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完徹の勇者  作者: きりま
領地探索編

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第十八話 呪いの代償

 目をぱちくりさせながら、ぽやっとしている勇者達三人。

 ノロマの呪いを受けて、不思議気分でお茶を啜るばかりである。

 飲みすぎて膀胱がやばいほどだ。


「なんと気分は青っぽい」

「ソレス、意味が分かる言葉でほざいてくれないかな」


 コリヌ達も不気味な現象に震えたために、緊張して喉が乾いていた。

 自然と皆がぐびぐびと茶を啜っている。

 恐々と様子を窺っていたコリヌは、さらなる変化を勇者へと伝えた。


「しかし勇者よ。目から光が消えましたな」

「まるで命が絶えたかのような言い方はよしたまえ」


 コリヌの言葉に、勇者もタダノフとノロマの目を見た。


「ふむ、うっすら青光りしていたのが消えているな」


 もしかして一過性の変化かと安心しようとしたのだが、淡い光が消えただけで依然、二人の瞳には青みが残っていた。

 勇者は、憮然としてノロマを見る。


「一体どんな毒物を作ったのだ」


 ノロマは茶を啜る合間に、いつも手にしている巨大な本に目を通していた。

 あちこちと頁をめくっては、何事かを書き留めている。


「ぐぬぬ、おかしいですなー。このまじないに、そんな結果が出るなどとは小指の爪の先の鼻くそほども示唆されてないのですが……」


 ノロマの例えに、一同は嫌悪感を露にする。

 思わず勇者は溜息をついた。


「やっぱりのろいなんてもので、安易に楽しようなどと考えるべきではなかったのだ」



 ノロマは下唇を噛んで、まじないと言いなおしたい衝動に耐えた。

 今はとても言い返せない状況だ。

 頭のたんこぶを増やしたくはなかった。

 だが自分の信念を誤解されるのには耐えられず、心情を吐露する。


「た、確かに邪に見えるやもしれません。しかし恨みつらみに利用するようなたぐいの呪いは、決して紐解くことはありませんので。あくまでも人生を豊かにするエッセンスというのが、俺の目指すところです。そこだけは誤解なきよう願いたい! まあ……後ろ暗いものほど知識としてはご褒美ですが」


 最後に欲望を漏らさなければ完璧な言い訳だった。




 勇者は、今までに目にしてきたノロマの呪いを思い返していた。

 部屋でなくしたものを見つけるとか、森で道に迷ったときに行き先を示すとか、結果的には偶然だろうというような効果のものだ。

 大抵が成功していたことを考えれば、何かしら理屈はあるのだろうとは思える。

 人の業と生活の知恵が蓄積された術、そんな風に受け止めていた。


 ともあれ、失敗らしい失敗など見たことはない。

 失敗したら何も起こらないだけじゃ、という一人突っ込みも入ったが無視する。


「ふぅむ、ノロマの想像を上回る効果が出た。ということだな」


 良きも悪しきも引き寄せる地――そうノロマが言った事が、ふと頭を過ぎる。


(ここのところ完徹能力を使用してないせいだろうか。勇者ったら考えすぎだぞ!)


 勇者は、体の隅々まで感覚を研ぎ澄ませた。


「漏れそうなのは別として、体が重いとか痛いとか痒いとか苦しいとかはないし、まあいっか! はっはっは」


 毒で苦しみぬいて世を去るなど、最悪な死に方の一つだろう。

 そうでないなら別にいいやと、勇者は気持ちを切り替えた。

 それよりも、お得なことを考えた方がいい。




 勇者がいつもの調子を取り戻すと、全員の気分も落ち着き、普段の空気を取り戻した。


「なんにしろ、成功したというなら良しとしようではないか。なんで青い目なのかは意味が分からんが」

「それですが、世の中には青い炎が存在するらしいですよ? 普通の赤い火よりも浄化力が高いとかなんとか言われているそうです」


 誰が言っているのかは分からないが、ノロマは思い出したように言った。


「でっていう」


 タダノフは、それがなんなのかとノロマに胡乱うろんな目を向けた。

 勇者は片手で顎を撫でつつ、感じ入っている。


「なるほど、な。防御というくらいだし、通常の炎よりも浄化作用の強い、青い炎が顕現けんげんしたのだ! と屁理屈をこねることも出来るな」

「なんとなく言ってみただけではありますが屁理屈って……」


 なんとはなしに納得もしたし、何よりも疲れた。

 勇者は今晩のところは切り上げようと立ち上がった。


「今日のことは何もなかった、いいね? 明日も頑張って働かねばならんからな、お開きとするくわぁ……っ!」

「どどどうされた勇者よ」


 ようやく眠れると思った矢先に、勇者が目を見開いて固まったのだ。

 コリヌは心臓に悪いじゃないかと内心ぼやいた。


(も、もれる!)


