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完徹の勇者  作者: キリ卍 ヤロ
領地攻防編
102/119

第百二話 天降る文字列

(いったい、俺様にどうしろというのだ!)


 得体の知れないものが、何かを訴えようとしている。


 心当たりは、十二分にある。


 概念防御の呪い。


 しかし、呪いをかけた当のノロマが、見当もつかないものだ。


 なにをどう干渉すればよいのか、干渉できるのかも分からない。

 ノロマがいうには、呪いは曖昧なものではなく、意外と細かいという。

 ならば、祈るとか踊るとか、そういった明確なものがあるはずだった。



「勇者さーん、体操じゃなかったんすかね」


 勇者は首だけめぐらせ、ちらと冷ややかな行き倒れ君の目を見ると、誤魔化すように言い繕った。


「はは、体がうまく動かんな。久々に完徹能力を解放したせいかなぁっと」


 勇者はすぐに警戒を前方へ向けなおした。

 疲労が溜まっているのは確かだろうが、すでに勇者には、以前のような頭がぼんやりするような副作用はない。

 体への負担が軽減されているだけだから、目は順調に赤く、まぶたは腫れぼったくなっていく。

 それなのに、以前のように感覚が周囲とは隔絶されたようなふわふわ感もないし、研ぎ澄まされたままだ。


「気味の悪い踊りやるくらいなら、休んだらどうっすか」


 行き倒れ君は呆れた気持ちを隠さすことなく声をあげながら、岩場の真下まで近付いた。

 心配というよりも、夜更かししていたときでさえ、やや神経過敏になるのだから徹夜などされるとますます鬱陶しいだろうと思うからだ。


 勇者は岩場の上に立ち、海方面の真っ暗な夜空を睨んでいる。

 ふり向かずに答えた。


「ほほう、行き倒れよ。なかなかの身捌きを会得していたのだな。警戒中の俺様の背後につくとは」

「背後って……」


 岩場は頭の高さほどあり、視界には勇者の足元が入るような位置だ。

 行き倒れ君は溜息をついた。


 わずかながら背後の気配に気づくのが遅れたのは、意識を海辺へと向けつつ、不思議な声のことを考えていたためだ。

 おかしな声が聞こえるのだよ、などと人に話せるわけもないので、敵に関する心配を説明した。


「休むと見せかけ、夜陰に紛れてないとも限らん」


 念のために、小作隊や手下隊を見張りに残している。

 そんな動きがあれば嫌でも報告が来るだろうが、気になるものはしかたがない。

 相手は中央の兵士だ。闇に隠れて生きる術を体得しているかもしれないのだ。


 抗議を始めた町民らが、狙われたりしないかと心配になり始めていた。


(俺様一人に何ができる……いや、領民が暴動を起こすくらいなら、真っ先に抗い敵の熱視線を全身に集めて新感覚に目覚めることくらいはできるはずだ)


 他にないかと、歯軋りしつつ考えようにも、頭は働かなくなっていた。

 もう、考え尽くし、心は途方に暮れていた。

 情けないと弱気を振り切ろうにも、疲労感ばかりが襲う。


(助けが、ほしい……)


 自らが、助けを請いたい勇者像になると誓ったはずだった。


(そうだ、あのときのように心ぽっきりするわけにいかん。俺様だけの問題ではないのだ……踏ん張れよ俺様!)


