フリーター>ニート
俺はいつもの様にバイトで商品を受け取り、バーコードを読み取って会計をする。けどいつも以上に仕事に身が入らない。というのも、預金が一般男性が一生に稼げる給料分ぐらいの桁に及び、バイトの必要性が無いんじゃないかと思い始めたからだ。
「ありがとうございましたー。いらっしゃいませー」
並んでいる客の商品をスキャンするにも、どうにもバーコードスキャナが重く感じる。俺は黙々と作業を進めていると、商品を落としたり、会計を間違ったり、とミスを連発した。
「大変申し訳ございませんでした。ありがとうございました、またお越しくださいませ」
そして、何度も客に頭を下げる事になった。
「茨木さん、どうしたんですか? 今日は普段以上におかしいですよ」
後輩君が心配してくる。まるで普段もおかしい様な言い草だが、こいつの毒舌にもなれたもんだ。
「ああ、後輩君か。ちょっと悩み事がね」
「そろそろ名前覚えてくれないと我慢の限界ですよ? というか、この前新しく入った日比谷さん、普通に呼んでましたよね? もしかしてわざとやってます?」
「いや、わざとじゃないけど。名前なんだっけ?」
どうも覚えられないんだよなー。名前が地味なせいかもしれない。
「名札に書いてあるでしょうが!」
後輩君が大声を出したせいで客が全員こっちを見た。それに後輩君はやってしまったという顔をした。
「……あっ、すみません。僕は斎藤亮ですよ。まあ、いいです。何かあったら早めに相談してくださいよ」
「今日は優しいんだな」
「別に、茨木さんにはお世話になってるので当然でしょう。それに困った時はお互い様ですよ」
「俺はいい後輩を持ったよ。えーっと……佐藤君?」
「斎藤です。僕は手を焼く先輩に当たったものです」
斎藤君は本当にいい後輩だ。こうやって毒を吐きながらもちゃんと心配してくれる。
お金には困らないけど、まだここで働いてみるか。フリーターから無職というのも情けない。人生は長いんだから……。
「ところで茨木さん。結局何を悩んでたんです? 解決したのか、途中から調子良くなったみたいですけど」
「ふふふ、秘密だ」
お前がいい奴だから当分ここで働くなんて歯が浮くセリフは言えないな。俺ははぐらかすようにニッと笑って見せた。
タイトル詐欺だって?
ヒロインが全く出ない回があったっていいと思います。