 勇者は、二つの危機に面していた。

 膀胱の限界と、突如体を襲った痒み。

 脂汗が止まらない。


「ふぅおっ。身体がっかゆいのだ!」

「それって、股の病気っすか……?」


 困惑顔の行き倒れ君が尋ねた。

 勇者は足を交差して身をくねらせていたので、誤解を与えてしまったようだ。


「ちがうう、これは、もっもらしそうなだけなんだから誤解するなよ!」

「早く行ってこい!」


 タダノフが嫌そうに叫んだ。

 もじもじと藪へと分け入った背後で、別の悲鳴が耳に届いた。


「ぷがああっ!」

「んきいいいっ!」


 助けに行きたいが、勢いが止まらないので無理だった。


「どうしたタダノフぅ! おまけにノロマ?」

「なんだこれ、かゆいんだよ!」

「しかもどこが痒いか分からないイライラマックスな痒み!」


 勇者同様に、タダノフとノロマにも痒みが襲っていた。


(やっぱ毒か毒なのか? ううわわわ俺様こんなところで死ぬのか。嫌だお城ちゃんとようやく出会えたばかりなのに! 今一度、君の柱を抱きしめたい、屋根をなでなでしたい早く尿よ止まれ止まらんかっ!)


 勇者の目に熱いものが込み上げる。

 涙とともに心の叫びなどを絞り出した。



「おっお城ちゃん……っ!」

「うわあっソレス殿どうしたので」

「ソレス、手ぇ洗えよ」


 藪から涙ながらに転がり出た勇者を、タダノフもノロマも何事もなかったように見つめた。


「なっ! さっきの悲鳴はなんだったのだ」

「ああ、すっごいかゆかったんだけど治まった」

「代わりに違和感があるのですが」

「へ」


 勇者は立ち上がって、体を確かめた。


「本当だ。なんだったのだ……ってなんじゃこりゃあ、うなじ辺りが変だぞ」


 勇者はうなじを触ったが、何もない。


「あたしも鎖骨の下が妙だ」

「俺は、まな板のように立派な胸の中心ですな」


 ノロマはローブの胸元をがばっと開いた。


「これが噂の変態ってやつか……」

「パンツもはいてるし変態ではありませんぞ。それより胸を見てください胸を」

「こ、これはっ!」


 一同は驚愕してそれを見つめた。

 ノロマのまな板のど真ん中で、拳大の丸い落書きがうっすらと青い光を放っていた。


「いつ描いたのさ」

「描いてません。タダノフ殿はどうです」

「乙女の柔肌だから見せらんないよ。お、おーじ様、見てくれる?」

「い、いえ、そのう……」


 動くと筋肉の邪魔だし暑いからと言って、両腕両足丸出しの格好をしておいて今さらである。


「鎖骨くらいよかろう馬鹿者」

「苦しいじゃないか!」


 勇者がシャツを引っ張ったタダノフの鎖骨下にも、ノロマと同じものがあった。


「お、俺様は? 行き倒れどうだ」


 勇者は行き倒れ君にうなじを見せた。


「あるっすね……」


 気味悪げに行き倒れ君は答えた。


「なんだとぅ? 俺様、自分で見えないじゃん!」


 奇妙な現象よりも、ずるいと思う気持ちが勝る勇者だった。




「しっかし、一段落ついたと思ったら、次から次へと厄介な」


 勇者はぷりぷりしながら、また茶を飲みだした。


「本当に毒ではないのかノロマよ?」

「毒も薬も同じようなものですからしてなんとも……あ、いえ、決して毒物ではないですって、ああっ!」

「何か、言い忘れたことでもあったのかね?」

「いえっ滅相もない! ほらソレス殿、血を混ぜ込むときに、傷口をそのまま薬液に突っ込んだでしょ。あれですよきっと。あれはまずいですわー」

「なんてこった……」


 言われてみれば、勇者が率先したせいで、二人も同じように指でかき混ぜてしまったのだ。

 よもや責任が自身に返ってくるとは思わずうろたえた。


「ま、まあ、そういうこともあるよねー……」


 冷や汗を流しつつ目を泳がせる勇者に、呆れた視線が突き刺さった。


「そっそもそもだな! 傷から毒が入ったからって目が青くなったりこんな妙な落書きが浮き出てくるほうがおかしいのだ!」

「ぬぐっ」


 逆切れ勇者だったが、ノロマも反論できない。

 勇者が落書きと呼んだものは、まさにノロマが城周りに敷いた魔術方陣だったのだ。


「落書きではありません。それぞれの模様は、それぞれの城周りに施した魔術方陣と同じものなのです……なんとも、不可思議な力が作用しているのはたしかかと」


 様々な怪しい術を見てきたノロマ自身でさえ、想定外の出来事だった。


「これも呪いの効果の一部だというなら、問題はなさそうではあるが、どうだノロマ。もうちょい安心することを言ってくれまいか」

「その通り間違いなく呪いの効果でしょう。古い文献は、時に失われた頁や巻がありますゆえ、恐らくその部分の可能性が高いと思われます。しっかり確認したつもりだったのですが、なんとも面目ない次第です」


 ノロマにしては結構しょんぼりしていた。

 一世一代なんてほざいたのが、理解しきれていなかったのだ。

 ざまあであるが、いつまでも責め立てたってしようがない。


「はっはっは。己の能力に頼りすぎると、こういった痛い目にも遭うという事なのだよ。俺様はしょっちゅう学んでいるぞ。肝に銘じたまえよ。ではそろそろ寝るか」

「そだね。はー今日はよく働いたよ」


 勇者は今度こそ何も起こるなよと願いながら、お開きにした。

 皆ももう巻き込まれたくないしと、足早に寝床へと戻っていった。



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