 拳を握り締め、弱気に溺れまいと踏ん張るが、危ういものであると頭は告げていた。


 勇者の苦渋を、耳元の声が遮った。



《――繰り返します。『敵意』を、当領域へ害をなす事象と定義しました。対策が必要です……――》



 はっとして顔を上げる。


 反響なのか、言葉は何かを繰り返したようだが、そのまま掻き消えた。

 そもそも、声、だったのだろうか。

 土鈴を揺らしたように涼やかな音にも思える。


 それに、耳を直接に震わせるような、振動だった。


(確かに、幻聴があってもおかしくない状態か……仮眠でも取るべきだろうか)


 とても、眠れる気はしない。

 何か、手立ての切欠でも掴めない限りは。


「ゆ、ゆ、勇者さ……」


 行き倒れ君の、か細く裏返った声が絞り出されたが、勇者はそちらを気にする前に空に異変を感じ、見上げた。


「雨か?」


 何かがきらめいた気がして、顔を上向けた。

 岩場から天を見上げる。


 確かにきらめく何かが、落ちている。

 光が、落ちていた。


 初めは巨大な雨粒が反射しているのだと思った。

 だが、そこに水の重みは感じられないし、反射する日差しのない、夜だ。

 そして光は、水を反射するような透明な白色ではなく、金色。


 勇者の視界に、次々と文字が閃き流れ落ちていた。


 目を見開いて、さらに首をめぐらせると、金色の光は大きさを増し数を増やしていった。

 それは次第に長く筋となった。

 よく見ると短冊のように平たい。


 勇者は、眼前の非現実的な光景に心を奪われた。




 空から、言葉が降っている。

 金色の光が編み上げた言葉だ。

 初めは、ぽつぽつと、降りだした雨のように。


 無意識に読もうとして、読めない言語だと気づいた。

 よく目を凝らすと、連合国で使われる言葉との類似は見られる。


 呆然と見ていたが、その異常性に、思わず息を止めた。


「な、なんだこれは……一体、どこから。行き倒れっ見えるか、あれが!」


 振り返って見おろした行き倒れ君の顔は青褪め、指差している手はかすかに震えている。


「くっ首が、いやそんなことは、起こるわけない……っす」

「ええい急を要するのだ、はっきり言わんか!」

「白く、光ってたんすよ、首のぐるぐるが! さっきから! それも、金色に変わったっす!」

「なにぃ……っ!」


 片手でうなじにあるはずの魔術円とやらに触れるが、やはり何も変化は感じ取れない。

 ただ、言われてから意識を向けると、脈動しているように思えた。


 手はうなじに触れたまま、また空を振り返る。

 落ちては消える言葉の雨は、次第に数を増していた。


「まさか、これのせいなのか……ぬっ読める、読めるぞおっ!」


 降る言葉が増える毎に、一部分ずつ光が一際大きく煌めき、読める言葉へと次々に変換されていった。


「なんとも古めかしい表現だが……そうだ、古の言葉だったに違いない」


 文字列は変換を続け、その古めかしい表現も、見る間に馴染んだ文章へと変換を遂げた。

 勇者もよく知る、現在の連合国で定められている公用語へとだ。


「ほ、ほほぅ、面白い……いやいや、そんなことを言ってる場合でもない」


 気が動転していた。

 あまりの切迫した状況下に、妄想を幻視できるまでにいかれてしまったのだろうか。

 便利そうだが、他者に迷惑をかける可能性の高い、厄介な能力に思えた。


(能力だとかどうとか言ってる場合か!)


