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完徹の勇者  作者: きりま
領地拡大編

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第二十四話 勇者の装備

 朝の清々しい空気を胸いっぱいに吸い込む。

 鬱陶しいほどの元気を取り戻した勇者は、早速日課をこなしていた。

 勇者は両足を大きく開いて立ち、両腕は腰に当てている。

 そうして岩場の上から平地を見下ろしていた。


 落ち込んでようとどっちにしても鬱陶しいなら元気なほうがましである。

 皆はそう思っているのであるが、行き倒れ君だけはこの勇者の日課に付き合わされるために微妙な面持ちだった。


「輝かんばかりの素晴らしい朝だなユッキー」


 その呼びかけに応じる者はない。


「おやユッキーよ、腹でも下したかね?」

「ちなみに誰のことを言ってんすかね」


 常に人の思いつかぬ行動やら言動を唐突に始める勇者だ。

 しかし、それが常ならば人は動じなくなるものだ。

 では唐突とは一体なんなのであろうか。

 ふと哲学的な思考にどはまりしそうになった行き倒れ君は、その考えをしっしっと追い払った。

 小難しいことを考えると熱が出るのだ。


「もう行き倒れでいいっす」

「なんと、出会った頃は名前を呼ばれたそうだったからちょっと固体識別名をひねり出してみたのに、そんなに気に入っていたのだな。ユッキーとノタレジーニのどちらが良いか聞いてみようと思っていたが、ならばあえて心置きなく呼ばせてもらおうか、行き倒れとっ!」


 行き倒れ君のこめかみに血管が浮きでる。

 人は唐突な出来事には慣れきってしまうことはあれど、唐突な怒りの衝動を抑えるのはなかなかに難しいものなのだ多分。


(俺は凡人俺は凡人。一々覚醒していたら体が幾つあっても足りない。我慢我慢)


