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アリスの日常

 梅雨も明け、もう七月になりました。窓から差す夏の日差しは、絨毯を燃やしそうな程暑く、ボクもみんなも気が滅入っている。とはいっても、ボクが気が滅入っているのは他の理由もあるんだけどね。


「はあー……」

「どうしたのよ、アリス」


 ボクが溜め息を吐いていると、カオリが掃除機を持ってやってくる。


「カオリ、掃除は終わったの?」


 カオリは司さんの秘密を垣間見てしまったがために、七月からヨウコと入れ替わりで家事をやらされている。


「……。ま、まあ終わってるわ」


 カオリは目を逸らしながら言う。嘘だとバレバレだけど、せっかくの厚意なのでボクは相談してみようかと思う。


「あのさ……」

「何よ、歯切れ悪いわね」


 カオリは急かすけど、ボクの性格上、これをあまりストレートに訊くのもどうかと思うんだよね。けれど、話すと決めたんだし、カオリを待たせちゃ悪いか。


「ボクってさ――影薄くない?」

「そうね」


 カオリはボクの疑問をたったの三音で切り捨てた。


「そんなあっさりと……。別に目立ちたい訳じゃ無いんだけどさ、ボクって銀髪紫眼っていう見た目に、ボクっ娘という個性を持ってるにも関わらず、一人だけ埋もれちゃってる気がするんだ。司さんにもよく存在が忘れられるみたいだし」

「確かに。まあ、他の空気、特にヨウコがキャラ濃いし、あんたは控え目だものね」

「どうすればいいのかな?」

「あら、そのままでいいんじゃない。だって個性っていうのは、見た目とか口調みたいな形じゃなくて内面に宿る物よ。あんたの控え目なところ、慎ましさは長所なんだから、気負わずむしろそれを伸ばせばいいじゃない」


 ボクはカオリの言葉に深くうなずいていた。ボクの控え目さは長所か。考えもしなかった。周りが個性的で、ボクはいつの間にか集団心理に流されていたらしい。


「ありがとう、カオリ。おかげで頭がすっきりしたよ」

「どういたしまして。でも、私に感謝するなら司にも感謝するのよ」

「司さんに? どうして彼の名前が出てくるんだい?」

「本当、何も分かってないのね。そもそも、私たちが存在出来るのは司という観測者がいるおかげなのよ。そうでもなければ私たちだって会話さえ出来ないし、あなたの悩みはとても贅沢な物よ。司には私を見てくれている事に感謝しているわ」

「ずいぶんと入れ込んでいる様だけど、よっぽど好きなんだね、司さんの事」


 ボクの発言に、カオリは急に顔を紅潮させて、慌てて否定した。


「ば、ば、ば、馬鹿じゃないのっ! そんな訳無いでしょ、あんな万年フリーター!」

「ハハハ、万年フリーターはやめてあげなよ」


 フリーターは事実だけど。もしかしたらフリーターじゃ無くなるかも知れないしね。


 いやあ、カオリは照れ屋なのに馬鹿正直だけど、とても頼りになる存在だ。

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