 目を固く閉じ、思い切り頭を振ってから、また空を見る。

 変わらず、光で描かれた言葉が見えた。


「だから行き倒れよ。あれは見えるのかどうなんだ!」

「ふぇ?」


 地面に這いつくばって、今にも吐きそうにしていた行き倒れ君は、何を言っているのかという顔だ。


「空から文字が雨あられと降っているんだ……」


 行き倒れ君の青褪めた顔は、白くなった。


「そんな非現実なことが、あって、たまるかあああっ!」


 未知なるものへの興味など微塵もない行き倒れ君には、人間の体が光るだけで忍耐の許容量を超えてしまっていた。

 しかも勇者のように妄想して楽しむ趣味もないのだ。

 到底受け入れられるものではなかった。


「現実を見ろ行き倒れぇ!」

「きもくても、現実から目を背けたりは出来ないんすよ! 根が真面目だから!」

「誰がきもいだ失敬な!」

「ともかく、首のびかびかだけでもおかしいのに、空がどうとか見えたら、気絶するっすぅ!」



 行き倒れ君は見ないふりをしているのではなく、本当に見えなかった。

 勇者がとうとう妄想の住人になってしまったかと心配するよりも、聞くだけでも気分が悪くなる空の何かとやらが見えないことに、心底安堵している様子だった。


 行き倒れ君は、目に見えない事象の存在を認めていない。大自然の起こすことに首を傾げるようなことがあるのは受け入れていたとしてもだ。

 そこだけは勇者と同じ感性だったようだ。


(だが、夢物語よ、お前は別っす……人間の後ろ暗い妄想から何かが生まれるなど御免っす!)




 行き倒れ君は、頭を抱えて地面に伏したままだ。勇者にも、どうやら嘘ではなく見えないらしいことは分かった。

 だったらと、また見上げる。


(しまった、読めるようになったなら、内容を追うべきだった)


 空に集中しようとするが、雑念が混ざる。


(なぜ、どうして、こんなことが……そうだった首の光か)


 首の模様がある辺りに、意識を向ける。

 そして小心者能力解放と同じように、本気で集中力を注いだ。


 その途端、言葉の雨は霧散した。

 いや、空が埋まった。


「ちがう……降っているのでも、ない、のか」


 光の言葉が見えていると思ったが、今度は、目を閉じても同じものが見えた。

 それは、視界に存在しているのではない。


 頭の中と外の境が分からないが、現実とは異なる空間が作られ、そこに情報が溢れている。

 異界だか異空間だかが存在するのだろうか。


 違う――また、そう否定するような言葉が浮かんだ。



 勇者はぐるりと辺りを見回した。

 足元の岩場の感覚は、足の裏にはっきりとある。

 吹く風が髪を通り抜け、肌は空気の冷たさを感じている。


 だというのに、別の空間が同時にある。

 そして、その空間の全ても、知覚できていた。


「これは、なんぞ超感覚にでも、目覚めてしまったというのか……ならば、把握してみせようではないか」


 怖れずに、勇者は神経をその空間の隅々へと走らせた。

 散々に怖れて混乱してあわあわしてきたのだ。

 ここで正体を見てやると鼻息を荒くした。


 何よりも、心の底から、現状を打開する手立てを欲していた。



 勇者の命令を受け、意志を持った光の粒が稲妻のように走り、空間をなぞる。


(ふおぅ……分かる分かるぞ、光の粒々がお触りした感覚がっ!)


 一瞬で空間を駆け抜けた光がもたらした情報、それが知らせる形状に、思い当たることがあった。


「俺様の、領地?」


 空間の端に意識を飛ばす。

 それをなぞりながら、海の道海岸辺りに目を向けた。

 遠すぎて見えるはずはないのだが、その場に立って見ているような感覚だけがある。

 領境を表す境界線上には、地面から天までを遮るように、光の垂れ幕が揺らめいていた。


「この空間の範囲は、確かに勇者領……」


 その感覚に馴染むと、霧散したと思っていた光の言葉も、また実態を浮かび上がらせた。

 それは、そっけなく呼ぶなら報告書だ。

 ここに住む決意をし、ノロマの呪いを施してからの、この地の記憶だった。


 勇者は意識を、光の記憶に飛び込ませた。




 それは過去に起きたこと、そして呪いが施したことの解説だった。



《――ノンビエゼ領を基軸に、マヌアニミテ領、ルウリーブ領を介し、概念防御機構を構築するための基礎領域を展開しました――》



《――基礎領域を定義するための紐付けを行います。ノンビエゼ領、領主ソレホスィ・ノンビエゼを認識、登録しました。補助動力にマヌアニミテ領、領主タダノフォロワーダ・マヌアニミテを認識、登録しました。ルウリーブ領、領主ノロマイス・ルウリーブを認識、登録しました――》



