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完徹の勇者  作者: きりま
領地探索編

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第十四話 守られた勇者城

「おお勇者よ! よくぞ、ご無事で……?」


 勇者は出迎えたコリヌの顔を見て、自身の領地へ戻って来たのだと悟った。


(このゆるふわ野郎が幻覚でないならば……戻ったよ、お城ちゃん)


 コリヌは幻ではなかったが、城は幻覚だ。

 最愛のお城を夢見ながら、勇者は力尽きた。

 前のめりに、ばたんと倒れた勇者に続き、ノロマと行き倒れ君も次々と折り重なっていく。


「はれ、どうなされた勇者よおお!」


 慌ててコリヌが覗き見た勇者一行の顔は、憔悴しょうすいしきっている。

 彼らの目の下には、くっきりとくまが出来ていた。


「寝ずの行軍でもなされたのですか?」


 一人立っていたタダノフに気付き、コリヌは見上げて尋ねた。


 ごぎゅるるる、る……る。


 なんともキレの悪い腹の虫が、返事をした。


「あたしも、もうだめ。えさ……」

「ひぇっ」


 どずーんと重い音を響かせ、タダノフも倒れると地面にめりこんだ。


 危うく潰されそうになったコリヌだが、本物領主だけあって危機感は抜群だ。

 とっさにごろごろとローリングして危機を避けた。


「なんと過酷な任務だったのだろうか。想像もできぬわい」


 コリヌは身動き一つせぬ勇者達を、指でつっついた。


「護衛達よ、勇者を城へ運ぶのだ!」


 勇者達は、コリヌらによって狭い小屋へと詰め込まれて介抱された。

 タダノフは、そのまま土の布団に寝かされたままだ。

 枕代わりに、愛用の巨大もこもこスリッパを苦労して頭の下に差し入れたので許して欲しい、とコリヌは願った。





 半日もしたころ、勇者は目を覚ました。

 コリヌ達が用意した粥を貪り、茶を啜るとようやく生き返った気がしていた。

 食べ物の臭いに釣られて、ノロマと行き倒れ君も目を覚ます。


「いっやあ、今回ばかりはさすがに駄目かと思いましたな」

「結局、また行き倒れかよ……粥がこんなにうまいとは」


 皆でお茶を啜りながら、気を緩むままにしていた。


「いや、手間をかけたなコリヌ。俺様としたことが、不意の出来事に対処し損ねてしまうとは。まだまだ精進が足らん」

「何をおっしゃいますか。過酷な任務を、無事に生き延びたことこそが成功の証ですとも」

「え、任務?」

「あの……お気を確かに?」


 勇者は拳骨を作ると、こつんと羽のような軽さで、己の頭頂部を小突いた。


「てへっそうだったそうだった。勇者は迷える死霊共を昇天せしめたのだ」


 倒れた時に頭でも打ったのだろうかと、コリヌは心配になり眉を顰めた。


「ふっ、詩的な言い回しをしてしまったな。遭難者共を見事に送り返したのだよ。騒ぎは聞こえなかったかな?」

「おお、それならば確かに」


