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完徹の勇者  作者: きりま
領地拡大編

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第三十六話 勇者とは

「あたしの麗しい名前の前に、またなんか変なもん付けてなかった」

「気のせいだろうタダノフ。ほれ飯の増量分しっかり働けよ!」

「そこは任せな!」


 南へ続く道のそば、勇者の立てた道標のほど近く。

 勇者はタダノフと遭難組の数人を従えて、森を幾分か切り開いていた。


 半円形に空間を作り、百人余りの人間が集まっても十分な広さを確保していく。

 ひとまずは場を作るのが先だ。

 体裁は後々整える。


「切り出したらこっちに移動してくれ。並べて椅子代わりにするぞ」


 しかし椅子くらいは必要だろう。

 立ちっぱなしは腰に来ると、勇者は心遣いを見せた。


「さっすが勇者領主さんとこは、力持ちが揃っとりますなぁ」

「その分よく食べるから大変だぞ」

「はっはそりゃ仕方ないわな」


 案の定、たまに平地領主さん方が覗きにきては戻っていった。

 場が開け、ざっと地面を均し、後は椅子代わりの木材を適当に並べていく段階には、察した領主さん方が手伝いに訪れた。

 木切れなどの片付けも含め、瞬く間に作業は終わった。



「いや手を貸していただいて助かった」

「ふっ自分達の使う所だからな。勇者領主さんだけにええかっこしいはさせられないさ」


 持ち帰る道具をまとめた勇者達も、改めて会場を見渡す。

 余った木材を組んで小さな演台を作り、丘のある東側に置いた。

 そこへ向けて三方に椅子代わりの丸太を配置してある。


「ひとまずには上出来だ」


 勇者は、集まっていた領主さん方に向かって声を上げた。


「皆も仕事があるだろうが、明日の日が沈む前にでも集まってもらいたい。英気を養いたいので今晩は失礼するぞ!」


 周囲から隣近所に伝えておくとの声が返ると、勇者は満足気に頷いて手を振った。


 まだ勇者にはやることがあるのだ。

 伝えることをまとめておこうと、夜更かしして頑張った。





 翌朝、集会でお茶を配る用意のため、護衛トリオや行き倒れ君には石ころで竃を作るようにと出向かせている。

 コリヌが言うには、これで移住時に馬鹿みたいに積んできた茶葉はしまいだそうだが、近々町へ向かうのだからと奮発してくれた。


 その時勇者はコリヌの発言が気になり、どんな目論見でいるのかを確かめた。


「コリヌよ。そうお茶っ葉ばかりは運べんぞ」


 そもそも何袋も買い占めようったって、茶畑のある場所でもなければ仕入れることすら難しいだろう。


「そうですな、へそくりも残り少ないですし。無駄遣いは控えましょう」

「いやそういう問題ではなく……」


 コリヌは勇者の心配を取り違えて言った。


「もちろん馬車を出しますぞ。徒歩では時間もかかる上、荷物の持ち運びも僅かとなれば食べる分だけで手一杯となりましょうからな。護衛三人を出せないのは心苦しいところですが」


 コリヌの中ではよほど重要なことなのだろうと、勇者は言い募るのは諦めた。

 しかし最後の点については話しておくことにする。


「いやその嗜好品だからそんなに割けないって意味だったがまあいい……護衛の件ならば遭難組の中から屈強な男達を選んだのだ。そこまでの心配はなかろう。なあ族長」


 傍らで、集会に持ち寄る荷を取り纏めていた族長に勇者は話を振った。


「はい、そりゃあもう我々が年配の者から女房まで、それに荷物も無事にここまで来れたのも彼らのお陰ですからな」


 族長は枯れた小枝を縛る手を止めずに答えた。

 今作らせている竃で火を起こすために運ぶのだ。


「助かるぞ族長。いつもならば行き倒れに任せる雑務なのだ」


 勇者は族長を見ながら礼を言って、話を戻す。


「聞いたところによるとだな、遭難組屈強班の皆さんは物凄いぞ。なにやら襲ってきた盗賊共をぶちのめした上に身包みはがし、棲家に乗り込んで物資を頂戴したばかりか、町へ届け出て報奨金まで頂いちゃってほくほくしたご様子だったのだ」