《――認識した対象に証紋を設定します。設定完了しました。基礎領域は正常に定着しました。基礎機構が実装されました――》



 体に落書きが現れた、めちゃくちゃ痒かった日が頭を過ぎる。


(まさかな、そんなわけないない……ははっ)


 勇者は震える。

 想像上の友達と分かっていながらそれが実際に現れれば、冷や水を浴びせられた気持ちになるだろう。幻聴が起こるほどいかれてしまったのかという恐怖、はたまた感動のためか、武者震いか。


 現実逃避しかけたが、思わぬ言葉が飛び込んできた。



《――概念防御機構の基礎機構制御のための施錠機構を設定します。錠には当ノンビエゼ城を、鍵を当主に定義しました――》



 思わず瞬きを繰り返した。

 今さらながら、己の見ているものに疑念が生じる。


(当ノンビエゼ城、だと……っ!)


 頭の中も、胸の内も、暴風が吹き荒れたように渦巻いている。

 必死に答えを探しているのだ。

 それも否定するための答えを。

 常におかしな妄想をしているからこそだった。

 超常現象などありえないし、世の理に反するようなことがあってはならない。


 ならば答えは一つ。


(俺様の頭がやばい!)


 無制限に妄想遊びに浸っていたせいで、一線を踏み越えてしまったのだろうか。



《――概念防御を構築する、情報集積機能を設定します。負荷回避のため、基礎機構から分離します。情報集積のための仮想領域を設定しました。自動制御に移行し情報取得を開始します――》



《――環境を記録します――》


《――新たに条件が設定されました。作物の安定した生育を追加します――》

《――新たに条件が設定されました。作物の収穫量を一時的に増加させる、を追加します。必要な情報を取得します。土壌の改善が必要です。土壌の変化を記録します――》

《――作物の生育の安定が追加されました。必要な情報を取得します。土壌の変化を記録します。以降、新たな農地に自動的に適用されます――》



《――仮想領域を流用し、特定仮想環境による訓練場を生成します。障害物の基礎情報群『大地の精霊』を設定します――》




 勇者は流れ落ちる言葉を、呆然と眺める。


 妄想、とばかりも言えない。


 認めたくない幾つもの事実を思い返した。

 体に妙な模様が現れたのは、勇者にだけではない。

 目の色も変化したそのときには、妙な光を発した。

 妙な地面の微細動もあった。

 それは、コリヌ達だって目にしているのだ。



 そして、常にそれらの中心にあったものは――城。



「まさか、そんな、本当に……お、お城ちゃんなのか?」


 勇者は息を呑んで見上げた。

 どこに視線をやれば良いか分からず、目は泳ぐ。

 不安に襲われていた。


 勇者の不安は、あまりに麗しいお城ちゃんに入れ込みすぎたために、妄想の中で人のような姿に化かしてしまうなどといった恐ろしい望みを抱いてしまう過ちをおかしてしまっていたのか、ということだった。


(ちがうんだ……断じて違う! 俺様は、人間という自分の姿と違うからといって、お城ちゃんを人間にしたいなどという傲岸不遜なことは望んでいない!)