 コリヌは得心すると、興奮して饒舌になった。


「そりゃもう、大変な騒ぎでしたとも!」


 数日前のことを、コリヌは楽しげに語ってくれた。





 わーわーわー……。


「なんぞ麓に、敵軍でも攻め入ったか!」


 コリヌは、軍を率いて領地を守った過去に戻ったようで、血がたぎるのを感じた。

 敵ってなんだよと護衛達は困惑したが、こんな状態の時に迂闊なことを言えば、ハッスルパンチが飛んでくるのを知っていた。


「偵察してまいります!」


 護衛その一は、言うが早いか駆け出していた。


「あっ逃げやがってずるいぞ!」

「くそっ先を越された!」

「戯言をたれる暇があったら、武器を持てい!」

「いぇっさー!」


 大急ぎで武装するコリヌ一行だった。

 鼻息も荒く、朝の星を拝める棒とか、ヤるのに便利なスコップなどを手にした。

 のだが、戻った偵察の報告はがっかりするものだった。


「敵ではありません。遭難者が戻ってきたようです!」


 目に見えて残念そうなコリヌだったが、すぐさま気持ちを切り替える。


「どれどれ、野次馬に向かおうではないか」


 娯楽に飢えていたのに違いは無い。

 コリヌ達は、いそいそと坂を下った。




 森から戻った人々は、平地の人間達に囲まれて、事情を話していた。


「迷路のような場所で迷っちまってなあ」

「でも気が付いたら道ができとったんじゃ。トンカチの勇者様とやらが助けてくだすったんじゃよ」

「ちげぇよ爺ちゃん。カナヅチの勇者だったろ」

「それ、同じもんじゃないか」


 そこへコリヌ達も合流する。


(なんと、これだけの人々を、あの勇者が救ったというのか! 私の目に狂いは無かった! いやまだ決めつけるのは早いが、そうなりそうではないか)


 コリヌも野次馬の間を縫って、にじり寄ると話を聞いた。


「その勇者とは物欲の勇者であろう」

「完徹の勇者であります」


 護衛の耳打ちに、コリヌは訂正した。


「ごほん。ともかくその勇者は、あの丘の上を領地としておる。そなたらも、新たな地に居を構える際は、よろしくお頼みしますぞ」


 将来のために、根回しを怠らないコリヌであった。


「これはこれは、勇者様のお付きの方でしたか!」

「え、いや別に……」

「食料まで分けていただいて、なんとお礼を申してよいやら」

「その食料も、持ち込んだの私……」

「そうだ、一目でいい。勇者様の住まいを拝見させてはいただけませんか!」


 うおおお是非にと遭難者の歓声が上がり、コリヌは気圧されて渋々と案内した。


「なんと、既に家まで建ててらっしゃる!」

「お……ノンビエゼ王様の城、って書かれてるよ」

「えっなんと城でしたか」


 コリヌは、勇者から特に城を守れと言われていたことを思い出し、青褪めていた。

 大勢から一時いちどきに押し寄せられては、たった数人で相対あいたいするのは無理がある。


 しかしそんな心配を他所よそに、遭難者達は頭を下げて小屋を拝みだした。


(おお勇者よ、一体どんな幻術を使ったのだ?)


