第三十五話 百領主合体キメレンノジャー
「よくぞお集まりいただいた。領主さん方よ、俺様が何を企んでいるのかとお思いだろう。まずは聞いてくれ」
平地の中ほど、適当に開けた場所の領主さん方に了承をもらい、全ての者に集まっていただいていた。
「俺様は故郷から人を呼び寄せるために、広大な領地を陣取った」
一人で大層な土地を確保してしまったので、嫉妬に狂った平地民になじられるやもと怖れていた。
だから少し回りくどいが、個人的な理由を話した。
そんな気持ちがあれば既に嫌がらせされているだろうが、ずっとごたついていたために勇者はそこまで気が回らない。
「ほお」
「へえ」
「さいでしたか」
なんとも気が抜けた相槌が、平地を駆け抜け轟き襲いくるように勇者の耳には届いた。
勇者はまだ何も用件を言ってないので他に返しようもない。
だが緊張のあまりに彼らの反応が不気味な圧力に思えてきて、怯みかけていたのだ。
その時、背後から行き倒れ君が小声で話しかけてきた。
「あー勇者さん……妄想の敵なんかいないっすからね」
つい勇者は防御するように両腕を構えていた。
「はっ! 助かった行き倒れよ……暗黒より引き摺り込まんとする邪悪な術に嵌っていたようだな」
妄想の敵はまだいるようだ。
勇者は気後れしている己を内心で叱咤激励した。
「先日、遅ればせながらのご挨拶に参ったな。その時にお話したことで気が付いてしまったことがあるのだよ」
勇者はゆっくりと大きな声で切り出した。
「実はな、納税のことについてなのだ。色々と計算をしてみたらば、どうしても支払えないのではと思うのだ」
いきなりずばりと核心に触れるわけにはいかない、ショックのあまり勇者のように心折れかけてもらっては困る。
そのため、ぎりぎりアウトな腺でいくことにした。
「幾ら自信があっても、努力して毎日頑張っても身体は一つ。出来ることには限りがある。しかしお役人さんの課した税は、どうにも無理があるように思えてならんのだ」
彼らだって日々苦労しつつも、楽しむことで乗り切っているのが伺えた。
その自尊心を傷つけるわけにはいかない。
「いや多分、いくらお役人さんといえども計算は間違うこともあるんじゃないかとね。なんといっても新しい土地だからな」
役人達の悪巧みと思えそうなことも、今はまだ伏せておく。
「今回は初めて尽くしなのだ、失敗もしょうがなかろう。かといって、このままでは乗り切れない」
勇者は、無理なものは無理だという点だけ断定して告げた。
ぎりぎりなら、ちょい頑張ればいけるじゃんと思われては困る。
「あまりに信じ難いことだと思うが、俺様も心底弱り果てている。そこで領主さん方、いや全ての者の助けが欲しいのだ」
勇者が一通り話したとみるや、領主さん方は隣の者らと話しだした。
辺りはざわつき、取り留めもない感想が口々に漏れている。
勇者はすかさず、小心者能力の加護の一つを発揮した。
ものすごい集中力をもって聞き耳を立てる力だ。
なるべく多くの意見を回収するためだ。
「そりゃあ大変なこった?」
「助けと言われたってなあ……」
「俺達も手一杯だよ」
「食べる分だけでもぎりぎりだしなあ」
「向こうに戻って色々と取り寄せないことには、まだ道具も何も揃わない。でも
金もないけどさ」
「どうせ無理でも期間いっぱいまでは領主気分でいられるわけだし……」
どうにか聞き取れた幾つかの中で、重要な意見を吟味する。
(なんと、領主気分が最終目標の弱気な者が存在するとは)
なんせ一週間ちょいも争奪戦線の前に陣取った、つわもの共なのだ。並大抵の精神力と体力の持ち主ではあるまい。
そこまで意気込んだからには失うものなど何もないか、夢以外は置いてきたなんて遠くを見つめて浸りきっている御仁ばかりと思っていた。
(なるほどコリヌの体験談は真実味がある。そこまでの意志を貫いておきながら、まさに領主となった途端に燃え尽き気味な者が出てくるとは)
コリヌは勇者がそうなのかと思って言ったのだが、その部分は都合よく忘れていた。
(だがまだだ。まだ戦う意志を持つ者が多いではないか!)
