だから、まともな畑を持つつもりではいるが、間に合うとは思えない。


 その為のプロトタイプ畝だった。

 色々お試しの途中だが、短期で育つ作物をあれこれ育てている。


 短期作物を、支払日に合わせて一気に増産し、それらを混ぜ込んで誤魔化すつもりなのだ。

 今のところ順調だが、全体量が少ないからこそ使える手だと思っている。


(交渉の機会は、一度しかないだろう。そして俺様は失敗できない)


 コリヌは、ひとまずの間に合わせ案には頷いた。

 どのみち人がいくら努力しようとも、自然の気紛れにはどうにもならない。

 その辺は腹を括って、成せば成る成し遂げる意気込みで事にあたる。




「交渉も一筋縄ではいきますまい。無理だからはいそうですかと納得してくれる生易しい相手ではないのです」


 勇者は次に、もう一つの考えを提示した。


「手紙を出して欲しいのだコリヌ。そのう、息子さんから国あてにな!」


 雷に打たれたかのように、竃周りは静まり、そして騒然となる。


「なぬっ! なっなんですと」

「正気っすか! さすがに傲慢にもほどがあるっすよ!」

「身の程はわきまえるべきと思いますので?」

「餌が脳まで行き渡ってないんじゃないの」

「領主では飽き足らず国まで手を出すおつもりですか! 是非にとおっしゃるならば付き従う所存ですがさすがに村民だけでは荷が重い」


 コリヌだけではなかった。

 全員が一斉に勇者を諌める。

 一人族長だけがおかしなやる気を発揮するほど、衝撃を受けてしまったようだ。


「まずいかね」

「そりゃあまずいかまずくないかと言えば、まずい方かと思いますが」


 コリヌは頭を抱えて振ると、諦めたように溜息を一つこぼした。


「なんとまあ大層なことをお考えのようですな。一つ一つ、つまびらかにしようではありませんか」



 そして勇者は説明した。


「なるほろ。一応の保険、というわけですな。しかしそんな利用されるような真似、迂闊にするとは思えませんが」

「それは承知の上だ。ここはその内、いや地勢を考えればすぐにでも重要な場所となる。未だ整ってない状況のまま人を追い出せば、連合国側だって面倒なことだろう」


 勇者はこの地の未来の需要に思い至ったのだ。


「死の荒波を超える意味も術もない。南方へ行き来する者達のため、嫌でもここは経由地となる」


 お役人さん達だって南方の地へ向かうのに、ここで一旦休憩できるのは大きな利点だろう。

 なんせ海の道に最も近い町まで三日ほどもかかるし、しかも小さな町だ。

 そして彼らは兵の一団を伴う大所帯。

 我らをすぐにでも追い出そうものなら、遥々と南方までに必要な物資を持ち運ばなければならん。


 勇者はそうとつとつと語る。


「連合国中央はどう思う。棚ぼた程度に思っているこの機会。わざわざ再開発のために、面倒な合議を経てまで人を出すかね。期待があるなら、初めっから調査団を送り込んだのではないかと思えるのだ」


