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夏の暑さはやる気を奪う

「暑いわねー」


 カオリは床に伏して、力無く手をパタパタと動かしている。


 まだ六月だというのに、この地域の気温は三十度を観測し、真夏日となった。

 梅雨の時期だというのに、そんなことお構い無しに、窓から入ってくるカンカン照りの日差しは、家の中にいても日焼けしそうな勢いだ。

 外では近所のおばさんが水打ちをする音が聞こえて来たが、焼け石に水だろう。いや、焼けアスファルトに水か。こんなつまらない事が思い浮かぶくらいに、俺も暑さに頭をやられてしまった。せめてもの救いは、今日はバイトのシフトが入っておらず、この炎天下の中外出しなくていい事だ。


 熱さに対しなけなしの抵抗を見せるカオリとは別に、チヒロは部屋の隅で座禅を組んでいる。本人曰く、『心頭滅却すれば火もまた涼し。だから、暑さを感じぬ様、瞑想をする』との事だ。


 カオリのストレートな感想に酸素が物申す。


「あら、暑いのはどこぞの温室効果ガスさんのせいでは無いかしら」

「随分な物言いね。暗に私のせいといいたいのかしら?」

「何を仰いますの? 誰も貴女のせいなんて言っておりませんよ。ウフフ」


 酸素は含みのある笑い声を漏らした。


「喧嘩はよそうぜ。それよりも酸素、お前名前決めて無かったよな」


 正直喧嘩の仲裁の口実だが、酸素は言葉による攻撃を中断し、振り向いた。


「名前? 何の事ですの?」

「いや、酸素と呼ぶのも何か素っ気ない感じするし、カオリやチヒロみたいな名前を付けてやろうと」

「喜んで! 司さんに名前を賜るなんて、私の身に余りある光栄です」


 酸素のいちいち過剰な反応に、プレッシャーがのしかかるのを感じた。俺はどこぞの聖人君子じゃないんだぞ。


「うーん、酸素……さんそ、さん……サン、太陽……じゃあヨウコで」

「こじつけすぎないかしら? 連想ゲームじゃないんだから」

「お黙りなさい、このぺったんこが。私は司さんから名前をありがたく頂き、今日よりヨウコと名乗らせて頂きます」


 本当は俺もカオリ同様、こじつけ過ぎたかと思ったが、気に入って貰えて何よりだ。


「ぺ、ぺったんこ……」


 カオリは安易に口出ししたために、ヨウコの暴言によって深い傷を受けてしまったみたいだけど。

 カオリは自分の胸と、ヨウコの胸を見比べ、自分の胸を撫で下ろしていた。


 それにしても暑い。

 昨日アレを買ってきたのは正解だったな。


「皆に朗報があります。ここに四人分アイスがあります。種類は全部同じだから仲良く分けろよ」


 買ってきたのは、夏に食べたくなる棒アイスだ。


「アイス!?」


 意外にも、真っ先に反応したのはチヒロだった。心頭滅却はどうした。


「うーん、たまらないわー」


 カオリはもう食べ始めてるし。


「じゃあ、俺も。ほら、ヨウコの分だ」

「私は最後に頂きますわ」


 俺より先に食べるのが悪いと思っているのだろうか。そんな事気にしなくていいのに。


 皆美味しそうに食べているところを見ると、つくづく思う。

 空気少女の相手は疲れるが、これからも変わらずいて欲しい……と。


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