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完徹の勇者  作者: きりま
領地探索編

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第十六話 朝食会議

 今朝もはよから、勇者は岩場に登って平地を見下ろす。

 半ば日課となっていた。


「風に乗って届く、山盛り枯れ草の匂い。牛はぅもぅも、鶏はほけきょっきょーと鳴いている。素晴らしい朝だな、行き倒れよ」


 初めこそ遭難者見本市などと憐れんでいた勇者だったが、家畜を連れてきたりとそれなりに健闘している平地民を、今では称賛を込めて眺めていた。


「ふぁ……そうれすね素晴らしい朝っす。それより、なんで俺まで付き合わされてんすかね」

「側近は、側に控えるものだろう」


 行き倒れ君は、勇者城に住まうのを許されていた。

 狭い城内の、さらに隅っこの一角を割り当てられている。

 相変わらず土の地面に、枯れ草を寝床に寝起きしていた。


 会議は基本、食事で外に集まった際に行っている。

 屋内に集まることはないから、ほぼ荷物置き場のようなものだ。

 今はまだ寝起きする余裕もあるが、そう遠くない内に場所は埋まりそうだった。


 日々こつこつと開墾を進めている。

 少しずつ育てた作物を干すのも、城のお陰で場所に困らない。

 やはり建てておいて良かったと勇者は満足気に頷いた。


(しかし今後も考えると、そろそろ倉庫でも建て増した方がいいだろうな。行き倒れもそっちに寝かせればよかろう)


 お城ちゃんとの間に、邪魔者がいなくなるのだ。

 そう思うと、勇者の心の中の会議では、倉庫建て増し賛成に満場一致した。


「ついて参れ行き倒れ! とうっ」


 早速、仲間に予定を伝えようと、勇者は岩場を飛び降りて駆け出した。


「勢いつけなくとも、すぐそこじゃないっすか……」


 眠たい目をこすりつつ、行き倒れ君は勇者をのろのろと追った。





「おおタダノフにノロマにコリヌ一行よ、起きていたか」


 勇者城の表には、人が集まっていた。

 朝食の時間だ。


 石のかまどの周りには、座りやすい石を丸く並べて置いてある。

 勇者もいそいそと干しておいた野菜を焼きつつ、そこへ腰掛けた。

 食欲をそそる匂いが立ちこめる中、勇者は切り出した。


「道具も揃ってきたし、これから益々荷物も増えるだろう? 倉庫を建て増したいのだ」


 うきうきと相談した勇者だったが、意外なところから渋い返事が返ってきた。

 ノロマだ。


「ううむ、確かにそろそろ考えねばならない時期でしょうな。しかしですね、臨時とはいえあちこち適当に建てまくるというのも、後々に響くような、どうにでもなるような……」


 意外でもなかった。

 ノロマはいつも何かと水を差す男だ。


「あーまどろっこしい。まぁた始まるの。痒くなんだよお前の言い方は」


 うんざりした顔でタダノフがぼやく。

 しかし、勇者達は煙たがるが、ノロマの口出しは結構な頻度ひんどで的を射ているのである。


「むぅん。計画性はないかもしれないが、現状はそんな厳密な計画など立ててはおれんぞ。何もかもありもので暮らさねばならんのだからな。臨機応変が大切な時期ではないか?」


 勇者も、小心者能力のお陰でそこそこに堅実だ。

 しかし状況も踏まえて動かねば、簡単にうまくいくことさえ失敗しうる。

 それを長きに渡る徹夜生活で、無駄に学んでいた。


「あ、いやいや、誤解を与える言い方をしてしまったようで。ソレス殿の思いつきは大抵うまいこと作用しますからな。倉庫に反対なのではないですよ」

「おっ思いつきではないぞ。勇者城をもっと活用すべく綿密に練られた心の欲望の声にあっさり従ったなんてことは決してないからな!」


 本音が駄々漏れた勇者に、全員が白い目を向けた。




 ノロマは喉の調子を確かめるふりをすると、改めて思うところを話した。


「俺が気になっているのは、この地の特質についてです。確かに地勢的には申し分ない。だが変形合体した不安定な場所とも言えるのです」


(変形合体ってどこ方言だよ)