ほとんどの困惑の声は、日々精一杯頑張っているからこそ出たものだった。
別に勇者のように何かに挑んでいるわけではない。
しかしこれならば勝機があると確信した。
「まさに、その通りだよ諸君! 俺様も困っているのは同じことなのだ。だが、良い案が浮かんだからここにいる。仲間に相談したらば、それは良さげだと太鼓判を押してくれた案がな!」
勇者は姑息な手段に訴える。
個人的なぽっと出の案ではなく、勇者の仲間といえども相談した上で出した結論だと強調したのだ。
結局はほとんどが村や小さな町育ちの者達だ。
そういった大勢の意見の合致には弱いのだ。
(小心者能力をここで発揮せずして、いつ使えというのだ。頑張れ俺様、うまく彼奴らを口車に乗せるのだ!)
勇者は拳を握り締め気合を入れる。
久々だったが完徹能力使用時並に集中力を高めた。
何かが脳内で炸裂するような感覚――そして、全身に駆け巡る興奮!
ごくり……そう緊張に喉を鳴らす音が、人垣から聞こえた気がした。
そして話し声は静まり、勇者へと視線は向けられていく。
「ど、どうやら、本気のようだな」
「からかってんじゃなかったのか……」
勇者の本気が、別の意味で効果を発揮したようである。
強い意気込みを前にして、周囲の意識は勇者に集まっていた。
目にする限り、気がそれている者はいない。
畳み込むなら今の内だ。
「そっそれで、俺達に一体なにをさせてぇんだよ」
がたいのいい領主さんが、緊張バリアーを破って声を上げた。
(ふっかかったな!)
普段の勇者ならば、ここで含み笑いして全てを台無しにしていただろう。
集中力を高めていたために、真剣な顔のままでいられた。
またしても別の方向で、小心者能力に助けられたのだ。
みなぎる力が、自然と勇者の声に張りを持たせる。
「何かをさせたいなどと言ったかね。俺様は助けが必要なのだ。そして助けるのは俺様だけではない。皆様の一人一人が互いを助け、また助けられる。そんな真心がほしいのだ」
場が静まった。
「なっなるほど……やっぱ何をするか分からんのだが」
「ふふ慌てるでない。その何かをするためにだね、まずは話し合いの場を設けたいのだ」
「なっなんだってー」
周囲が揺れた。
人々の集中が乱れる。
「しちめんどくせえ!」
そろそろ頃合だ。
勇者はさらに気を引き締めて叫んだ。
「だから俺様は――領主集会を希望する!」
人垣の不満は収まった。
「えっ集会?」
「あぁ集会」
「なんだ集会か」
「そういや話し合いの場っつったらそれしかねぇわな」
妙な緊張を強いられ、途端に気が抜けたようだ。
(やはり、な……皆の頭の中が見えるようだ。それぞれが故郷の集会に佇むが如くに光景が渦巻いていることだろう)
その気が抜けた状況も、勇者の仕組んだことだ。
集会の光景に気を取られたその隙をつく。
「耕す予定もあるだろうし、毎度この場をお借りするわけにもいくまい。場所はそこの森の境目なんかどうだね。それなら全員の中間地点だ。問題なければすぐにも場所を整えよう。もちろん人手は俺様が出すから気にしないでくれ!」
勇者は、南へと続く道のそばにある立て札付近を指差した。
人々のざわめきが大きくなる。
あれこれとまくし立て仲間や家族、お隣同士と話している。
ここは勇者もぐっと堪えて、自然と静まるのを待った。
やがて、なぜか楽しげな人々の顔が勇者に向けられた。
「やっぱ何かをしでかすお人だね」
「一人で困ってるもんもいるからな」
「集会所はあった方がいいだろう」
勇者から緊張が解けていった。
「あっありがとう、いや助かるのだ本気で。ちょっと遠い領主さんには申し訳ないが、飲み物くらいは用意するからこぞって参加してくれたまえ!」
勇者は大きく手を振ると、丘の上へと駆け戻った。
やっぱやめたと気分を変えられるのが怖かったからだ。
「だから走らないでくださいっす……!」
行き倒れ君は瀕死だが、息切れしながらもなんとかついていっている。
以前に比べてかなり鍛えられたようである。
勇者は仲間に緊急召集をかけた。
突貫の力仕事だ。
重装機兵タダノフとレビジト村民の手を幾らか借りることにした。
平地民から見渡せる位置の作業だから、勇者も働いてますアピールのために参加するつもりだ。
「というわけで、すまぬなコリヌよ。明日はちょっとばかり時間をいただいちゃうぞ。場を整え次第、集会は開かれるだろう」
平地民が興味深々に覗き見にくるのが分かるからだ。
「おお目処が立ったのですか。さすがは勇者ですな! こういったことにはぬかりがない!」
「俺様は色々とぬかりがないぞ。恐らく、集会は明日の夕刻になると思う。早めに食事を済ましておいてくれ」
勇者はコリヌに予定だけを伝えると、準備のために走り出していた。