「なんと眉唾な……」


 勇者はコリヌの言に、至極真面目な顔付きで頷いた。


「話半分に聞くにしてもコリヌよ。よく見たまえよ。こんな襲ってくれと言わんばかりの暢気な村人達がわらわらと旅していて、何往復もした上で無事なのだぞ」

「信じられていなかった!」

「……確かに無事だったのは事実でありますな」


 コリヌも不承不承といった面持ちで頷いた。


「はっはっはまあ信じようではないか。実は彼らこそが賞金首で追っ手を逃れるためにこの地へ逃げ込んでいて、護衛その二君を騙まし討ちして金銭を奪い取ってさらに逃げるか、しれっと悲しみに暮れたふりして戻るやその内我らの寝首をかかんと、虎視眈々と狙っているのかもしれないなんて、そんな夢物語のようなことはそうそうないのだよ!」


 コリヌと族長は曖昧に頷いた。

 さすがは勇者が小心者能力と呼ぶ訳の分からない猜疑心は突き抜けており、常人にはついていけないと即断したからであった。





 勇者はしばらく落ち着きなく畑仕事をするも、浮き足立ってしまい早々と作業を切り上げた。

 城へ戻り集会に持っていく荷物を確認する。


「そしてとうとう、記念すべき第一回勇者大地領主集会が開催されようとしていたのだ」

「勇者さん、勝手に勇者大地とか言わないように。反感かったらどうするっすか」


 報告しに戻ってきた行き倒れ君は、勇者がうきうき呟いていたのを聞きとがめて注意した。


「もっもちろん会場では言わないぞ。第一回領主集会だとも。おっタダノフ、ノロマ、コリヌもようやく戻ったか。早速集会所へ向かうぞ」


 夕刻と呼ぶにはかなり早めだが、大勢集まるのを待っていたらちょうど良い時間になるだろうと言い訳し、勇者は荷物を持って飛び出した。




 勇者の心配は無用に終わった。

 既にわらわらと人が集まり、思い思いの場所に腰を落ち着け、持ってきた木の湯のみに護衛君から茶を注いで貰っていたのだ。


「ごめんねー待たせたかな?」

「ううん今来たばっかり!」


 勇者がそわそわ到着すると皆が優しく迎え入れてくれた。


(ふははさすがは娯楽に飢えた平地民よ!)


 しかし勇者は彼らの気遣いを見逃さなかった。

 お茶を頂く前に、勇者達が手を入れられなかった部分の掃除などをしてくれていた。細かい木屑も見当たらない。


「お寛ぎのところで申し訳ないが、集まってるのだから早速開催するぞ!」


 そこで全員が座り、護衛君たちはコリヌの後ろへ下がった。



 場が静まり、勇者が空咳をして口を開こうとしたのを遮る者があった。

 ごわごわした毛足の長い毛皮を、袖なしの上着にしている男が立ち上がっていた。


「俺は海の道近くから森との境目辺りに領地を構えている木こりだ」

「木こり領主さんか、どうしたね」

「道なんかないが、みんな適当に歩いてくるだろ? 俺んとこだけじゃないが、領地を突っ切っていくんだ。できれば、手を借りて分かり易い通路を作れたらなって思ったんだがどうだね。集会向きの議題だと思ってな?」


 集会開催にあたっての規則だかなんだかは、初めから明文化するのは悪手だろうと勇者は思い、ある程度は流れにのるつもりでいた。

 それにしても前口上すら始める前の、いきなりな提案であった。

 しかしこの数ヶ月で、それだけ問題点や改善点が明確になっていたのだろう。


「おおい抜け駆けかよ! ずるいぞ勝手に。それなら俺んところだって」 


 抗議の声が次々とあがり勇者は慎重に耳を傾ける。

 木こり領主の内容に反対なのではなく、何を優先すべきなのかという内容がほとんどだった。


(ふむ。やはり集会の提案は正しかった。やはり誰もが、様々な理由にせよ大勢の手を欲していたのだ!)


 勇者は腕を組むと、満面の笑顔をやや傾げた。

 西日を受けた勇者の歯が乱反射する。


「ふぅお!」

「眩しいっ」


 話が途切れた隙を狙い、勇者は声を上げた。


「俺様は今感動している! それぞれが解決したいと思う問題に気が付き、取り組みたいということがよく理解できた」


(そうだ平地民よ。俺様に注目するのだ! くくく……それでいっぐふっ)


 危うく黒い笑みが漏れ出ていた勇者は、タダノフから肘を喰らったが歯を食いしばって堪えた。


「まずは思い出して欲しい、俺様が言ったことを! 生活に身近な問題は、もちろん大切だ。だが、その生活自体を脅かすことがあると話した。最も優先順位が高い、というか殿堂入りの問題は納税についてだ!」


 問題として殿堂に入っては困るだろうが、特別さを強調したかったのだ。


「まず結論を言おう。今のままでは誰も払えない」


 ずばりと言った。

 集会を認めて開催したのだ、一蓮托生気分でいるはずだ。

 勇者は卑劣にも、お役人さんと同じ方法で皆を誘導している。


(だが、手法に悪はない。目的が善ならば良しなのだ!)