 コリヌ一行は困惑するばかりだった。



 遭難者達は、ひとしきり楽しげに見物すると、気が済んだようだった。

 せっかくここまで来たのだからと、観光したかっただけらしい。


「わしらは一度戻りますが、改めて来る際には、お礼をお持ちします」

「そ、そうか。気をつけて旅をなされよ」


 コリヌは、彼らに水を持たせてお帰り願った。

 勇者に、坂を上るものは魔王の手先と思って、丁重に対応するよう言いつけられていたからだ。

 そこそこ律儀な男である。

 遭難者たちは、さらに感激して戻っていった。





「とまあ、初めに分かっていれば、観覧料でもせびったのですが。面目ございません」


 いやそれはどうかと、さすがの勇者も冷たい視線をコリヌへ送る。


「ふぅむ、俺様のお城の素晴らしさが分かるとは。結果的に救うことになったのも、運命かもしれぬな。はっはっは」


 そこが基準なのかよとコリヌ達は思った。



「コリヌよ、主な任務の方も成功だぞ。道は完全に拓けた」


 勇者が清々しい気持ちで、にかっと笑うと、その白い歯が光った。

 どこから光が来てんだよと訝しんだが、コリヌは思い直して勇者を称えた。


「さすが勇者と呼ばれるに相応しいお方ですな。素晴らしい行動力は見習いたいものです」

「しかし今回ばかりは、俺様も自画自賛しきれぬわ。機動重機タダノフなしでは、何倍も時間がかかっただろう」


 その時、談笑を断ち切るように、勢い良く城の扉が開かれた。


「だから、人の名前に変なもんつけるな!」

「どうしたタダノフ、泥まみれだぞ」

「重くて運べず、あっいや、そのまま眠らせてあげた方がよろしいかと思いましてな! どうでしたか、私のもこもこスリッパの寝心地は!」


 コリヌは本能で、こいつを怒らせたら首が胴体とおさらばするぜと感じたため、必死に取り繕う。


 だが意外にも、タダノフは静かに、すとんと腰を下ろした。

 城の中も相変わらず、土の床である。


「ソレス、餌」


 静かだろうが、言う事に変わりはない。

 粥の入った大鍋を渡すと、タダノフはもぐもぐと飲み下した。

 勇者がお茶を渡す。


「ぷはー! 少しは腹が落ち着いたよ」


 勇者はもう、少しかよとか突っ込む気も起きなかった。

 やけに静かなのが気になり、黙って様子を伺う。

 タダノフの頬が、気のせいか赤く染まった。

 まさか毒キノコの他に、得体の知れない病気でも持ち帰ったのかと不安が湧いてくる。


「このもこもこ……大事にするね、お、おーじ様!」


 勇者はお茶を吐きだした。


「うっわ、汚いなソレスぅ。まだ体調悪いの?」

「ぼ、ぼく悪い勇者じゃないよ。悪くないワルクナイ」


 勇者は、ぶんぶんと首を振って、コリヌを見た。

 コリヌもお茶を吐いていた。

 もちろんノロマもだ。


「ちょっとソレス、変な病気でも持ち帰ったんじゃないの? 平気かい、おーじ様!」


 タダノフは、泡を吹くコリヌを肩に担ぐと、コリヌ砦へと走り去った。

 ノロマは、その様子を残念そうな面持ちで眺めていた。


(三歩歩けば忘れる体質ではなかったのだな……コリヌ殿、知り合ったばかりだが、なかなか気の利くお方であった。お達者で……)




 勇者は呆然としたまま、開けっ放しになっていた扉を閉めた。

 干草の寝床に正座する。


「ああ、なんだ。戻ったら畑作りに精を出そうかと思っていたが、次の任務は城作りにしようか。ノロマと、タダノフあんどコリヌの……ぷふぅ!」

「わ、笑ったら失礼ではないですかな? ぷひぃ」


 勇者達は、神経質な笑いが止まらなくなった。

 疲れ果てていた後に、あまりに思いも寄らない出来事が起こったのだ。

 行き倒れ君だけは、ぽかんとしたままである。


「すまんな行き倒れ君。人の幸せを笑いものにするなど下種の所業。さあ、心を入れ替えて、お城作りに励もうではないか!」

「楽しみですな。ずっと書物置き場が欲しかったのですよ」


 勇者たちは、すぐに城へと気持ちを切り替えた。


「あのう勇者さん、俺にも城を……」

「おお、今回の任務での立派な働きは評価したぞ! 行き倒れ君にも城に住む権利をやろう!」

「住む権利ってなんすか?」

「よろしく頼むぞ、勇者の配下君」

「いつの間に配下に! ってやっぱ城は駄目なのかよ」

「はっはっは。そこまで信用されたと思うなよ!」


(道を通したからには、もう暴動を起こす輩の心配はなかろう。俺様は、お城ちゃんを救ったのだ)


 そう思うと、勇者の心は自然と晴れやかになった。

 ようやく、大仕事を一つ成し遂げたのだと実感が湧いてくる。


 そうすると、新たな欲も湧いてきた。


(待っていてくれ、お城ちゃん。今度は君のお友達をこさえてあげるからね!)


 勇者は、シム領地からシムお城に興味が逸れていた。

 自重しないと、生活がままならなくなるのだが、今はストレスから介抱されたばかりなのだ。

 今くらいは夢に溺れても許して欲しいと思う勇者だった。



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