 いきなり放置したとしても、一から始めるよりはましな状態にはなったが、それでも仕切りなおしは大変な労力を伴うだろう。


「しかしですな、ひとまず国民を送り込むことで唾をつけたかっただけなら、すでに目的は果たしております」

「まだこの辺だけだ。現に南方まで人を送る予定のようではないか」



 もっぱら中央の興味は、砂漠の国々との販路を巡る諍いだ。

 それが南西側に集中しているのは、ものを売り歩いて旅をするのにちょうどよい道があるためだ。

 なだらかな土地で、人が幾度も通るうちに出来たという天然の街道らしい。

 その辺りは気候も年中穏やかで、点々とある国々へと道は繋がる。


 連合国も砂漠の国々も、隊商を率い色とりどりの布や細工品やらを売り歩いている。

 まずいことに品物が競合していた。

 どちらも客を遠ざけたくないために堪えはするのだが、不満はしばしば噴出するのだ。



 かつて各地を練り歩いて生活していた遊牧隊商民族が、国と称し手を取り合ったのがアィビッド連合国だ。

 砂漠との境目辺りで活動の仕方が変わるのか、砂漠の民族とは似た生活形態を持ちながら仲がよくなかった。


 争いの最も大きな理由は、定住地の有無だ。

 連合国側の民族は、定住地を設け、一定の範囲内で移動する。

 砂漠側は、範囲は特に持たずあちらこちらに顔を出す。

 そこで、しばしば出会い頭にいがみ合うことが多く、やがて深刻な敵対関係へと発展していった。


 定住地を持つ民族側は、攻め入られると不利だった。

 定住側は暗黙ながら不可侵で過ごしてきた小さな部族同士だったが、手に余り始め、対抗するために連合国として手を組んだ。


 各部族が人を出し合い、大きな争いは収束した。

 その後は一方的な攻撃はなく、小競り合い程度で安定している状況である。

 結局のところ、定期的に諍いは起こっているということだ。




 そんな状況が長く続き、連合国内でも北や東側の国々では、不満を持つ場所もあるなどとまことしやかに希望的観測が垂れ流されている。

 それでも連合国内での安全な販路を利用するために、耐えているらしいという噂だ。


 そこで勇者が思いついたのは、その不満らしきものを持つかもしれない北端の国へと陳情することだった。

 あくまで噂であるが、不満はないとしても異様に静かなのは事実だった。


「それで、コリヌが仕えた王へとお頼みしたいのだよ」

「え、王ってまさかその」

「そのノスロンド王様に直々だ!」


 コリヌが仕えていた王と言ったが、勇者の村も属している。

 が、特に山脈の中で隔絶されていたためにぴんとこないのだ。


 続けようと思ったが、コリヌは白目をむいていた。





 ノスロンド王国――公国として興り、現在は王制へと移行している大陸北端の国。


 もうちょい南にある連合国中央を形成する国々、その一つの国でのこと。

 三十代で王が病に倒れ、残された王位継承者は十代の王子派と、戦場で活躍し英雄と謳われた二十台の王弟派で対立した。

 しかし王弟は全く興味を示さず、王子を称えて辺境の地を賜ると、信奉者と共にあっさりと国を出た。


 戦いに明け暮れる生活に飽きたらしいとの噂が最も有力な説ということである。

 真実は定かではないが、史実では精力的に辺境を開拓した。

 時に北上してきた砂漠の民らと交戦して守りつつ、独立性を保てるほどの国力をつけたのだ。

 野心に違いはないかもしれないが、連合国含む他国と積極的に争うようなことはなかった。


 現在はその英雄も引退して、息子の代である。

 相変わらず、関心事は自国を維持し続けることだけに思える。

 連合国中央とも距離を保ちつつお付き合いしている静かな国なのだ。

 北端であるから、実際に距離があるせいなのかもしれないが。


 そして海の道周辺の土地は、連合国の預かりとなってはいるが、実際の警備や管理をノスロンドが担っている。


 大きな地震があり、その調査により発見された海の道が出来たことで、数十年ぶりに他国からの注目を浴びた。

 自国の領土を広げるチャンスだったかもしれないのに、それでも動きはなかった。


(あくまでも静観するつもりであれば、俺様の策にも勝機はある。俺様はただ、一言お願いするだけだ)


「動かないでくれ、と」





 役人は次にいつ訪問するかは告げなかった。

 他の領地の受付に通り過ぎることは考えたが、こちらに来るとしたら自然と納税の時期になるのではと考えていた。


 そして想定外のことは起こるのである。


「なに、お役人さん達がやってきたとな」


 勇者は役人再来の報せを受けた。


(そういえばまた一月は経ったか。充実していると時が過ぎ行くのはあっという間だな)


 今頃かと役人らの動向が気になった。

 南方がどうなっているのかは知りようもないが、距離がある分、落ち着くのも時間がかかるだろう。

 登録再開には気が早いのではないのかと思ったが、旅の道のりを考えても、取って返したといった感じだ。

 中央まで引き返さず、登録期間は近場をうろついているのだろうか。

 あまりに性急だった。



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