 全員の困惑顔がノロマを捉える。

 理屈っぽく訳の分からない知識を開陳かいちんするノロマだ。

 いくら重要そうなことを言ってようと、話を聞くのも一苦労である。


「分かったから、ささっと話してくれたまえよノロマ」


 勇者は焼き野菜を手に取り、聞く態勢に入った。


「星が堕ちてきた話をしたでしょ。それは隕石いんせきと呼ばれるものです。で、その隕石とは、この地上の外から来たものですからして、たいそう不思議な力を秘めていると言われています」


 そうノロマは、至極真面目な顔付きで話し始めた。

 反対に、不思議な力と聞くや、皆の顔はわくわくと輝きだした。

 現金なものである。


「タダノフ殿が見た衝撃を起こすほどの規模の星が、まことに降ってきたのならば、燃え落ちずに地中深く埋まっているのではないでしょうか。とすると、この辺りは色々なものを引き寄せる磁場じばを持っているかもしれないと考えたわけです」

「宇宙からジバンとな?」

「地盤ではなく磁場です。どんな理屈かは分かりませんが、辺りに影響を及ぼす場を作るのです。影響といってもそう大きなものではなく、主にあれこれ引き寄せるだけとのことですが」


 案の定、続くノロマの話に、皆は訳が分からず口を半開きにして沈黙している。

 しかしそんな時でも、勇者だけは分かったのか分からないのか、とにかく何かの結論に至れるのだ。

 そこがまたノロマが、喧嘩しつつも行動を共にする理由でもある。

 しかして勇者は思うままの感想を述べた。


「聞く限りでは便利そうではないか」


 それは単純なものだった。


「いや良きも悪しきもですよ。様々なものを引き寄せるのですからして?」

「うぅむ確かに、腐ったパンとか飛んできたら嫌だなあ」

「いくらあたしでも腐った餌はちょっと」

「いや、そういったものでは……」


 ノロマは、どう説明したものかともどかしそうだった。

 喉にもっちりした何かを詰まらせたかのように、目を白黒させて口を横に引いている。

 ぶち切れたのか、素に戻ると声を高めた。


「ともかくですな! であれば、この地は大変に不安定な場所だと言いたいのですぅ!」

「なんと不安なことを言うのだ。眠れなくなるではないか」


 勇者はその不吉な言葉に眉をひそめた。

 初めからノロマはそう言っていたのだが、今さら不安になってきたのだった。


 ノロマはすぐさま前言撤回するように続ける。

 責任をはぐらかすような要領を得ない物言いが板についてしまって、いざ相手に大切なことを伝えるのにも一苦労するのだ。自業自得であった。


「しかしご安心を! と言えるかどうか分かりませんが、一つの事実が眼前にあります」

「ええい、もったいぶるな」

「星が墜ちたり、地面がせり上がったりと、とてつもない変化を起こしながら、どうです。見てください、この景色を」


 ノロマはようやく、一目瞭然という言葉を思い出したのだった。


 一堂は並んで、眼前に広がる空を見た。

 そして、空の下にある景色を。


 肌寒い風は乾いた空気を運ぶ。

 岩棚の連なる中に広がった平地の周辺は、背の高くなりきらない草原に覆われていた。

 今はほとんど引っこ抜かれている地面からは、乾いた土が覗く。

 囲むような森も、枝葉はそう多くない。


 寒い土地の景色だ。

 それでも、勇者にとっては穏やかな自然がそこにある。



「この地は、それだけの災禍を経ても美しいままです。我々が知る、たった一つの事実に過ぎません。しかし、安泰に暮らせると、賭けるに足るのではないでしょうか」


 勇者は、焼き野菜を齧り口をもぐもぐと動かしつつも、ノロマの言葉について考えを巡らせた。


(ふぅむ、禍々しいことに関しての知識ならぴか一だろうノロマの言葉には、含蓄がんちくがある。もったいぶってるから、さらにそう聞こえる)


