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来訪者は突然に

 若々しい緑たちが徐々に紅く染まり始めた九月半ば、そんな季節の移り変わりを気にする暇も無く勉強に明け暮れていると、不意にインターホンが鳴った。


「誰だ、こんな集中してる時に」


 とはいえ、突然の来客に集中力が途切れてしまったので、受話器を取るために立ち上がる。などと、のんきに構えていると、絶え間無しにドアのノック音やインターホンのチャイムが鳴り響いた。


「うっせーな! 今出るから静かにしやがれ!」


 よくよく考えてみれば、俺の知る人間で我が家を訪ねてくる人物はそうはいない。嫌な予感を頭に巡らせインターホンに出ると、その予感は的中した。


「よう、司。さっさと鍵を開けやがれ」

「今行くよ、親父」


 そう、今玄関のドア越しにいるのは俺の実父、茨木慎司(しんじ)だった。

 俺はドアを開け、親父と一年と数ヶ月ぶりの再開を果たした。と、字面だけみれば感動的にも思えるが、実際は何の風情も糞も無い。


「で、いきなり何の用だよ。ドアを壊しかねん勢いで叩いて急用なのか?」

「せがれの顔を見るのに用が無きゃいけねぇのか」

「少なくともあんたはな」


 自分から追い出しておいてその言い草は無いだろう。親父の顔を殴ってやりたかったが、俺のルックスはこいつの遺伝子の賜物であり、その恩を仇で返す様な真似はぐっとこらえた。


「まあ強いて言うならそうだな、先日敬老の日があったってのに愚息から何の音沙汰も無えんだ。だから家族サービスでもしろよ」

「敬老って、老って年齢でも無いだろうに」

「何を言う。お前だって数年すりゃあ結婚適齢期だろう。お前がさっさと子供作ればこんな甘いマスクの俺だってジジイだ」


 我ながら的確なツッコミを入れたと思ったのだが、この親父ノーダメージである。


「もう、何ですの? さっきから騒がしいですわね」

「あ、ヨウコ」


 ヨウコの不満はもっともである。それも九割方ここで硬直している愚父のせいなのだが。……ん?


「どうした、親父。そんな固まって」


 親父は体を震わせながら何も無いはずの空間を指差す。


「いや、司。俺も早く孫の顔は見たいが……いくらなんでもそれは犯罪だろう」


 何も無い……はずだった。少なくともこの場で俺以外には。


「親父……見えてんの?」

「見えてる? 何かよう分からんが問答無用だ!」

「ぐええっ!」

「ああ、司さん!? 何という事ですか!」


 俺は親父の蹴りをもろに受け、目の前が真っ暗になった。

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