 こみ上げる熱い衝動が口をついて出る。


「俺様は、そのままのお城ちゃんが……!」


 そう言いかけて、違和感の正体に気が付き、慌てて辺りへと感覚を研ぎ澄ませた。


 やはり、はっきりと言葉を話しているのではなかった。

 ちかちかとした何かの信号が、どこからともなく勇者の耳だかなんだかに浸透し、勇者に理解できるよう言葉を話していると誤解させている。

 そんな変換をしている。

 そうとしか言えない感覚だった。


 どこからと考え、片手がうなじを撫でる。

 分かっていても忘れてしまう。

 実際に振動するなどの異常はない。

 触れると、手の平にぴりぴりとした感覚は確かにあり、それが言葉に変換していることは伝わった。


 何故、俺様はうなじなどという自分で見えない場所に模様が出たのか。

 そう心中で問うていた。


 それは、人体の内、命に関わる重要な部分。そして防御機構の主軸にふさわしい位置――そんな答えが返ってきた。


 ではなぜ妙な模様なのだ――呪文と名付けられたもので、媒介者を通し実際の効果へと変化、顕現させる機構です。


 胸中の独り言に、これまた自分の中から独り言が返す。

 よく感覚を確かめると、それは胸中からでも頭の中から響いているのでもない。

 そうとしか言いようがないほど近しいところで、言葉となっている。


 空中に見える文とも、意図を伝える声とも違っていた。

 用途によって、信号は使い分けているようだ。


(おおお俺様は、一体何者になってしまったのだね……)


 背を反らし、盛大な深呼吸をする。

 混乱が突き抜けて、落ち着きが戻っていた。

 勇者はまた空を見上げ、埋め尽くすように舞い落ちる文字列を追った。




《――基礎領域に新たな条件が設定されました。基礎防御概念に入力された『理想の勇者像』を適用します。優先順位を引き上げました。肉体強化補助を行ないます。以降、全ての当主へと自動的に付与されます――》



 そうだ、あの時から、心強さが増していると感じていた。

 報告とともに、霧が晴れていく。勇者は、目が開けていく気分でいた。



《――当主の思考補助に使用する仮想領域を確保します。推論の検証を開始します――》


《――基礎領域が『平地』に拡大されました。環境を記録します――》


 鶏さんたちから領地を渡された時が、頭をかすめた。


《――基礎領域が『平地』全体に拡大されました。環境を記録します――》


 次には平地を全部任されたとき。


《――基礎領域が『岩山』に拡大されました。環境を記録します――》


 水源周辺だ。



《――水、周辺の影響を分析し対策を設定しました。地盤の強化を始めます。随時影響を観察し、情報を反映します。側溝からの透水性を遮断します――》


《――風雨の威力から一時的に居住区域及び農地を保護します――》

《――外敵の脅威を監視する目を強化します――》

《――……から……します――》

《――生涯を、共に……――》

《――……――》




 記録は光の粒が集まった滝となり、勇者の体へと飲み込まれていった。

 勇者の感覚として、そう思えた。


 声を形作っていた振動も、途切れると火の粉のように弾け、光の一部となり消えていた。


 そして、静かな空間に勇者は取り残されていた。




「本当にこれまでの、記録なのか……そして、これからは、俺様の一部と、なる」


 もう、あの声は聞こえないのだろう。

 ぼんやりとそう思った。


 いや、ぼんやりといえど、己の内から出てきた答えなら、これは事実を伝えているのだ。

 ほんの少し、物寂しさを感じる。


「だめだ、寂しいだのと。俺様が共にありたいと願ったから、お城ちゃんは応えてくれたのだ」


 お城ちゃんの言葉はまるで走馬灯だった。

 光の洪水の如く次々と、この地で過ごした日々が綴られていた。

 お城ちゃん視点でだ。


 見守ってくれていたのだ。

 ずっと力を貸し、支えてくれていたのだ。

 熱くなる目頭を冷ますように、勇者は目を細める。


 これ以上ないほどに頼もしく、力強い助けだ。

 行動をするのは勇者自身でなくてはならないが、その背をお城ちゃんは確実に見守っていてくれるのだ。


「さすがは謙虚なお城ちゃんよ。力を主張しない控えめなところが、なんともいじましい」


 うむ、と頷くと、勇者はまた岩場からあたりを見渡した。

 不思議な感覚があるこの世界は、勇者の守るべき領地であり、勇者は離れてはいけない場所なのだ。


「そろそろ魔界から去り、現世へと戻ろうではないかね」


 勇者はうなじの模様へと意識を向け、領内を知覚できる視界の解除を念じた。


 涼やかな風がごうと頬を撫で、瞬きして見上げると、夜の帳が下りていた。



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