 雪山と麓の村のある領内しか知らない勇者と違い、ノロマは様々な地を巡ってきたという。

 妙な知識を求めてとはいえ、勇者より物知りなのは確かだ。



「で、要は色々あるかも知れないが、それを理解した上で住んでみるならいいんじゃない? ということだな」

「まあ、そうですかな」

「元より苦労は承知。そんなことを今さら言われても、ぽかーんだぞ?」

「そうなのですが、想像の斜め上をドキューンと突き抜ける出来事が起こるやもしれませんので?」


 勇者は、景色を眺め、次にノロマへと視線を移した。

 ここまで言うからには、何か策がありそうだと思ったのだ。

 それでもここに暮らすのだな絶対だなと、決断を迫っているに違いない。


(そうだ、決めるのは俺様自身でなくてはならん。誰かの意思が介在したと、難癖をつけるようでは勇者の名がすたる)


 焼き野菜を食べ終わると、勇者は水筒から水を飲み、食事を終えた。

 そして腕を組んで、今考えてまーすというポーズを見せる。


(俺様は確かにここが気に入った。たまたま目に付いたのだとしてもだ)


 勇者は背後を見やる。


(お城ちゃんと愛を育んでいくに相応しい土地なのだ。俺様がそう決めた!)


 勇者の決意は固まった。


「俺様の意思は、変わらん――この地を盛り立てて行こうではないか!」


 勇者は、運命に翻弄ほんろうされる英雄気分で酔いしれる。


「激流の如き運命に振り回される地か。ふっ、気に入った……これ以上、勇者に相応しい場所はあるまいよ!」

「まあ、今特に何か起こってるわけでもないっすしね」

「開拓なんてどこでだって大変なものですよ」

「今さら帰る場所もないし」


 勇者の盛り上がりとは別に、周りは冷静であった。

 ノロマは、ようやく目的に到達できたようで、ほっと安堵の溜息をついていた。


「さすがソレス殿は、そうでなくては! では幸運のまじないでも施しましょうかってなんですか、その嫌そうな顔は」

のろいとか、ちょっと……」

「ま・じ・な・い、なのですぅ!」


 さして違いは無いと思う勇者だが、そこだけは譲れないらしいノロマはやはり言い募った。


「先日、幸運をもたらす呪いを見つけたと言ったら喜んでくれたではないですか」

「おおそうだったな」


 勇者は、時間がかかるものだから城を建てた後にと、ノロマが話していたことを思い出した。


「不安定な場所ですからして、せめて安寧をもたらす呪いをチョイスしてみたのです。まあ気休めとでも思ってください」

「何か策があるのかと思って真面目に聞いていれば、気休めかよ!」

「おやそこまで期待していただいてたのですか。では、グレードアップしちゃいますよ?」

「えっほんと! それは一体どういうものなのかね?」


 勇者は嬉しそうに顔を緩ませた。


「そうですな。ソレス殿にしろタダノフ殿にしろ、猪突猛進に過ぎるので。防御をおろそかにしては、この先立ち行かなくなるであろうと思ったのですよ」


 ずばっと短所を言ってのけるノロマだ。

 だが勇者は笑い出した。


「ぶはっはっはっはっはっはっ」

「何がおかしいんだよ」


 タダノフが慣れた様子で突っ込みを入れる。


「いやはや俺様にそんなん分かるわけないからな。よしノロマよ任せたぞ!」


 目先の、せせこましいことを考えるのならお手のものな勇者だが、全体を客観的な視点で見るのは苦手であった。

 よく分からないなりに、ノロマが戦略めいたことを口にしたのは分かる。

 小難しいことを考えなければならないと思うと、緊張のため高笑いしてしまうのだ。


 任せてもらって喜べばいいのか、放り投げられたとぼやけばいいのか。

 ノロマは微妙な気持ちながらも承諾した。


「あーでは、夜までにどうにか準備を進めましょう」


 そんなわけで、少し長めの朝食会議は終わり、各々開墾作業に散っていったのだった。



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