 行き倒れ君は怒りを抑えるべく胸中で唱えた。

 だが悲しいかな、その思考は勇者の影響を受けまくっていた。

 既に後戻りできぬ道を進んでしまってる行き倒れ君だった。



 そんな行き倒れ君の葛藤をよそに、勇者はほくほく顔だ。


「コリヌ達が朝食の支度を始めているだろう。そろそろ戻るとしようか。ん?」


 勇者がとうっと飛び降りようと振り返りかけた時、朝靄に霞む平地の端に動きを捉えた。


「おひょ」

「うわあっ」


 変に首だけめぐらそうとしたために、勇者は足を滑らせて岩から転げ落ちた。


「ふぅ危なかったっすぜ……大丈夫っすか勇者さん」

「……俺様を避けやがったね」

「いやあ勇者さんに付き合ってる内に身体能力が鍛えられたみたいっすね!」

「そ、そうかね? やはり俺様について来るにはそれくらいでないとな、はは」


 勇者は簡単におだてに乗った。

 鍛えられたのは行き倒れ君の忍耐力と機転のようだ。

 対勇者にのみ特化してるいるのだけが残念なことである。


 はっと勇者は飛び起きて、再び岩場へとよじ登った。


「どうしたんすか」


 勇者は目を凝らして、海の道方向を見やった。


「おお、人がぞろぞろと渡ってきておるようだぞ」

「ほーまた後続組っすかね」


 行き倒れ君も岩場へ登って遠くを見たが霞んでいてよく分からなかった。

 勇者やタダノフの視力が異常なのだ。



「いやしかし、これまた大所帯だな」


 人の塊がゆっくりと平地の中ほどまで近付くと、行き倒れ君にも見えた。

 人数が多いからどうにかといった感じだが、勇者が気になったのも無理はない。



 勇者達が南への道を開いてからというもの、ちょくちょく通り過ぎて行く者達はいた。

 あれから勇者は森への入口に、南への道はこちらと書いた立て札を刺してある。

 親切に、毒キノコもあるから食わないように食ったら末代まで呪われ死ぬと注意書きも添えた。

 「死ぬ」の後にちっちゃく「かも」と書いたから、嘘大げさではなく紛らわしいだけだ。

 そのお陰かどうかは分からないが、戻ってくる者はなかった。


 ともかく当初と違い、小さなグループがやってくるだけとなっていたのだ。

 今見えているのは数十人だろうか、それなりの規模の人数が一どきに訪れるのは久しいことであった。


「登録受付期間ってのは、役人が来るまでじゃなかったでしたっけ」

「あやつら役人も、この辺を調べて一旦戻ったのだろう? 南の方はまだなのだし、第二次登録受付開始! などと銘打って露天商で荒稼ぎでもしているのだろう」


 役人が戻ったことに疑問系なのは、途中から勇者が心神喪失していたからだ。先進技術を実証しそうな機体を喪失しちゃったようで悲しい言葉だ。

 その間に役人達が話していたことを改めてコリヌから聞いたのだが、この丘が最後の登録だったらしく、そのまま帰って行ったらしい。

 恐らく様子見も兼ねていたのではないかと勇者は考えた。




 勇者の腹が鳴った。


「ぬ。これが虫の知らせというやつか。朝飯が俺様を呼んでいる。行くぞ行き倒れ! とぅっ」

「腹の虫ね……」


 勇者城前竈行き急行勇者は駆け出した。





「ふがふがうまそうなにおい」

「おお勇者よ。すっかり顔色もよろしいようですな」


 勇者は護衛君から朝食を受け取った。

 芋をすり潰して豆などと混ぜ、手の平ほどに薄く伸ばして焼いたものだった。

 ぱりぱりほくほくとして香ばしい。


 片頬を膨らませてもごつきながら勇者は報告した。


「んごコリヌょ、ぞんぞろと大勢が渡ってきたよぅだぞ」

「やはり受付期間は延長されたようですな」


 へーとかほーとか他愛無い日常のように聞いている。

 あくどい奴らよと役人達に憤るのは勇者だけのようだ。


 勇者は食べ終えると、立ち上がって一席ぶつ。


「あーこほん。勇者がお休みしている間にも、皆が真面目に働いていることを知って勇者嬉しい。リーダーが動けないからってあたふたするようでは緊急時を乗り越えられぬだろうからな! 今後も期待しているぞはっはっは」


 全員が口元には微笑を浮かべつつ困ったような目で勇者を見た。

 あんなにへこんでいたのが嘘のような元気さに、戸惑いと呆れが現れていた。


「はっはっは俺様の期待に緊張で声もでないか。そう重く受け止める必要はないぞ! さあて、では俺様もしばらくぶりに作業に勤しむとするかな」


 勝手に用を終えると勇者は城へと消えた。




 勇者は壁に据えつけた木枠だけの棚の側へ正座すると、アイテムボックスをがさごそと漁る。


「ええい行き倒れめ。なんでも適当に箱に詰めればよいというものではないぞ!」


 道具箱にしてある幾つかの木箱の中は、適当にあれこれと突っ込まれていた。

 勇者が腑抜けている間に、せっかく小まめに分類して整頓していたものが、混沌と化していたのだった。


「さーせんっした! どうも片付けは苦手で……」


 行き倒れ君は誤魔化すように頭をかいた。


「今は急ぐ。戻ってから整頓しなおしだぞ」


 勇者はどうにか目的の物を引っ張り出した。




 勇者は装備を整える。


 ぶき :ぼろいくわ(頑固な塊も周囲の柔らかい所から掘り返す)

 あたま:ぼろぬの(汗を拭き、泥を払う)

 からだ:うすぎたないふく(痒い草から身を守ることもできる)

 あし :いたんだかわぐつ(石コロを踏んでも辛うじて痛くない)

 どうぐ:たけづつ(水を持ち運ぶことができる)


 変更したのは鍬と布だけだった。



「ふっ完璧な装備だ。さあ土くれ共よ、ぎったぎたに掘り返してやるから待っておれ。行くぞ行き倒れ!」

「はいはいっす」


 勇者は颯爽と走り出した。


(土壌の改善は未来の改善!)


 村の者達を呼び寄せる目標の為に、改めて力をみなぎらせる勇者だった。



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