彼女たちの使命
京都から帰った翌日、俺とカオリとの関係はぎすぎすしっぱなしだった。なにせ告白した奴とそれを振った奴が一緒にいるんだから至極当然だが。とはいえ、このままと言う訳にもいかないので、きっかけ作りにと俺は約束通り昨日言おうとしていた事を話してもらおうとカオリに詰め寄った。
「で、昨日言おうとしていた事は何なんだ?」
「私……ううん、私たちね、消えちゃうかもしれないの。いや、消えちゃう」
カオリは最後の方を消え入りそうな声で訂正した。
「何を根拠にそんな事を」
「私たちは司の願望に応える為に生まれてきたの。司を幸せにする為に」
思い出した。俺はカオリと初めて会った夜、彼女を望んでいた。とはいえ、それは手段の一つでしかなく、本当は幸せを望んでいたのかもしれない。いずれにせよ、その時、神の意思とでも言うべき力によってカオリが現れたのは間違いないのだ。
「ってゆーと、何だ。お前らは空気っつーのは嘘で神の遣いみたいな物なのか?」
「ううん、空気って言うのは本当。でも、私の人格はこの二酸化炭素という器にあてがわれた物なの。……それでも、私の司への気持ちは本物だと信じたい」
「カオリ……」
「でも、もう心残りは無いわ。司はこれから大学に合格して、いい会社に入って、素敵な奥さんを見つけて、立派な人生を歩むんだから、私のつけ入る隙なんて……」
カオリは途中から声が震えていた。それでも涙を見せまいと背を向け声を絞り出す。
「消えないさ」
「えっ?」
俺は震えるカオリの肩をそっと抱いた。
「俺が消させない。例え消えてもまた見つけ出す。だから、そんな事言うな」
「司……」
「それにお前はまだ消えてない。いつになるか分からないなら今ある日々を楽しもうぜ」
「ええ! ありがとね」
カオリは無邪気な満開の笑顔をこちらに向けた。いてもたってもいられなくなり、俺がかがんでカオリと目線を合わせる。
「司?」
「目ェ閉じろ」
今度は俺から、二度目の口づけを交わした。長く、熱い口づけだった。




