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2062年4月13日
早朝5時に辻井家のインターフォンが鳴り、沙希が家の前に来たことを告げている。
早朝6時という早めの集合時間だったので、念のためそれよりも少しだけ早い5時45分に向こうに到着するようにしようという話になり、沙希が椋の家を訪ねて一緒に出発、真琴とは駅のホームで落ち合うことになった。
沙希を待たせるわけにはいかないので、準備しておいた鞄を背負い、急いで玄関に向かう。
服装は自由とあったので、とりあえず中学の制服を着ている。
靴を履き、ひもを締めている途中に、後ろから母の声が聞こえる。
「行くんですね?」
振り向き彼女の顔を確認すると、いつものような固い顔が崩れ、少しさびしそうな顔をしている。
最近京子が椋に対してみせる表情のバリエーションが増えてきている気がする。
「うん。いってくるよ」
時間がないので簡単に済ます。どうせ今日は帰宅するはずなので、別れの言葉は必要ないと感じていたからだ。
「気を付けて、がんばってらっしゃい」
それだけ言うと彼女は踵を返し、自分の書斎へと向かって言った。
彼女とこうやってまともに会話できるようになったのもフールのおかげである。
完全に修復されたとはいかないが、劇的な改善ではあった。
(行ってきます……)
と心の中でもう一度だけ言うと、紐を結び終えた靴で歩き勢いよく玄関のドアを開けた。
外には、同じく中学のころの制服を着た沙希が待っていた。
ベルを鳴らしてから、それほど時間は立っていないはずだが、彼女は少しふくれっ面になっていた。
「遅いよ、椋」
軽いが、それなりに誠意をこめた謝罪と共にあいさつを交わす。
「ごめんごめん、おはよう、沙希」
「うん。おはよう、行こっか」
そのまま二人で駅までの長い道を歩いていく。
ようやく厳しい修行週間を終え、入学式の日を迎えた。
今思うとこの一週間は貴重な物であった。
《隠者》の正の能力者との出会い、能力の使い方のコツとを教えてもらった上に、《愚者》の目的の1つを達成することもできた。
そのほかにも、空いてる時間を使い、沙希と真琴3人で準備のための買い物を楽しんだりなどなど、結構忙しい日々でもあった。
二人でまだ少し肌寒い道を歩きながら、どうでもいい日常会話を楽しむ。
中学生のころと変わらない風景だった。
家から駅まではそう遠くないので、すぐに三人になるわけで、この二人だけの時間というのは結構貴重なものなのだ。
その時間を存分に満喫したのち、駅に到着するとすぐに真琴を探す。彼女曰く、そんなに目立たないところにはいないはずだという事なので、それっぽいところを探す。
誰もいない駅で、一人ぽつんと立っている真琴を探すのにあまり苦労はしなかった。