 姑息思考は加速する。


「ここで生活をするなら、全会一致して協力せねばならない。その為にあえて厳しい提案をする!」


 少しばかり気を揉ませるように言葉を止めると、残りを吐き出した。


「土地の足りない、または畑仕事でない領主さんには俺様の領内で余っている土地を貸し出す!」


 はじけるように、周囲はどよめいた。

 丘の上まで毎日わざわざ働きに行くなんて、場所を確保した意味がない。

 最後まで聞くようにと行き倒れ君やタダノフが叫んだ。

 今はよりいっそう注意して耳を傾けているはずだ。


 勇者は気合を込めて説明した。


「実際に土地を貸すのではなく名前だけだ。領主さん方の支払う分、例えば山羊領主さんなら乳とか毛とかと交換する。日々少しずつで構わないのだ。それを俺様は書き留めておく。その分を、俺様が領主さん方の代わりに収穫分で支払うとお約束しよう」


 ざわめきは動揺と困惑に変わった。


「それでは勇者領主さんの負担ばかりではないか」


 幾人かがそう口々に叫んだ。

 どんな裏があるのかと怪訝に思う者。

 他に良い手もなさそうだがと恐縮する者。

 なんだかよくわからないと困惑顔の者と様々だ。


「損でも負担でもない。もちろん苦労は承知の上。だが、今のところは場所だけはあるからな。それで俺様たちは食べるものに彩が増えて助かるのだよ!」


 さらに勇者は免除期間の半年で、どこまで出来るか見てみないかと提案した。

 うまく行くかもそこで判断すれば良いし、駄目だとしても平地民領主に損は無いと説明を試みた。


 やがて採掘領主さんが了承した。


「たしかに、今のままじゃあ糞詰まりだ……試すだけならなんでもやってやろうじゃないか」


 それは行き止まりとか行き詰るとか、そういった言葉なのだとは思うが、真剣な場だけに誰もが突っ込みは控えた。


 最も頑固者らしい男が了承したことで、他の反対意見も収まった。

 なんせ集会なのだ。

 異議があるなら次回に提案すればよい。


 そうはいえども事が事だけに、長い目で見て欲しいことを勇者は再度お願いした。


 さらに詳細を丁寧に伝えていき、お試し希望の領主さん方を募る。

 名簿を作って保管するためだ。

 意外なことに、田畑領主さん方も全員が希望した。

 勇者としてはしめしめといった形である。


 説明を済ませ、一通りの質問と回答も終えると、それぞれが方向を定め始めた。


「場所があるといっても、やはり人手は足りないでしょうから、輪番制で人を出すというのはどうですかな」


 平地では一番広い領地を持つ畑領主さんが提案した。

 小作人を連れていて、他の領主さんよりは余裕があるのだろう。


「これだけ大勢いれば、頻繁に回ってくることはないでしょう。お一人領主様にも負担は少ないのではないかね」


 他の領主さん方も意見を重ねていく。


 勇者の提案が現実味を伴って想像できたのだろうか、領主さん方の緊張感も収まったように見えた。


「今回は急な集会の開催や、急な提案へとお付き合いいただいてありがとう。次回は身近なことへも目を向けようではないか」

「おっしゃー!」

「いやあ久々でなんだか懐かしかったよ!」

「なんつうか、逃げずに諦めずに腐らずに、もう一度領主道を極めてみようかと思い直したよ!」


 結局のところは、お祭に参加した気分なのかもしれない。

 しかし、楽しんで生活していくための人の知恵でもある。

 満足気に帰っていく領主さん方の背を、勇者は頼もしげに思いながら見送った。





 勇者は寝床で、集会について何度も思い返す。

 今までなら失敗したところはないかといったことが気になってだ。


 それが意外なことに、心臓がどきどきしていないことに気が付いた。

 会場に向かった時の緊張は、期待に胸を膨らませてのことだった。

 不安からではない。


 本物の勇者に俺様はなるぞと心に誓った夜、縋りたいと思った勇者像。

 それが力を与えてくれているのではと思えた。


 勇者は穏やかな気持ちで目を閉じた。



 多くの者が望む心の内の声へと耳を傾け、解決の道を開くこと。

 直に解決の手を貸すことはしない。

 困難には盾となるべく真っ先に立ち向かう勇気は必要だが、それは心の支えとなるためだ。

 どんな困難でも乗り越えられそうだと示す、希望という名の支えだ。


 鉄の意志によって、大切なものを守り抜こうとする執念。


 勇者とは、勇気の体現者なのだ。



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